OpenAI は CEO Sam Altman が7月にスマートグラスを「好まない」と明言したにも関わらず、ChatGPT グラスの制作を検討していることが報じられた。
同社は Apple のベテランデザイナー Jony Ive のスタートアップ io を買収し、デザインスタジオ LoveFrom とパートナーシップを締結している。当初 Altman は最初のデバイスをスクリーンレスなポケットサイズデバイスとし、グラスやウェアラブルではないと述べていた。
しかし The Information の報告によると、OpenAI は現在 Apple からデザイン、製造、サプライチェーンスタッフを引き抜き、「一連のデバイス群」を構築している。開発候補にはスマートスピーカー、スマートグラス、デジタル音声レコーダー、ウェアラブルピンが含まれる。
最初のデバイスは2026年後半から2027年に発売予定で、スマートグラスの急速な普及が続けば、OpenAI の発売時には AI の主要なフォームファクターとなり、Meta、Google、Apple に大きな優位性をもたらす可能性がある。
From: 
OpenAI Reportedly Considering Making ChatGPT Glasses
【編集部解説】
サム・アルトマンの発言が示すように、スマートグラス市場への参入は技術的な課題と戦略的な判断の複雑さを物語っています。スマートグラスには小型化されたディスプレイ、長時間駆動可能なバッテリー、自然な音声認識、空間認識センサーなど、多くの先進技術の統合が必要となります。これらの技術要素を一つのデバイスに収めることは、現在でも困難な工学的課題です。
OpenAIがAppleからスタッフを引き抜いている背景には、ハードウェア開発における深刻な人材不足があります。特にサプライチェーン管理と大量生産の経験を持つ人材は希少で、新規参入企業にとって最大の障壁となっています。Appleは長年にわたってこれらの専門知識を蓄積しており、そのノウハウを持つ人材の獲得は OpenAI にとって不可欠でしょう。
スマートグラスの普及が進むと、プライバシーとセキュリティの新たな課題が浮上します。常時センシング機能により、デバイスは周囲の環境や会話を継続的に記録・分析する可能性があるためです。これは個人の行動パターンや会話内容が常に監視される状況を生み出し、従来のスマートフォンとは比較にならないレベルのプライバシーリスクをもたらします。
技術的な進歩により、スマートグラスは従来のスマートフォンでは不可能だった体験を提供できます。拡張現実による情報オーバーレイ、リアルタイム翻訳、空間的なコンピューティングなどが実現すれば、人々の情報アクセス方法は根本的に変化するでしょう。特に視覚障害者や高齢者にとって、音声インターフェースと空間認識機能は大きな支援技術となる可能性があります。
規制面では、スマートグラスの普及に伴って新たな法的枠組みが必要になります。公共空間での録画・録音機能、生体認証データの収集、子どものプライバシー保護など、従来のウェアラブルデバイス規制では対応できない課題が山積しています。欧州のGDPRのような包括的なプライバシー法が、今後スマートグラス業界の発展を左右する重要な要因となるでしょう。
長期的には、スマートグラスが普及することで人間の認知能力が拡張される可能性があります。AI による即座の情報検索、多言語での自動翻訳、複雑な計算の実行などが日常的になれば、教育や仕事のあり方も大きく変わることが予想されます。一方で、デジタル依存や社会格差の拡大といったリスクも懸念されており、技術の恩恵を社会全体で共有するための仕組み作りが重要な課題となっています。
【用語解説】
OpenAI：2015年設立のAI研究開発企業。ChatGPTの開発元として知られ、現在はハードウェア事業にも進出している。
Jony Ive：元Apple上級副社長兼チーフデザインオフィサー。iPhone、iPad等の革新的デザインを手がけ、現在は独立したデザインスタジオLoveFromを運営。
LoveFrom：Jony Iveが設立したデザインスタジオ。OpenAIとのパートナーシップを通じて、新世代のAIハードウェア開発に携わっている。
フォームファクター：製品の物理的な形状、サイズ、外観デザインを指す技術用語。デバイスの使用方法や機能性に大きく影響する要素。
Contextual AI（コンテクスチュアルAI）：ユーザーの状況や環境を理解し、文脈に応じた適切な情報提供やサポートを行うAI技術。
Always-on Sensing（常時センシング）：デバイスが継続的に周囲の環境や状況を監視・認識する機能。バッテリー効率と機能性のバランスが重要。
【参考リンク】
OpenAI公式サイト（外部）
ChatGPTを開発するAI研究企業の公式サイト。最新の研究成果、製品情報、企業ビジョンを提供。
Meta公式サイト（外部）
Meta社の公式サイト。VRヘッドセットやスマートグラスなどの最新ハードウェア製品情報を提供。
【参考記事】
OpenAI might also be developing AI glasses, a voice speaker and more – The Verge（外部）
OpenAIの多角的なハードウェア開発計画について報告。スマートグラス以外にも複数のデバイス開発が進行中である可能性を示唆している。
Race to make smart glasses relevant heats up again with tech from Meta, Snap – TechXplore（外部）
Meta、Snapなど既存企業によるスマートグラス市場競争の激化を分析。IDC予測940万台、247.5%成長など具体的な市場データを提供している。
Meta Unveils Smart Glasses With Apps and an Artificial Intelligence Assistant – The New York Times（外部）
Metaの最新スマートグラス発表について詳細報道。AI機能の統合と799ドルの価格設定が業界に与える影響を分析している。
Will OpenAI Sell Ads? Plus New AI Glasses From Meta And HTC – Forbes（外部）
OpenAIのビジネスモデル展開とスマートグラス市場への参入が広告事業に与える影響について考察している。
【編集部後記】
Sam Altmanが「スマートグラスは好きではない」と断言してから2か月後のこの展開は、テクノロジー業界の変化の速さを物語っています。Meta Ray-Banが2024年には前年比で+210%の成長を達成し、市場規模が2030年には82.6億ドルに達すると予測される中、OpenAIの戦略転換は果たして賢明な判断なのでしょうか。それとも「乗り遅れ回避」の慌ただしい路線変更なのでしょうか？常時センシングによるプライバシーへの懸念と、視覚障害者支援や多言語翻訳などの社会貢献の間で、どのような製品設計が求められるのでしょう。2026年発売の時点で、既にMetaやAppleが築いたエコシステムに割って入ることは可能なのか、興味深い展開が予想されます。
