先日、お伝えしたTikTokアルゴリズム、Oracleが管理への続報です。
ドナルド・トランプ大統領は2025年9月25日(木)、TikTokの米国事業売却提案を承認する大統領令に署名した。
JDヴァンス副大統領によると、この取引でTikTok米国事業は140億ドルで評価されている。中国拠点のByteDanceにTikTok米国事業の売却を義務付ける国家安全保障法の要件を満たす内容である。
新たな合弁会社がTikTok米国事業を監督し、ByteDanceの株式保有は20%未満となる。主要投資家はOracle、Silver Lake、アブダビのMGX投資ファンドで約45%を保有し、ByteDance投資家と新規株主が35%を所有する。OracleのCEOラリー・エリソンが所有グループに参加し、同社がセキュリティ運用とクラウドサービスを担当する。
ByteDance投資家のGeneral Atlantic、Susquehanna、Sequoiaも新会社への出資を予定している。連邦政府は資本参加や「ゴールデンシェア」を取得しない。トランプ大統領は習近平国家主席が取引を承認したと発表したが、中国政府の正式承認は未了である。司法省による国家安全保障法の執行は12月16日まで延期された。
From: Trump approves TikTok deal through executive order, Vance says business valued at $14 billion
【編集部解説】
このTikTok取引は、単なる企業買収を超えた地政学的な転換点を示しています。中国のByteDanceから米国企業連合への事業移管は、デジタル主権をめぐる米中間の競争において、アメリカが実質的な勝利を収めた形となります。
今回の取引構造で注目すべきは、ByteDanceの株式保有が20%未満に制限される点です。これにより中国企業の影響力を大幅に削減しながら、完全な事業停止は回避できました。特にOracle、Silver Lake、MGX投資ファンドによる45%の支配的地位確立は、アメリカ主導の運営体制を確実にする仕組みといえるでしょう。
技術面では、Oracleがセキュリティ運用とクラウドサービスを担当することで、米国政府が懸念してきたデータの中国流出リスクを根本的に解決できる可能性があります。TikTokのアルゴリズムも米国内でOracleが管理することになり、これまでの「中国政府によるデータアクセス」という最大の課題に対する構造的な解決策となり得ます。
一方で、140億ドルという事業価値評価について注目すべき点があります。アナリストは以前、TikTokの米国事業を300億ドルから350億ドルと推定していましたが、一方でByteDance全体は先月3300億ドルで評価されていました。今回の140億ドルという数値は、米国事業のみの価値を反映したものと考えられます。
最大の不確定要素は中国政府の正式承認です。トランプ大統領は習近平主席の承認を得たと発表しましたが、中国側の公式発表はまだありません。参考として、過去に中国が海外企業への技術移転を制限する法改正を行った経緯を考えると、最終的な承認までには相当な政治的交渉が必要になる可能性があります。
この取引構造は、国家安全保障法の要件を満たすための措置であり、ByteDanceが米国市場での事業継続を選択した結果といえます。成功すれば、他の中国系テクノロジー企業にも同様の圧力が及ぶ先例となるでしょう。
【用語解説】
ByteDance(バイトダンス)
中国・北京に本社を置くテクノロジー企業。TikTokの運営会社として知られ、2012年に設立された。AI技術を活用したコンテンツプラットフォームの開発で急成長を遂げた。
大統領令(Executive Order)
アメリカ大統領が連邦行政機関に対して発する命令。議会の承認を必要とせず、大統領の権限で迅速に政策を実行できる法的拘束力を持つ文書である。
国家安全保障法(National Security Law)
外国企業による米国企業の買収や、国家安全保障に影響を与える可能性のある技術移転を規制する法律。今回のケースでは、中国企業によるアメリカ市場でのサービス提供を制限する内容が含まれる。
ゴールデンシェア
政府や特定の機関が保有する特別株式で、企業の重要な意思決定に対して拒否権を持つ。通常の株式と異なり、議決権や配当において特別な権限を有する。
合弁会社(Joint Venture)
複数の企業が共同で設立・運営する会社形態。リスクと利益を分散しながら、各社の強みを活用できるビジネス構造である。
【参考リンク】
Oracle Corporation(外部)
企業向けクラウドサービスとデータベース技術を提供するアメリカの大手IT企業
Silver Lake Partners(外部)
テクノロジー企業への投資を専門とするプライベートエクイティファンド
CNBC(外部)
アメリカの経済・ビジネス専門テレビ局およびニュースサイト
【参考記事】
Trump signs executive order facilitating TikTok deal(外部)
NBC Newsによる取引の背景と政治的意味合いを分析した記事
Oracle, Silver Lake & MGX main investors in TikTok U.S.(外部)
主要投資家の詳細な出資比率と役割分担を報じた記事
Trump Signs Order Approving TikTok U.S. Deal(外部)
エンターテインメント業界の視点からTikTok取引を分析
Trump signs order declaring TikTok sale plan meets US requirements(外部)
ロイター通信による国際的な視点からの分析記事
TikTok’s algorithm will be overseen by Oracle in the US(外部)
TikTokアルゴリズムのOracle管理について詳細に解説
【編集部後記】
今回のニュースは、私たちが9月22日にお伝えした「TikTokアルゴリズム、Oracleが管理へ」の続報となります。わずか3日間で「ホワイトハウス高官の計画発表」から「大統領令署名」という歴史的な瞬間まで目撃することができ、テクノロジー業界における政治的決断の速さを改めて実感しています。
前回の記事では、Oracleによるアルゴリズム管理の技術的側面に焦点を当てましたが、今回明らかになった140億ドルという事業評価額や具体的な株主構成は、この取引の経済的インパクトの大きさを物語っています。さらに日本市場に目を向けると、特に注目すべきは、TikTokが日本でも2025年6月からTikTok Shopを本格展開していることです。
今回の米国での事業構造変更が、日本のソーシャルコマース市場にどのような波及効果をもたらすのか、引き続き注視していきたいと思います。