Last Updated on 2025-02-12 17:21 by admin
芸術史に新たな量子の跳躍が起ころうとしている。
2025年2月、ニューヨークの五番街に佇むクリスティーズが、250年の歴史で初めてAIアート専門のオークション「Augmented Intelligence」の扉を開く。60万ドルの価値が付された20点の作品群は、人工知能が描く創造性の新たなパラダイムを体現している。しかし、この歴史的な一歩に対して、3,700人を超えるアーティストたちが抗議の声を上げた。そこには創造性の本質を問う深い問いが横たわっている—人工知能は、芸術という人類最後の聖域に足を踏み入れたのか。それとも、人間とAIによる共創の新時代の幕開けなのか。
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クリスティーズ・ニューヨークが2025年2月20日から3月5日まで、メジャーオークションハウスとして初めてAIアート専門のオークション「Augmented Intelligence」を開催する。
出品作品は、20ロットで推定落札総額は60万ドル以上。価格帯は1万ドルから25万ドルで、NFT(全体の26%)、ライトボックス、スクリーン、彫刻、絵画、版画など多岐にわたる。
注目作品と出品アーティスト
主な出品アーティストには、Refik Anadol、故Harold Cohen、Pindar Van Arman、Holly Herndon & Mat Dryhurst、Alexander Reben、Claire Silver、Sasha Stilesらが名を連ねる。
特に注目を集めているのは以下の作品だ:
Alexander Rebenによる3.7メートルの対話型ロボット(入札額に応じてリアルタイムでキャンバスに描画)
Pindar Van Armanの「Emerging Faces」(2017年制作、2つのAIが協働して制作した抽象的な人物画)
抗議活動の展開
2025年2月8日からアーティストたちによる抗議活動が開始され、2月11日時点で3700名以上が抗議の署名に参加している。主な抗議者には、AI企業を著作権侵害で提訴中のKarla OrtizとKelly McKernanが含まれる。
抗議の焦点は以下の3点:
– 出品作品の少なくとも9点が、アーティストの同意なく作品を学習したAIツールで制作された
– AIモデルが無許可で著作権のある作品を学習している
– 人間のアーティストの作品を無断で商業利用している
from アーティストたちがクリスティーズのAIオークションに抗議-Peplexity Discoverより
【編集部解説】
AIアートが突きつける、創造性の新しいパラダイム
クリスティーズの「Augmented Intelligence」オークションは、単なるAIアート取引の話題ではありません。これは、人類の創造性の定義そのものを問い直す歴史的な分岐点となるでしょう。
創造性の民主化と排他性の相克
従来のアート市場は、極めて排他的な世界でした。しかし、AIの登場により、誰もが数千ドルで美術品を「生成」できる時代が到来しています。これは創造性の民主化なのか、それとも芸術の産業化なのか。
特筆すべきは、このオークションが提示する「創造性の階層構造」です。Refik Anadolのような独自AIモデルを構築するアーティストと、既存の商用AIを使用するアーティストの間に生まれつつある新しい階層は、デジタルアートの未来を象徴しています。
テクノロジーによる創造性の再定義
AIアートを巡る著作権論争は、実は創造性の本質を問う哲学的な議論です。624回の調整では著作権が認められず、625回なら認められるのか?この数値化された創造性の境界線は、人間の創造性とAIの関係性を再考させます。
アートとテクノロジーの新しい共生モデル
トレド美術館のTMA Labsの取り組みが示唆するように、美術館というアートの殿堂ですら、AIやWeb3との融合を模索し始めています。これは、アートとテクノロジーの対立という単純な図式ではなく、より複雑な共生関係の構築が始まっていることを示しています。
創造性のエコシステムの再構築
LAION-5Bデータセットの問題が示すように、現在のAIアートは人類の創造性の集合知の上に成り立っています。しかし、このエコシステムは持続可能なのでしょうか?
むしろ、この騒動は新しい創造性のエコシステムを構築するチャンスかもしれません。アーティストへの適切な報酬還元システム、AIモデルの透明性確保、そして創造性の新しい評価基準の確立。これらは、デジタル時代のアート市場に必要不可欠な要素となるでしょう。
未来への展望
2025年、このオークションは単なるAIアート取引の先例以上の意味を持つことになるでしょう。これは、人間とAIの創造的共生の実験場であり、新しいアートの価値基準を確立する機会となります。
そして最も重要なのは、このオークションが投げかける問い。「創造性とは何か?」「アーティストとは誰か?」これらの問いに対する答えは、テクノロジーの進化とともに常に更新され続けていくのです。
【用語解説】
Augmented Intelligence(拡張知能)
人工知能を人間の能力を補完・拡張するツールとして捉える考え方。人間の創造性とAIの処理能力を組み合わせることで、新しい表現を生み出すことを目指しています。
NFT(Non-Fungible Token)
ブロックチェーン上で発行されるデジタルアートの所有権証明。今回のオークションでは全作品の26%がNFT形式で出品されています。
クリスティーズ(Christie’s)
1766年創業の世界最古のオークションハウスです。美術品や骨董品の取引において世界最高峰の評価を受けており、2018年上半期には約4424億円の売上高を記録しています。各作品は「ロット」と呼ばれる単位で管理され、1ロットは単体または複数の作品をまとめたものとなります。