欧州気象衛星開発機構(EUMETSAT)のMetOp-SGA1衛星が2025年8月14日、アリアン6ロケットによって打ち上げられた。
この衛星は異常気象の早期警報を目的とし、今夏ヨーロッパ全域で発生した熱波を受けて開発された。MetOp-SGA1は米国主導の共同極軌道システムへのヨーロッパ初の貢献となり、北極と南極間の軌道に投入される。
衛星には6つの監視機器が搭載され、既存のIASI衛星の2倍の精度を持つ。海洋と陸地の温度、大気中の水蒸気と温室効果ガス、砂漠の砂塵量、雲量を監視し、嵐、熱波、その他の災害の早期警報を可能にする。
EUMETSAT事務局長のフィル・エバンス氏によると、異常気象は過去40年間でヨーロッパに数千億ユーロのコストと数万人の犠牲をもたらした。今回の打ち上げはアリアン6による昨年7月の初飛行以来3回目で、アリアン社は今後数年間でクールーから32回の打ち上げを計画し、年間9から10回の実施を目指している。
From:Next-gen satellite delivers early warnings for extreme weather events
【編集部解説】
今回のMetOp-SGA1衛星の打ち上げは、ヨーロッパの気象観測技術において大きな転換点を示しています。特に注目すべきは、搭載された6つの観測機器の精度が従来比2倍に向上している点です。
この衛星に搭載された次世代赤外大気サウンダ(IASI-NG)は、従来の約8,000チャンネルから18,000チャンネルに大幅に拡張され、より細かな大気の状態を監視できるようになりました。また、ドイツが開発したMETimage多分光カメラも搭載され、雲の高度、構成、水滴サイズまで詳細に分析することが可能となります。
技術的な進歩の背景には、気候変動による異常気象の増加があります。MetOp-SGA1は、12時間から10日間の予報精度を向上させることで、2〜6時間先の短期予報を大幅に改善します。これは災害対応において極めて重要で、従来の長期気象モデルでは予測困難だった局地的な異常気象への対応力を高めます。
国際協力の観点から見ると、この衛星はヨーロッパとして初めて米国主導の共同極軌道システムに参加する記念すべきミッションです。衛星にはEUのコペルニクス・センチネル5ミッションも搭載されており、大気汚染監視と気候科学の進歩に貢献します。
打ち上げに使用されたアリアン6ロケットも重要な要素です。2024年7月の初飛行以来、徐々に打ち上げ頻度を増やし、年間9〜10回の打ち上げを目標としています。これにより継続的な衛星配備が可能となり、観測データの途切れない供給が実現します。
一方で、技術的な課題も存在します。大幅に増加したデータ量を既存の気象予報システムに統合し、実用的な警報システムとして機能させるには、AI技術の活用も含めた新たなアプローチが必要です。また、衛星データへの過度な依存は、データセキュリティや国際的な政策調整の課題も提起します。
長期的な視点では、このプロジェクトは投資対効果20:1以上が見込まれており、経済的にも大きなメリットが期待されています。気候変動が加速する現在、MetOp-SGA1は単なる技術的進歩を超え、人類の気候危機への適応戦略の重要な一翼を担う存在となります。
【用語解説】
IASI-NG
次世代赤外大気サウンダ。大気の温度分布やガス濃度を高解像度で観測する機器である。
METimage
イツが開発した多分光映像装置。雲の構成や高度など詳細な観測を行う。
Copernicus Sentinel-5
欧州連合の大気監視衛星ミッション。汚染物質や温室効果ガスのデータを収集する。
Joint Polar System
米国主導の衛星運用プログラムで、極軌道衛星による地球観測を推進する。
【参考リンク】
EUMETSAT(欧州気象衛星開発機構)(外部)
ヨーロッパの気象衛星の運用とデータ配信を行う国際機関。30の加盟国に対し気象情報を提供している。
ESAのMetOp Second Generation解説ページ(外部)
次世代極軌道気象衛星MetOp-SGA1を含むシリーズの詳細を掲載する欧州宇宙機関の公式サイト。
Arianespace(アリアンスペース)(外部)
アリアン6ロケットの開発・運用を担当するヨーロッパの宇宙輸送企業。
【参考動画】
【参考記事】
Successful launch of Metop-SGA1 to take weather forecasting to new heights(外部)
MetOp-SGA1の打ち上げにより、ヨーロッパの気象予報精度が向上。6つの高性能観測機器を搭載し、12時間から10日先の予報を強化。経済的リターンは少なくとも20倍と見込まれている。
Watch: MetOp-SG-A1 and Sentinel-5 launch(外部)
MetOp-SGA1と欧州連合のCopernicus Sentinel-5ミッションを搭載し、極軌道気象衛星の次世代機能を説明。気温、降水、海氷、大気成分などを高解像度で観測。
European Satellite Launch Boosts Weather Forecasting | Mirage News(外部)
MetOp-SGA1の成功した打ち上げによる気象予報強化を報じ、極軌道衛星の高精度データで災害対策や気候変動対応が進むと解説。
【編集部後記】
今回のMetOp-SGA1衛星の打ち上げは、私たちの日常生活にも大きな変化をもたらす可能性があります。
より精密な気象予報により、お出かけの判断から農業、エネルギー管理まで、様々な場面での意思決定が変わるかもしれません。
皆さんは普段、どのくらい先の天気予報を信頼して行動を決めていますか?
この技術により10日先まで高精度な予報が可能になれば、私たちのライフスタイルや働き方にどんな影響があると思われますか?
また、国際協力による宇宙開発が進む中で、日本の気象衛星技術や災害対策への活用についても、皆さんと一緒に考えていけたらと思います。