NTT×TBS「IOWN APNが実現するバーチャルプロダクション革新――GPU長距離接続の成功事例」

[更新]2025年11月19日

NTT×TBS×LIQID「IOWN APNが実現するバーチャルプロダクション革新――GPU長距離接続の成功事例」 - innovaTopia - (イノベトピア)

NTT株式会社、株式会社TBSテレビ、株式会社TBSアクトは、約3,000km離れた拠点間のバーチャルプロダクションにおける映像制作向けゲームエンジンのリモートGPUをIOWN APNで接続する実証に成功した。

フィールド検証環境で撮影カメラとLED背景の間で5フレーム(約84ms)の低遅延を確認し、スタジオ設置GPUと同等の品質を実証した。Epic Games社の「Unreal Engine」、NVIDIA RTX PRO、LIQID社のCDIを用い、2025年11月19日~26日開催のNTT R&D FORUM 2025 IOWN∴Quantum Leapで展示予定である。

From: 文献リンクNTTとTBSがIOWN APNを活用した映像制作向けGPUの長距離リモート接続を実証

 - innovaTopia - (イノベトピア)
出所:公式

【編集部解説】

この実証実験が示しているのは、映像制作現場における「リソースの地理的制約からの解放」という、産業構造そのものを変えうる転換点です。​

従来のバーチャルプロダクションでは、LEDウォールに高精細な背景を映し出すために、現場に大量のGPUを設置する必要がありました。NVIDIA Quadro Sync IIカードで同期を取りながら、複数のGPUがUnreal Engineを稼働させる——これは電源容量や排熱の問題だけでなく、初期投資や運用コストの面でも大きな負担となっていました。​

今回の実証で注目すべきは、約84ミリ秒(5フレーム)という低遅延を約3,000kmの距離で実現した点にあります。これは、撮影現場のカメラの動きとLED背景のリアルタイム連動に支障をきたさないレベルです。IOWN APNの「ゆらぎなし」という特性が、時刻同期やカメラ座標情報の伝送を安定させ、遠隔地にあるGPUでも実用的な制作環境を構築できることを証明しました。

技術的な核心は、LIQID社のCDI(Composable Disaggregated Infrastructure)の活用にあります。CDIは、GPU、ストレージ、ネットワークカードといったPCIeデバイスをプール化し、ソフトウェアで動的に割り当てられる次世代インフラです。つまり、番組の規模や内容に応じて必要なGPUリソースだけを数分で構成できるため、小規模な音楽番組から大規模なドラマ制作まで、同じインフラを効率的に共有できる可能性が開けます。​

この仕組みが放送業界全体に広がれば、地方局や中小制作会社でも、都心のデータセンターにある高性能GPUを必要な時だけ利用するという、クラウド的な運用が可能になるでしょう。TBSアクトのコメントにある「電源容量や排熱への配慮の軽減」は、スタジオ設備投資の大幅な削減を意味します。​

一方で、放送品質を維持するためのネットワーク品質管理や、障害時のバックアップ体制など、新たな運用課題も見えてきます。また、IOWN APNのような専用光ネットワークのコスト対効果は、利用規模によって大きく変わる点も考慮が必要です。​

IOWN APNを活用したリモートプロダクション展開も控えており、放送業界のDXは加速度的に進展しています。人口減少による技術者不足という構造的課題に直面する中で、この技術は単なる効率化ではなく、業界の持続可能性を支える基盤技術となる可能性を秘めています。​

【用語解説】

IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)
光技術による圧倒的な低消費電力・大容量・低遅延伝送を実現する通信基盤。

バーチャルプロダクション
リアルな実写と仮想空間をリアルタイムに合成して撮影する最新映像制作技術。

CDI(Composable Disaggregated Infrastructure)
GPUやストレージなどのIT資源をソフトウェアで動的に再構成できる次世代型インフラ。

GPUメモリダイレクト
CPUやメインメモリを経由せずにGPUと他機器間で直接データ転送を行う技術の総称。

SMPTE ST2110規格
映像・音声・補助データをIPネットワーク上で伝送する放送向け標準規格。

NVIDIA Rivermax
IPネットワークで高精細映像を低遅延・高精度にストリーミングするためのSDK。

【参考リンク】

Unreal Engine公式(外部)
Epic Gamesによるバーチャルプロダクション用ゲームエンジン。映画やVR、放送分野にも広く採用。

LIQID公式(外部)
Composable Disaggregated Infrastructure(CDI)のグローバル・リーダー企業。柔軟なITインフラ製品を提供。

サーヴァンツインターナショナル(外部)
LIQID社CDI製品の日本総代理店。GPUやハードウェアリソースの効率活用ソリューション提供。

NTT R&D FORUM 2025(外部)
NTTの研究開発成果を発表するイベントの公式サイト。IOWNプロジェクトの展示も。

【参考記事】

Industry Insights: Remote production technologies reshape broadcast workflows(外部)
放送業界のリモートプロダクション普及とそのワークフロー変革への影響を詳細に分析する専門記事。

Global Broadcasting Trends: The Rise of Remote Production(外部)
リモートプロダクション台頭の背景や、地方局などのリソース共有の意義と課題を報告するグローバル分析。

【編集部後記】

バーチャルプロダクション技術の進化は、一部の大手や都市部だけのものではなく、今や全国各地、さまざまなクリエイターの創作環境に波及し始めています。

これから放送やコンテンツ制作の現場がどのように変わっていくのか、一緒にその新しい可能性を体感してみませんか。日常の番組や動画のなかにも、きっとその変化の兆しが見えてくるはずです。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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