美容×AI、誰もが「自分だけの美」を手にする時代へ|70%が支持する一方で浮上する「美の均質化」リスク

[更新]2025年10月7日08:10

美容×AI、月5ドルでパーソナライズ時代へ|70%が支持する一方で浮上する「美の均質化」というリスク - innovaTopia - (イノベトピア)

Vogue Philippinesは2025年10月2日、AIがもたらす美容の未来について報じた。VML IntelligenceのグローバルディレクターEmma Chiuは、ミレニアル世代の70%とZ世代の68%がAIツールにより創造的になれると述べた。

2023年にEstée Lauderは視覚障害者向けの音声対応メイクアップアシスタントを、Lancômeは可動域が限られた人向けのスマートアプリケーターHaptaを発売した。

2010年代半ばには整形外科医が「Snapchat dysmorphia」という用語を作り、AIで美化された自撮り写真を持参する患者の増加を指摘した。

ロンドンのSomerset Houseでは2025年7月23日から9月29日まで、20人以上のアーティストによる「Virtual Beauty」展が開催され、AIが美容と自己表現をどう再構築しているかを探求している。

From: 文献リンクAI and What It Brings to the Future of Beauty

【編集部解説】

現在、美容カウンターに並ぶAI搭載機器は、かつて皮膚科医でなければ提供できなかった精密な肌分析を可能にしています。ウェアラブルデバイスが健康データを収集し、バーチャル試着アプリが瞬時にパーソナライズされた提案を行う。こうした技術は確かに便利ですが、その背後にある学習データの偏りが新たな課題を生んでいます。

特に注目すべきは「Snapchat dysmorphia」という現象でしょう。2010年代半ばから、整形外科医のもとに訪れる患者が、セレブの写真ではなくAIフィルターで加工された自分の顔を理想像として持参するようになりました。アルゴリズムが生成する「完璧な美」は、毛穴のない肌や左右対称の顔といった非現実的な基準を量産し、多様性を損なうリスクをはらんでいます。

一方で、AIの民主化という側面も見逃せません。Estée LauderやLancômeが開発した支援技術は、視覚障害者や身体的制約のある人々に新しい選択肢を提供しました。Amy KellyのMiri AIのように、月額5ドルという低価格でパーソナライズされた健康管理が可能になれば、これまで一部の富裕層にしかアクセスできなかったケアが大衆化する可能性があります。

しかし、Emma Chiuが指摘するように、AIは訓練データの質に依存します。現実世界の多様な肌色、体型、民族性を十分に反映していないデータセットで学習したAIは、過去の偏見を再生産してしまう。技術の進化と倫理的配慮のバランスをどう取るかが、今後の美容産業の方向性を決定づけるでしょう。

ロンドンで開催された「Virtual Beauty」展は、こうした議論を芸術の文脈で可視化する試みです。テクノロジーが美の概念を再定義する今、私たち自身が意識的に、遊び心を持って、そして誰もが含まれる形でその未来を選び取る必要があります。

【用語解説】

Snapchat dysmorphia(スナップチャット醜形恐怖症)
SNSのフィルター機能で加工された自分の顔を理想像として捉え、整形手術を希望するようになる心理状態を指す。2010年代半ばから整形外科医たちが報告し始めた現象である。

GLP-1治療
グルカゴン様ペプチド-1受容体作動薬を用いた治療法。主に糖尿病治療や体重管理に使用される医薬品で、食欲抑制効果がある。

CGIインフルエンサー
コンピュータグラフィックスで生成された架空の人物がSNS上で活動するインフルエンサー。Lil Miquela(リル・ミケーラ)が代表例で、実在しないにもかかわらず数百万のフォロワーを持つ。

生成AI
テキスト、画像、音声などのコンテンツを自動生成できる人工知能技術。大量のデータから学習し、新しいコンテンツを創造する能力を持つ。

VML Intelligence
グローバルマーケティングエージェンシーVMLの調査・研究部門。消費者トレンドや技術革新が社会に与える影響を分析し、年次レポート「The Future 100」などを発表している。

【参考リンク】

Estée Lauder Companies(外部)
世界的な化粧品企業。2023年に視覚障害者向けの音声対応メイクアップアシスタントアプリを開発し、アクセシビリティ分野での先駆的な取り組みを実施。

Lancôme(ランコム)(外部)
ロレアルグループ傘下の高級化粧品ブランド。身体的制約のある人々向けにスマートメイクアップアプリケーター「Hapta」を開発した。

Somerset House(外部)
ロンドン中心部にある文化施設。2025年7月23日から9月29日まで「Virtual Beauty」展を開催し、AIと美容の関係性を芸術的視点から探求。

VML(外部)
グローバルマーケティングおよびテクノロジーエージェンシー。消費者行動とテクノロジートレンドの調査研究を行い、企業のブランド戦略をサポート。

Vogue Business(外部)
ファッションとビューティー業界のビジネス動向を専門的に報じるメディア。「Future of Appearance」シリーズでテクノロジーが外見に与える影響を調査。

【参考記事】

A Conversation on AI with Emma Chiu of VML Intelligence(外部)
VML IntelligenceのEmma Chiuへのインタビュー記事。消費者がどのようにAIを活用しているか、AIが創造性とマーケティングに与える影響について語っている。

Algorithmic beauty(外部)
VML公式サイトによるアルゴリズミック・ビューティーに関する分析記事。AIが美の基準をどのように形成し、消費者行動に影響を与えているかを考察。

Beauty Tech in 2025: Trends, Innovation & Regulations(外部)
2025年の美容テクノロジートレンド、イノベーション、規制に関する包括的なガイド。AI技術がどのように美容業界を変革しているかを詳述している。

【編集部後記】

AIが生成する「理想の美」を見るたび、少し立ち止まって考えてみませんか。そのイメージは本当に自分が求めているものなのか、それともアルゴリズムが提示した誰かの理想なのか。美容カウンターで肌診断を受けるとき、スマホのフィルターで自撮りするとき、私たちは無意識のうちにテクノロジーに判断を委ねています。

でもそのテクノロジーがどんなデータで学習し、誰の価値観を反映しているのか、知る機会は意外と少ないのではないでしょうか。AIが可能にする新しい美容体験を楽しみながらも、自分らしさを見失わないバランス感覚を、一緒に探っていけたらと思います。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

読み込み中…
advertisements
読み込み中…