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NASA式・宇宙での洗髪方法とは?ISSのQOLを支えるリンス不要シャンプーと究極の水リサイクル技術

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年8月4日、米航空宇宙局(NASA)は、宇宙飛行士ニコル・エアーズが国際宇宙ステーション(ISS)内で洗髪する様子のビデオを公開した。

地上約400kmの微小重力環境にあるISSでは、機器の故障を防ぐため液体や粒子の管理が重要となる。2025年3月からISSに滞在するエアーズは、一方向弁付きの水のパウチで髪を濡らし、リンス不要シャンプーとコンディショナーを使用して洗髪した。水滴の飛散防止のため、水のパウチは頭皮に直接押し当てて使用された。洗髪後の水分は船内の水分再生システムによって回収率約98%で再生され、再び飲料水などとして利用される。

From:文献リンクHow the heck does an astronaut wash their hair in space? Here’s how

【編集部解説】

注目すべきは、宇宙での「制約」が新たな「工夫」を生み出している点です。地上のようにシャワーで水を流せない微小重力下では、水は貴重な資源であると同時に、精密機器を脅かすリスクにもなり得ます。そこで生まれたのが、一滴の水も無駄にせず、かつ飛散させないための「水のパウチ」や、すすぎを必要としない「リンス不要シャンプー」といった技術です。これらは単なるアイデアグッズではなく、極限環境で人間が文化的な生活を送るための必然的なイノベーションと言えるでしょう。

このニュースの真価は、国際宇宙ステーション(ISS)での生活改善に留まりません。我々の視線は、すでに月面での長期滞在を目指す「アルテミス計画」や、その先の火星探査へと向かっています。数ヶ月から数年に及ぶミッションにおいて、クルーの心理的ストレスをいかに軽減し、パフォーマンスを維持するかは最重要課題の一つです。食事、睡眠、そして今回の洗髪のような衛生管理は、人間の尊厳と精神の安定に直結します。宇宙で「当たり前」の日常を再現する技術こそが、人類が宇宙で「暮らし」、文明を築くための礎となるのです。

さらに重要なのは、これらの技術が我々地球上の生活にもたらす恩恵です。宇宙用に開発された究極の節水・リサイクル技術は、水不足に悩む地域や、災害時の避難生活におけるQOL維持に直接応用できます。また、医療や介護の現場で、身体を自由に動かせない方々のための衛生管理技術としても大きな可能性を秘めています。宇宙開発は遠い世界の出来事ではなく、地球上の課題を解決するための先行投資でもある、という視点を持つことができます。

ニコル・エアーズ宇宙飛行士が語った「この水は明日、誰かのコーヒーになる」という言葉は、資源が完璧に循環する未来の社会システムを象生しています。人類の進化とは、ロケットの性能向上といった華々しい技術革新だけを指すのではありません。宇宙という究極のサステナブル社会で試される一つひとつの生活技術こそが、我々自身の未来を形作り、人類全体の進化へと繋がっていくのではないでしょうか。

【用語解説】

微小重力(Microgravity)
国際宇宙ステーション(ISS)内のように、重力の作用が地上に比べて極端に小さい状態。物体は無重力のように浮遊し、液体は表面張力によって球状になる性質を持つため、あらゆる作業に地上とは異なる工夫が求められる。

リンス不要シャンプー(No-Rinse Shampoo)
水によるすすぎを必要としないシャンプー。水分を素早く蒸発させる成分や、汚れを浮かせてタオルで拭き取りやすくする成分が含まれている。宇宙空間での節水はもちろん、地上の医療・介護現場や災害時にも活用される。

水分再生システム(Water Recovery System)
国際宇宙ステーションの環境制御・生命維持システム(ECLSS)の中核をなす装置。乗組員の尿、汗、船内の空気中の水分などをすべて回収・ろ過し、極めて高い純度の飲料水として再生する。これにより、地上からの水の補給を大幅に削減できる。

【参考リンク】

  1. 米航空宇宙局(NASA)(外部)
    米国の宇宙開発を担う連邦政府機関。ISSの運用やアルテミス計画を主導する。

【参考動画】

【参考記事】

Environmental Control and Life Support Systems (ECLSS) 
NASAによるECLSSの公式な技術解説ページ。「水再生システム」「空気再生システム」「酸素生成システム」の3つの主要コンポーネントで構成されていることを説明している。

【編集部後記】

宇宙での洗髪というささやかな工夫の中に、壮大な未来へのヒントが隠されていました。私たちの暮らしの中にも、当たり前すぎて見過ごしているだけで、実は未来を大きく変える可能性を秘めたテクノロジーの種が眠っているのかもしれません。

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