Deloitteは2025年10月6日、Anthropicの人工知能アシスタント「Claude」を世界中の47万人以上の従業員に展開する契約を発表した。
この展開はAnthropic史上最大のエンタープライズ展開となり、両社が昨年発表したパートナーシップを基盤としている。コンサルティング、税務、監査サービスを提供するDeloitteは、Anthropicが創業4年間で獲得した30万社のビジネス顧客の1つである。
AnthropicのチーフコマーシャルオフィサーPaul Smithは、両社がこのパートナーシップに財政面とエンジニアリングリソースの両面で多額の投資を行っていると述べた。Deloitteは今後数カ月にわたり、会計士からソフトウェア開発者まで、異なる従業員グループ向けにClaudeの「ペルソナ」を構築・展開する。150カ国以上で実施されるこの展開は、Anthropicがグローバルプレゼンス強化に取り組む時期に行われる。
Anthropicは9月に国際的な従業員数を3倍にすると発表し、新幹部Chris Ciauriを迎え入れた。同月、同社は最新AIモデル「Claude Sonnet 4.5」を発表し、評価額1,830億ドルで130億ドルの資金調達を完了した。
From: Anthropic lands its biggest enterprise deployment ever with Deloitte deal
【編集部解説】
今回のDeloitteとAnthropicの契約は、エンタープライズAI導入における重要な転換点を示しています。47万人という規模は、単なる試験導入ではなく、グローバル企業がAIを業務の中核に据える時代が本格的に到来したことを意味します。
注目すべきは「Claude Center of Excellence」の設立です。これは単にツールを配布するだけでなく、組織全体でAIリテラシーを高め、各部門に最適化されたAI活用を促進する体制を整えるものです。会計士向け、ソフトウェア開発者向けといった職種別の「ペルソナ」を構築する点は、汎用AIツールを実務に落とし込む具体的なアプローチとして注目されます。
DeloitteのU.S.チーフストラテジー・テクノロジーオフィサーRanjit Bawaの発言「クライアントは私たちも使っているのか知りたがっている」という言葉は示唆的です。コンサルティング企業がクライアントにAI導入を提案する際、自社での実践例が最も説得力のある証拠となります。つまり、この展開はDeloitte自身の生産性向上だけでなく、同社が提供するコンサルティングサービスの質と信頼性を高める戦略的投資でもあるのです。
一方で、Anthropicにとっても意義は大きいです。創業4年で30万社のビジネス顧客を獲得したとはいえ、OpenAIやGoogleとの競争は激化しています。9月には評価額1,830億ドルで130億ドルの資金調達を完了し、最新モデル「Claude Sonnet 4.5」を発表したばかりです。この大規模展開により、実際の業務環境での膨大なフィードバックを得られることは、製品改善において計り知れない価値があります。
150カ国での展開は、Anthropicのグローバルプレゼンス強化戦略とも一致しています。同社は今年中に国際的な従業員数を3倍にする計画を発表しており、新幹部Chris Ciauriを迎えて拡大を加速させています。
潜在的なリスクとしては、大規模なAI導入に伴うデータセキュリティやプライバシーの問題が挙げられます。コンサルティング企業は機密性の高いクライアント情報を扱うため、AIシステムへの入力データの管理が重要になります。また、AIに過度に依存することで、専門家としての批判的思考力が低下する懸念も指摘されています。
長期的には、この事例が他の大手企業のAI導入を加速させる触媒となる可能性があります。特に専門サービス業界において、AI活用が競争力の源泉となる時代の幕開けを象徴する出来事と言えるでしょう。
【用語解説】
Claude
Anthropic社が開発した大規模言語モデル(LLM)ベースのAIアシスタント。対話型AIとして、文章生成、コード作成、データ分析など幅広いタスクに対応する。安全性と信頼性を重視した設計が特徴である。
Claude Sonnet 4.5
2025年9月下旬にAnthropicが発表した最新のAIモデル。Claudeシリーズの中でも性能と効率のバランスを重視したバージョンである。
エンタープライズ展開
企業全体や組織全体にわたってシステムやサービスを導入・運用すること。今回の場合、47万人以上の従業員に対してAIアシスタントを提供する大規模な導入を指す。
Claude Center of Excellence
Deloitte内に設立されたClaudeの専門部署。各チームがAI技術を効果的に展開し、活用できるよう支援する専門家集団を配置した組織である。
ペルソナ
ここでは、職種や業務内容に応じてカスタマイズされたAIの振る舞いや機能の設定を指す。会計士向け、開発者向けなど、それぞれの専門領域に最適化されたAIの「性格」や「能力」を構築する。
【参考リンク】
Anthropic公式サイト(外部)
AI安全性研究と大規模言語モデル開発に特化したAI企業。Claudeシリーズを開発・提供し、創業4年で30万社の顧客を獲得した。
Deloitte公式サイト(外部)
世界4大会計事務所の一つ。150カ国以上で47万人以上の従業員を擁し、監査、コンサルティング、税務サービスを提供する。
Deloitte – Anthropic Alliance(外部)
Deloitte側から発表されたAnthropicとの提携ページ。エンタープライズAIソリューションの共同開発情報を掲載。
【参考記事】
Anthropic Deloitte Partnership(外部)
Anthropic公式によるパートナーシップ発表。Claude Center of Excellenceの設立、15,000人以上の専門家認定プログラム、業界特化型AIソリューションの共同開発について詳述。
Anthropic scores massive 470K employee Deloitte AI deployment(外部)
47万人規模の展開がAnthropicの顧客獲得戦略における重要なマイルストーンであることを分析し、OpenAIやGoogleとの競争環境下での戦略的意義を解説。
Deloitte Brings Anthropic’s Claude AI To 470,000 Employees(外部)
職種別の「ペルソナ」構築やClaude Center of Excellenceによる専門家サポート体制について詳しく報じている。
How enterprises are driving AI transformation with Claude(外部)
エンタープライズ企業がClaudeをどのように活用しているかを紹介。30万社のビジネス顧客の事例やAI導入の実践的なアプローチを掲載。
【編集部後記】
47万人という規模のAI導入は、もはや「試験的」という言葉では表せない本気度を感じさせます。皆さんの職場では、AIツールはどのように活用されているでしょうか。Deloitteが職種ごとに「ペルソナ」を構築するアプローチは、AIを単なる汎用ツールではなく、それぞれの専門性を理解するパートナーとして位置づけようとする試みです。
コンサルティング企業が自社で実践してからクライアントに提案する姿勢は、AI導入における説得力ある道筋を示しているように思えます。皆さんは、どんな「AIペルソナ」があれば日々の業務がより創造的になると感じますか。