One-Off Robotics製8軸3Dプリンター、NRELが海洋エネルギー装置のプロトタイピング効率化

One-Off Robotics製8軸3Dプリンター、NRELが海洋エネルギー装置のプロトタイピング効率化 - innovaTopia - (イノベトピア)

NRELは2025年8月、テネシー州のOne-Off Roboticsがカスタマイズした新型レーザー駆動金属3DプリンターをFlatirons Campusに導入した。

最大1メートルのほぼ実物大構造物を製造でき、8軸により複雑な金属部品を短期間・低コストで造形可能である。

研究者のPaul MurdyとCasey Nicholsは海洋エネルギー装置の試作と実験を担当し、従来6〜9か月必要だった金属部品の提供期間を数日程度に短縮できるようになった。

ステンレス鋼や水力発電部品の造形も可能であり、船舶、給湯器、航空宇宙、自動車、食品・医薬・化粧品産業にも活用できる。

From: 文献リンクHeavy Metal Meets High Tides With 3D Printer

【編集部解説】

この新型3Dプリンターの導入によって、海洋エネルギー業界の技術開発スピードは大きく加速される可能性があります。従来、海洋環境における過酷な条件――腐食性の高い塩水、激しい波浪、強い海流――に耐えられる部品の開発には、長期間のテストと高額な費用が必要でした。

特に注目すべきは、8軸制御による複雑形状の造形能力です。従来の3軸プリンターでは不可能だった複雑なジオメトリーも実現でき、潮流や波力といった自然現象に最適化された設計が可能になります。これは海洋エネルギー技術にとって革新的な進歩と言えるでしょう。

技術的な側面では、1.2キロワットレーザーによる2,500度Fahrenheit(約1,371度Celsius)という高温造形により、ステンレス鋼などの高強度材料を扱えることが重要なポイントです。海洋環境では材料の強度と耐腐食性が生死を分けるため、プラスチック部品では到底対応できない用途に適用できます。

供給網の観点から見ると、この技術は重要な戦略的意義を持ちます。現在、多くの金属部品は海外製造に依存しており、調達に6〜9か月を要していました。しかし新システムでは数日での造形が可能となり、供給網の脆弱性を大幅に軽減できます。

一方で、潜在的な課題も存在します。金属3Dプリンティングは材料の微細構造に影響を与える可能性があり、従来の鍛造・鋳造品と異なる物性を示すことがあります。NRELチームが構造検証に注力している理由もここにあり、実用化には慎重な材料評価が不可欠です。

経済的インパクトとしては、プロトタイピングコストの劇的な削減が期待されます。海洋エネルギー業界が商業化に至っていない主因の一つが、実証試験の高コストでした。この技術により、より多くのアイデアが低リスクで検証可能となり、イノベーションの加速につながるでしょう。

規制面では、3Dプリンティング部品の認証基準整備が課題となります。特に海洋構造物は安全基準が厳格であり、新しい製造方法による部品の承認プロセスには時間を要する可能性があります。

長期的には、この技術は分散型製造の推進にも寄与します。各地域で必要な部品をオンデマンド製造できれば、物流コストの削減と環境負荷軽減の両方を実現できます。特に離島や遠隔地での海洋エネルギー設備メンテナンスにおいて、その効果は顕著に現れるでしょう。

【用語解説】

Flatirons Campus
NRELの研究施設の一つで、コロラド州に位置する。様々なエネルギー関連技術の研究開発が行われている。

レーザー駆動金属3Dプリンター
レーザーを熱源として金属粉末や金属線材を溶融させ、層状に積み重ねて立体物を造形する積層造形装置である。

8軸制御
従来の3軸(X、Y、Z方向)に加え、回転や傾斜などの動作軸を組み合わせた制御方式で、複雑な形状の造形を可能にする。

海洋エネルギー
波力、潮流、海流など海洋の運動エネルギーを利用して電力を生成する再生可能エネルギー技術である。

ステンレス鋼
鉄にクロムやニッケルを添加した合金で、高い耐腐食性と強度を持つため海洋環境での使用に適している。

WAAM(Wire Arc Additive Manufacturing)
ワイヤーアーク積層造形技術。金属ワイヤを電気アークで溶融させて積層する製造方法である。

【参考リンク】

NREL(アメリカ国立再生可能エネルギー研究所)(外部)
米国の再生可能エネルギー研究開発を牽引する国立研究所。海洋エネルギーから太陽光、風力まで幅広い技術開発を手がける。

One-Off Robotics(外部)
テネシー州チャタヌーガに拠点を置く金属積層造形専門企業。航空宇宙、防衛、研究機関向けシステムを提供。

【参考動画】

【参考記事】

Additive Manufacturing Could Turn the Tides for Marine Energy Technologies(外部)
NRELが海洋エネルギー分野で積層造形技術を活用し、早期の技術開発とプロトタイピングを促進する内容。

NREL large-scale 3D printer to aid research(外部)
金属積層造形の最新技術としてNRELの新型大型3Dプリンターの導入効果を報じる記事。

NREL Advances Sustainable Marine Energy Technology With 3D Printing(外部)
NRELの3Dプリンティング技術が持続可能な海洋エネルギー開発に貢献することを報告する海外記事。

【編集部後記】

海洋エネルギーはまだ未開拓の分野ですが、この3Dプリンター技術によって一気に実用化が加速するかもしれません。みなさんは、日本の豊富な海洋資源をどのように活用できると思いますか?

特に離島や沿岸部での分散型エネルギー供給において、オンデマンド製造による部品調達の革新は大きな可能性を秘めています。従来9か月かかっていた部品が数日で手に入るなら、メンテナンスコストも劇的に下がるでしょう。

読者のみなさんの地域でも、こうした技術が海洋産業や製造業にどんな変化をもたらすか、ぜひ一緒に考えてみませんか?

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TaTsu
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