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シャープがVRの「触覚問題」に終止符か。操作性と質感を両立する“第3の選択肢”が拓く新次元

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-07-29 18:16 by 乗杉 海

シャープはハイブリッド型ハプティックVRグローブ&コントローラーの開発を明らかにした。各指先に多分割触覚素子を搭載し、振動パターンで仮想オブジェクトの質感を再現する。

フォースフィードバック機能はなく、人差し指側面にボタンとサムスティックを配置して従来のコントローラー機能を統合する。暫定価格は10万円で、商品化は未定。位置トラッキング機能は含まれず、既存のハンドトラッキングシステムへの依存または市場シェアの高いコントローラーへの取り付け方式を検討している。

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📖 Sharp Is Developing A Hybrid Haptic VR Glove & Controller

【編集部解説】

VR業界が長年直面してきた「触覚フィードバック」の課題に、シャープが独自のアプローチで挑戦しています。従来のVRコントローラーは優れた操作性を提供する一方で、仮想空間での触覚体験には明らかな限界がありました。一方、ハプティックグローブは没入感を大幅に向上させますが、学習コストの高さや従来の操作方法からの乗り換えハードルが普及の障壁となっていました。

シャープの「VR触覚コントローラー」は、この二律背反を解決する ハイブリッド設計 という点で、既存製品とは一線を画しています。人差し指側面に配置されたボタンとサムスティックにより、従来のVRコントローラーの操作感を完全に維持しながら、指先の多分割触覚素子による高解像度な触覚フィードバックを実現しているのです。

競合との技術的差別化ポイント

現在のハプティックVRグローブ市場を支配する主要プレイヤーは、韓国のbHaptics、オランダのSenseGlove、そして米国のHaptXなどです。しかし、シャープの製品はこれらとは異なる独自の価値提案を持っています。

bHaptics TactGlove DK2(公式直販249USD、国内販売 3.3〜3.9万円程度)と比較すると、シャープの製品は価格こそ約3倍となりますが、「多分割触覚素子」による解像度の高さが大きな差別化要因です。bHapticsが12ポイントの触覚フィードバックに留まるのに対し、シャープは電極を細かく分割することで、より繊細な質感表現を目指しています。振動パターンの多様性において、シャープの技術は「さらさら」「ざらざら」といった微細な質感の違いまで表現可能とされており、これは既存製品では実現困難な領域です。

SenseGlove Nova 2(約83万円)は、フォースフィードバック機能により各指に最大20N(2kg相当)の物理的抵抗を与える高性能デバイスです。しかし、この製品は主に産業・医療分野向けで、一般消費者には手の届かない価格帯に位置しています。シャープの10万円という価格設定は、コンシューマー市場とプロフェッショナル市場の中間に位置し、VR愛好家にとって現実的な選択肢を提供しています。

シャープ独自の技術的優位性

最も注目すべきは、シャープが 「多分割駆動触覚素子」 という独自技術を開発している点です。この技術は、振動子上の電極を複数に分割し、部位ごとに異なる振動パターンを同時生成することで、従来のハプティック技術では表現困難だった複雑な質感を再現します。これは単純な振動モーターの配列とは根本的に異なるアプローチで、シャープのディスプレイ技術で培った電極制御技術の応用と考えられます。

さらに重要なのは、「オリジナル触覚データ作成機能」の搭載です。既存製品の多くが予め定義された振動パターンに依存するのに対し、シャープは一般的なゲームエンジンでの実装を前提とした開発者フレンドリーなアプローチを採用しています。将来的には「一般的な画像編集ソフトでも触覚データを編集可能」とする計画もあり、これはコンテンツ制作者にとって大きなメリットとなります。

市場ポジショニングの妙

シャープの戦略で特筆すべきは、「市場シェアの高いコントローラーへの取り付け方法を検討中」という方針です。これは既存のVRエコシステムとの互換性を重視した現実的なアプローチで、Meta QuestやValve Indexユーザーの既存投資を無駄にしない配慮が感じられます。

競合のUDCAP VRグローブ(約106,000円)やReality XR Game Glove(約68,200円)といった新興製品と比較しても、シャープの製品は「グローブ + コントローラー統合型」という独自カテゴリーを確立しています。完全なグローブ型ではない分、着脱の容易さや通気性の面で優位性があり、長時間のVR利用においても実用的です。

技術的課題と将来展望

現状では位置トラッキング機能を内蔵していない点が制約となっていますが、これは逆にコスト最適化と既存システムとの統合性を重視した設計判断と評価できます。フォースフィードバック非搭載についても、消費者向け市場では触覚表現の豊かさがより重要で、シャープの選択は的確です。

シャープ01プログラムという社内新規事業創出制度から生まれた本製品は、同社のディスプレイ・半導体技術の蓄積を背景に、VR/AR分野での新たな事業領域開拓を目指しています。ARグラス事業への参入実績も含め、XR技術への本格的なコミットメントが感じられます。

10万円という価格設定は、アーリーアダプター層には受け入れられる範囲であり、量産効果によるコストダウンが進めば、より広範な普及も期待できます。シャープの取り組みは、日本企業がXR分野で技術的優位性を確立する貴重な機会として、業界全体が注目すべき動向といえるでしょう。

【用語解説】

ハプティクス
触覚フィードバック技術の総称。振動や圧力で皮膚に刺激を与え、リアルな触感を再現する。

多分割触覚素子
振動子上の電極を複数に分割し、部位ごとに異なる振動を生成して質感の違いを表現する技術。

フォースフィードバック
デバイスによって指や手に物理的な抵抗を与え、仮想物体との物理的相互作用を模倣する技術。

ハンドトラッキング
カメラやセンサーで手指の動きを検出・追跡し、VR空間内で手を再現する技術。

【参考リンク】

シャープ VR触覚コントローラー 公式サイト(外部)
多分割駆動触覚素子搭載のVRグローブ&コントローラーに関する製品概要と事前登録情報

bHaptics 公式サイト(日本語)(外部)
32個の振動モーターを搭載したハプティックベストや触覚グローブを開発・販売する韓国企業

bHaptics TactGlove DK2 製品ページ(外部)
12ポイントの触覚フィードバックを備え、カメラベースのハンドトラッキングと互換性を持つ開発者向けグローブ

Meta Quest 開発者向けハプティクス情報(外部)
Meta Questコントローラーの振動パターン制御やSDK利用法を解説する公式ドキュメント

【参考記事】

CES Hands-On: bHaptics TactGlove Brings Feeling to Quest Hand-Tracking Games(外部)
bHapticsの触覚グローブをCESで体験レポートした記事

【編集部後記】

触覚グローブとコントローラーが一体化したデバイスを前に、皆さんはどんな仮想体験を思い描きますか?10万円という投資をどう評価し、どの用途で最も魅力を感じるでしょうか。リモート会議での握手やVRChatでのコミュニケーション、あるいは遠隔医療の現場――皆さんの視点から未来の活用シーンをぜひ想像してみてください。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!

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