11月14日【今日は何の日?】「レーザー特許が認められた日」——誰も使い道がわからなかった光

 - innovaTopia - (イノベトピア)

1967年11月14日、カリフォルニア。物理学者Theodore Maimanは、7年前に自分が発明した装置の特許をようやく手にしました。特許番号3,353,115「ルビーレーザーシステム」。Hughes Aircraft Companyは彼に300ドルを支払った。この特許は後に、同社の歴史上最も利益の高い特許となります。

しかし、レーザーそのものが誕生したのは1960年5月16日のことでした。Malibuの研究所で、合成ルビーの結晶が人類史上初めて「コヒーレント光」を放った瞬間です。Maimanはその成果を論文にまとめ、Physical Review Lettersへ投稿しましたが、拒絶されました。編集者は「メーザー関連の論文には、もう興味がない」と返信しています。

Maiman自身は、この発明を”a solution looking for a problem”(問題を探している解決策)と呼びました。誰も使い道がわからなかった技術。それが今、どこにあるのか?

理論から光へ:40年の道のり

レーザーの物語は、1917年のAlbert Einsteinまで遡ります。彼は「誘導放出」という現象の理論的基礎を築きました。光が物質と相互作用する際、特定の条件下で光を増幅できる可能性があると示したのです。

それから約40年後の1950年代、Columbia UniversityのCharles Townesらが、その理論をマイクロ波の領域で実現しました。「メーザー」(Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)の誕生です。次なる挑戦は、この原理を可視光の領域へ引き上げることでした。

1960年、Hughes Research LaboratoriesのMaimanは、他の科学者たちが「使えない」と判断したルビーに可能性を見出します。当時、IBM、Bell Labs、MIT、RCAなど錚々たる研究機関が何百万ドルも投じてレーザー開発を競っていました。Maimanの予算は、わずか5万ドル。彼は合成ルビーの結晶と強力なフラッシュランプを組み合わせ、5月16日、世界初のレーザー光を実現しました。

論文は拒絶され、プレスリリースは「光線銃」として騒がれました。Maimanは300ドルの報酬を受け取り、レーザーは世に放たれました。使い道は、まだ誰にもわかりませんでした。

最初の「問題」を見つけた人々

答えは、意外と早く訪れます。1961年、レーザー誕生からわずか1年後、ある眼科医が試みました。網膜手術にルビーレーザーを使用したのです。目は透明な組織で構成されており、光を正確に届けることができる。レーザーの特性——単一波長、高い指向性、集束可能なエネルギー——が、まさに眼科手術に適していました。

同じ1961年、Cincinnati大学のLeon Goldmanは、皮膚科での応用を始めます。あざや腫瘍の除去。レーザーは特定の色素だけを選択的に破壊できる特性を持っていました。

1964年、Kumar PatelがCO2レーザーを開発します。高出力で、金属を切断できる。工業用途への扉が開きました。1960年代後半から1970年代にかけて、さまざまな種類のレーザーが開発されました。Nd:YAGレーザー、アルゴンレーザー、色素レーザー。それぞれが異なる波長を持ち、異なる用途を見つけていきます。

そして1970年代、光ファイバー通信が実用化され始めます。ガラスの細い繊維の中を、レーザー光が情報を運ぶ。これは、後に世界を変える技術となります。

2025年、レーザーはどこにでもある

あなたがスーパーで商品を手に取り、レジでバーコードをスキャンする。その「ピッ」という音の背後には、レーザーがあります。2025年、バーコードスキャナー市場は84億ドル規模に達しました。世界中の小売店、物流倉庫、病院で、毎日何億回とレーザーが製品を識別しています。

あなたがインターネットで動画を見る、メールを送る、ビデオ通話をする。そのデータは、海底ケーブルを通じて大陸間を移動します。光ファイバーの中を、1550ナノメートルのレーザー光が駆け抜ける。2024年、日本の研究チームは402テラビット毎秒という記録的な速度を達成しました。世界の長距離通信の80%以上が、光ファイバーに依存しています。市場規模は約100億ドルです。

医療の現場では、レーザーは日常的な道具です。LASIK手術で視力を矯正する。がん細胞をピンポイントで焼灼する。白内障手術で水晶体を切開する。2025年、医療用レーザー技術市場は大きな成長を続けています。

製造業では、レーザーは切断、溶接、マーキング、穴あけに使われます。自動車工場だけで、世界中に数千台の高出力レーザーが稼働しています。2025年、産業用レーザー市場は約260億ドルに達しました。

レーザーは、DVD、プリンター、測量機器、研究用顕微鏡、さらには核融合実験施設にまで使われています。それはもはや特別な技術ではなく、空気のように当たり前の存在です。

65年の軌跡

1960年5月、Malibuの研究所で初めて光ったルビーレーザー。Maimanは「問題を探している解決策」と呼びました。

2025年、レーザー関連市場は全体で数百億ドル規模に成長しています。皆さんのポケットの中のスマートフォンも、レーザーがなければ作れません。

今も、「役立つのか?」と問われている技術があります。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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