IHI「配水支援ツール」公開、農業水管理を可視化し送水依頼39%削減を実現

[更新]2025年11月11日

IHI「配水支援ツール」公開、農業水管理を可視化し送水依頼39%削減を実現 - innovaTopia - (イノベトピア)

株式会社IHIは、農業地域における水管理の効率化を支援する「配水支援ツール」の情報提供Webサイトを新たに開設した。

配水支援ツールは、基幹的な農業水利施設における配水量の過不足状況を可視化し、最適な水配分の調整案を提示することで、現場の水管理業務の効率化を支援する。2024年度には滋賀県内の土地改良区の協力のもとで実証試験を行い、農業従事者からの送水依頼件数が39%削減され、土地改良区職員の現場対応の負担が軽減された。また、職員の現場移動に伴う車両運転距離も19%削減され、燃料費の節約につながった。

配水支援ツールは、農地の条件に応じて管理目標水量を設定し、水管理システムの記録データや水源情報をもとに供給水量を算出する。用水路の系統図を表示し、配水が不足しているエリアを赤色で強調表示することで、地区全体の配水状況を一目で把握できる。

From: 文献リンク農業現場の負担を大幅軽減、水管理効率化のための「配水支援ツール」情報提供Webサイトを新たに公開 | 株式会社IHI

【編集部解説】

今回IHIが公開した配水支援ツールは、日本農業が直面する深刻な人手不足問題への実践的な回答として注目に値します。

農林水産省のデータによれば、基幹的農業従事者の平均年齢は68.7歳に達しており、全産業平均の43歳を大きく上回っています。土地改良区の職員も例外ではなく、人員確保が困難な状況が続いているのが現状です。このような背景において、熟練者の経験や勘に頼っていた水配分業務をデータドリブンで行えるようにした意義は大きいでしょう。

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排水支援ツールのイメージ(出所:IHI公式)

実証試験で得られた数値が示す効果は具体的です。送水依頼件数39%削減、車両運転距離19%削減という結果は、土地改良区職員の業務負担軽減と環境負荷低減の両面で成果を上げています。特に注目すべきは、経験の浅い職員でも熟練者と同等の配水調整が可能になる点です。これは技術継承の課題解決にも寄与する可能性があります。

このツールの技術的な特徴は、配水の過不足を赤色で視覚化し、支線間での調整案を自動提示する点にあります。IHIは英語版の技術資料で「Water Distribution Master」という名称でも紹介しており、経験と勘からデータ駆動型管理への移行を掲げています。用水路の系統図表示により地区全体を俯瞰できる設計は、限られた水資源の最適配分を実現する基盤となるでしょう。

市場調査会社IMARC Groupのレポートによれば、日本のスマート水管理市場は2024年に12億米ドル、2033年までに20億米ドルへの成長が予測されています。気候変動による干ばつリスクの増加、インフラ老朽化、そして政府のSociety 5.0推進といった要因が市場拡大を後押ししています。IHIのツールは、こうした市場環境の中で、農業分野における実用的なソリューションとして位置づけられます。

今後の展開として、他地域への横展開や、気象予測データとの連携による予測精度向上などが期待されます。ただし、導入コストや既存システムとの統合、データセキュリティといった実装面での課題には引き続き注意が必要です。

【用語解説】

配水支援ツール
農業用水利施設における配水量の過不足を可視化し、最適な水配分の調整案を自動提示するデジタルツール。経験と勘に頼っていた従来の水管理業務をデータ駆動型に転換し、熟練者でなくても適切な配水調整を可能にする。

スマート農業
ロボット技術やICT、IoTセンサー、AI、ドローンなどの先端技術を活用して、農作業の自動化・省力化、データに基づく精密な栽培管理を実現する次世代農業の形態。人手不足や高齢化といった日本農業の課題解決に向けた取り組みとして注目されている。

【参考リンク】

IHI 配水支援ツール 公式サイト(外部)
配水支援ツールの機能詳細、導入メリット、実証試験結果などを掲載。土地改良区や自治体向けの情報提供サイト。

株式会社IHI 公式サイト(外部)
1853年創業の総合重工業メーカー。エネルギー、航空宇宙、社会基盤など幅広い分野で事業を展開。

IHIing – 水資源マネジメント(外部)
配水支援ツールを含む、IHIが取り組む水管理ソリューションや防災関連技術を紹介。

全国水土里ネット(全国土地改良事業団体連合会)(外部)
全国の土地改良区を束ねる組織。土地改良事業の概要、農業水利施設の役割などを発信。

【参考記事】

CORE.tech – 見えないニーズをつかみ 見える化で水管理を支援(外部)
配水支援ツール開発の背景、現場のニーズ、技術的アプローチなどプロジェクトの詳細を解説。

日本のスマート水管理市場規模は2033年までに20億米ドルに達すると予測|年平均成長率6% (外部)
スマート水管理市場の動向と今後の成長予測についてまとめられている。

【編集部後記】

農業現場の水管理という、一見地味に思える分野にも、データやAIの力で大きな変革が起きています。IHIの配水支援ツールは、ベテラン職員の経験と勘を可視化し、誰もが使える形に変えようとする試みです。

私たちの食を支える農業インフラを、次の世代へどう引き継いでいくのか。この問いに対する一つの答えが、こうした技術にあるのかもしれません。皆さんは、テクノロジーと農業の未来について、どのように考えますか?

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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