先日公開した「num=100パラメータ廃止」の記事では、多くのサイトでインプレッション数が急減した現象の技術的な背景を解説しました。
しかし、その後の分析で、この変動の裏にはさらに大きな構造変化が進行していることが明らかになってきました。それは、GoogleのAIが検索体験そのものを書き換え始めているという現実です。
今回の記事では、前回の速報を深掘りし、AIオーバービューの本格導入が引き起こす「ゼロクリック検索」の増加や、2024年から続くコアアップデートの継続的な影響という、より本質的な変化に焦点を当てます。
この検索エコシステムの地殻変動が私たちのビジネスに何をもたらすのか、複数の海外調査データを基に、その全体像と未来の戦略を紐解いていきます。
From: Google’s Sept Update Drop Your Rankings? Here’s the Fix
【編集部解説】
今回のGoogle Search Console大幅変動は、多くのサイト運営者を困惑させる複雑な事象です。主要なSEO専門機関やアナリストの追加調査により、この現象の本質がより明確になってきました。
Search Engine Landの報告によると、Googleのnum=100パラメータ廃止後、77%のサイトでキーワード可視性が失われたことが確認されています。これは当初の推測よりもさらに広範囲な影響を示すデータです。
一方で、この変動の最も興味深い側面は「データの純化」と呼べる現象にあります。SEOツールやランキング追跡ボットが長年にわたってnum=100パラメータを利用してきた結果、実際の人間ユーザーによる検索行動とは乖離した「人工的なインプレッション」が蓄積されていた可能性が高いのです。
Brodie Clark氏をはじめとするSEO専門家たちは、これまでGoogle Search Consoleで表示されていた指標の一部が、実際のユーザー行動を正確に反映していなかった可能性を指摘しています。つまり、今回の変動は一見するとネガティブな現象ですが、実際にはより正確なデータに修正されたと解釈することもできるのです。
AIオーバービューの影響については、さらに深刻な構造変化が進行中です。Pew Research Centerの2025年7月調査によると、AI要約が表示された検索では、ユーザーが他のウェブサイトへのリンクをクリックする可能性が大幅に低下することが確認されています。
海外メディアでは、SimilarWebのデータを基に『3年間で検索トラフィックが55%減少した』との報道もなされています。これは単なる一時的な変動ではなく、検索エコシステム全体の根本的な変化を意味します。
この変化が最も深刻な影響を与えているのは、Google Adsによる収益やSEOに依存しているメディア企業です。Wall Street Journalの報告では、HuffPostやWashington Postなど著名なニュースサイトでも、オーガニック検索からのトラフィックが3年間で半減している状況が明らかになりました。
長期的な視点では、この変化は「検索の民主化」から「情報の集約化」への転換点と捉えることができます。Googleが単なる情報への道案内役から、情報そのものの提供者へと役割を変化させていることで、インターネット全体の情報流通構造が根本的に再編されつつあるのです。
ただし、この変化には意外なメリットも存在します。SEO業界では長年、不自然なリンク構築や低品質コンテンツの量産が問題視されてきました。今回の変動により、真に価値のある独自コンテンツや専門的な知見を提供するサイトが、相対的により高い評価を受ける可能性があります。
【用語解説】
&num=100パラメータ
GoogleのURL検索パラメータの一つで、通常10件表示される検索結果を100件まで一度に表示するための機能。SEOツールがランキングデータを効率的に収集するために長年利用されていたが、2025年9月に無効化された。
E-E-A-T
Experience(経験)、Expertise(専門知識)、Authoritativeness(権威性)、Trustworthiness(信頼性)の頭文字。2022年12月に従来のE-A-TにExperience(経験)が加えられた概念。2024年以降のコアアップデートでさらに重要視されている。
AIオーバービュー
Google検索結果の上部に表示されるAI生成の要約回答。検索クエリに対して複数のソースから情報を統合し、直接的な回答を提供する機能。2025年に大幅に拡張された。
ゼロクリック検索
ユーザーが検索結果ページで答えを得て、他のウェブサイトにクリックせずに検索を完了する現象。AIオーバービューの普及により増加傾向にある。
GSC(Google Search Console)
Googleが提供するウェブマスター向けの無料ツール。サイトの検索パフォーマンス、インデックス状況、技術的問題などを監視・分析できるプラットフォーム。
【参考リンク】
Google Search Console(外部)
Googleが提供するウェブマスター向けツール。サイトのパフォーマンス監視やSEO最適化に必要な各種データを確認できる。
Search Engine Land(外部)
SEO業界で最も権威のある専門メディアの一つ。最新のGoogleアルゴリズム変更やSEO業界の動向について詳細な分析記事を提供。
Search Engine Roundtable(外部)
Barry Schwartz氏が運営するSEO専門ニュースサイト。Googleの公式発表からコミュニティの反応まで、SEO業界の最新情報を包括的にカバー。
【参考記事】
Google Search rank and position tracking is a mess right now(外部)
Google検索のランク追跡システムが混乱状態にあることを報告。SEO業界全体で発生している計測問題について詳細に分析。
77% of sites lost keyword visibility after Google removed num=100(外部)
LOCOMOTIVE Agencyの技術SEOディレクターによる分析結果を報告。77%のサイトでキーワード可視性の低下を確認した具体的なデータを提供。
Google’s AI Overviews are cutting off the oxygen to the web(外部)
AIオーバービューがウェブサイトトラフィックに与える深刻な影響について、SimilarWebのデータを基に3年間で55%のトラフィック減少を報告。
Do people click on links in Google AI summaries?(外部)
Pew Research Centerによる調査結果で、AI要約が表示された際のユーザーのクリック行動変化について科学的データを提供。
Google AI summary feature deals blow to website traffic(外部)
Euronewsによる報告で、HuffPostやWashington Postなど大手ニュースサイトの検索トラフィック減少について具体的な事例を紹介。
【編集部後記】
先日の記事への多くの反響、ありがとうございます。num=100パラメータ廃止の速報をお伝えしましたが、その後の海外の報道を分析する中で、私たちが直面している変化は、単なるデータ上の問題ではないことを痛感しています。AIが私たちの「知りたい」という欲求に先回りして答えを提示する時代、ウェブサイトの価値そのものが問われているのかもしれません。
皆さんのビジネスは、この大きな波にどう向き合っていますか?AIに情報を「使われる」だけでなく、ユーザーに「選ばれる」存在であり続けるために何が必要か、私たちも日々模索しています。この変化の最前線で感じていること、考えている戦略など、ぜひ皆さんの声もお聞かせいただけると嬉しいです。