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Intel・TSMCに激震。トランプ氏が半導体関税を表明、AIチップ輸出規制も再燃か。日本の半導体業界への影響は?

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-08-06 14:53 by まお

ドナルド・トランプ大統領は2025年8月5日、CNBCの番組で半導体およびチップへの関税を来週にも発表する計画だと述べた。

2022年に520億ドルの補助金を含むCHIPS・科学法が署名された当時、米国のチップ生産の世界シェアは約10%であった。同法から資金提供を受けるインテルはオハイオ州の工場建設を延期し、TSMCは米国の工場に4年間で1000億ドル以上を投じる計画である。トランプ政権は2025年5月にバイデン政権のAIチップ輸出ルールを撤回し、7月にはAI行動計画を発表した。

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文献リンクTrump says he’ll announce semiconductor and chip tariffs

【編集部解説】

今回のトランプ大統領による半導体への関税を示唆する発言は、単なる経済政策の一環として捉えるべきではありません。これは、AIを筆頭とする次世代テクノロジーの覇権をめぐる国家間の競争が、新たなステージに突入したことを示す象徴的な出来事です。

まず背景として、米国が近年いかに半導体の国内回帰に注力してきたかを理解する必要があります。2022年に成立した「CHIPS・科学法」は、まさにそのための切り札でした。520億ドルという巨額の補助金を投じ、IntelやTSMCといった巨大企業を米国内に誘致し、アジアに偏在するサプライチェーンのリスクを低減させようという国家戦略です。

しかし、元記事も指摘するように、その道は平坦ではありません。最先端の半導体工場(ファブ)の建設は、Intelのオハイオ工場が遅延していることからも分かる通り、莫大な資金だけでなく、高度な技術の集積と長い時間を要します。今回の関税発言は、国内生産体制が整うまでの時間稼ぎと、競合国の技術的進歩を遅らせるという、二重の狙いを持った強硬策と解釈することができます。

では、なぜ今「半導体」なのでしょうか。かつて「産業のコメ」と称された半導体は、現代においてAIを駆動させる「知能の源泉」へとその価値を変えました。特に、生成AIの進化を支える高性能なAIチップは、国家の競争力を左右する戦略物資そのものです。今回の動きは、単なる貿易赤字の是正に留まらず、先端AIチップの供給をコントロールすることで、安全保障上の優位を確保しようという明確な意図がうかがえます。

この関税が現実のものとなれば、私たちの身の回りにも影響が及びます。短期的には半導体価格の上昇を通じ、スマートフォンやPC、自動車といった製品が値上がりする可能性があります。しかし、より深刻なのは、グローバルに最適化されてきたサプライチェーンが「分断」されるリスクです。企業はコストだけでなく、地政学リスクを考慮した調達先の再編を迫られ、その混乱は技術革新のスピードを鈍化させる要因にもなり得ます。

この大きな地政学的なうねりは、日本にとって好機と挑戦の両面をもたらします。半導体製造装置や、シリコンウェハー、フォトレジストといった素材分野で世界的な競争力を持つ日本企業にとって、米国の国内生産強化はまたとないビジネスチャンスです。すでに多くの企業がこの潮流に乗り出しています。

その一方で、米中の対立の狭間で、日本はより複雑で難しい舵取りを要求されることになります。自国の技術が意図せず他国への圧力に使われる可能性もあれば、サプライチェーンの再編の中で新たな役割を担うことも求められるでしょう。自社の技術力と地政学的な変化を掛け合わせ、どう立ち回るかが、今後の日本企業、ひいては日本のテクノロジー業界全体の浮沈を左右します。

このニュースから私たちが受け取るべき最も重要なメッセージは、テクノロジーの未来が、もはや研究室や企業の会議室の中だけで決まるものではなくなった、という事実です。国家戦略と地政学が複雑に絡み合う中で、技術は進化していきます。今後、私たちは個々の技術のスペックだけでなく、その技術がどのような国際的なパワーバランスの上で成り立っているのかを理解する視点が不可欠となるでしょう。

【用語解説】

  • 半導体 (Semiconductor)
    電気を通す「導体」と通さない「絶縁体」の中間の性質を持つ物質や、それを用いた電子部品のこと。現代のあらゆる電子機器の中核を担う。
  • 関税 (Tariff)
    自国の産業を保護するなどの目的で、輸入品に課される税金。課税された分だけ輸入品の価格が上昇する。
  • サプライチェーン (Supply Chain)
    製品が原材料の調達から製造、在庫管理、配送、販売を経て消費者の元に届くまでの、一連の流れのこと。半導体業界はこれが国際的に細かく分業されているのが特徴である。
  • ファブ (Fab)
    「Fabrication Plant」の略で、半導体チップを製造する工場の意味。建設には巨額の投資と高度なクリーンルーム技術が必要とされる。
  • ファウンドリ (Foundry)
    他社(ファブレスメーカー)から設計データを受け取り、半導体チップの製造を専門に行う企業。TSMCが世界最大手である。
  • IDM (Integrated Device Manufacturer)
    日本語では「垂直統合型デバイスメーカー」。設計から製造、販売までを自社で一貫して行う半導体メーカーのこと。インテルが代表例である。

【参考リンク】

  1. インテル (Intel Corporation)(外部)
    世界最大級の半導体メーカーであり、IDMの代表格。PC向けCPUなどで高いシェアを誇る。
  2. TSMC (Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)(外部)
    台湾に本拠を置く、世界最大の半導体ファウンドリ。最先端の微細化技術で他をリードする。
  3. Rapidus (ラピダス株式会社)(外部)
    次世代半導体の国産化を目指して日本で設立された企業。2nm世代の量産を目指している。
  4. CHIPS and Science Act (CHIPS・科学法)(外部)
    米国の半導体産業を強化し、研究開発と製造の国内回帰を促進するために制定された法律。

【参考動画】

【参考記事】

  1. 米商務省、TSMCとの予備的合意を発表(外部)
    CHIPS法に基づきTSMCに最大66億ドルの資金提供を行う内容。アリゾナ州への投資を拡大。
  2. Intel、CHIPS法に基づき最大85億ドルの資金提供を受けると発表(外部)
    インテルがCHIPS法から最大85億ドルの直接資金提供と、最大110億ドルの融資を受ける合意。
  3. トランプ氏が支持する大規模な新規関税、その仕組みとは?(外部)
    トランプ氏が提案する中国製品への60%関税などの仕組みと経済への影響を解説した記事。

【編集部後記】

テクノロジーの未来が、国の政策一つで大きく左右される時代の到来を実感させられます。半導体のサプライチェーンが変わり、AI開発の勢力図が塗り替えられようとする今、私たちの仕事や生活、そして手にするプロダクトには、これからどんな変化が訪れるのでしょうか。今後の情勢についても情報を追っていこうと思います。

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