ドイツのスタートアップAMAREA Technologyが、Multi Material Jetting（MMJ）技術を用いた産業用3Dプリンターを開発している。
同社は2023年2月3日にドレスデンで設立され、創設者はSteven Weingarten（CEO）、Lutz Gollmer（COO）、Robert Johne（CTO）の3名である。
MMJ技術の開発は2014年にフラウンホーファーセラミック技術・システム研究所（IKTS）で開始され、2021年から連邦経済気候保護省BMWKのEXIST研究転移プログラムの支援を受けて商業化された。
同社のMMJ ProX6L 3Dプリンターは、最大6種類の異なる材料を単一の印刷プロセスで同時処理できる。液滴径は200から1000μm以上、層高は80から500μmまで調整可能で、材料切り替えは1時間未満で完了する。
処理可能な材料には技術セラミックス、金属、複合材料、ポリマーが含まれる。対象産業はエレクトロニクス、航空宇宙、自動車、医療技術分野である。
From: 
#3DStartup: How AMAREA Technology is Shaping the Future of AM with Multi Material Jetting Technology
【編集部解説】
AMAREA Technologyが示すマルチマテリアル3Dプリンティングの技術は、製造業界におけるパラダイムシフトの象徴といえます。従来の3Dプリンティングが単一材料での造形に留まっていたのに対し、同社の技術は最大6種類の異なる材料を同一プロセスで処理できる点で革新的です。
この技術の背景にある重要な概念が「機能統合」です。例えば、従来であれば導電性部品と絶縁性部品を別々に製造し、後から組み立てる必要がありましたが、MMJ技術では一度の印刷で両方の特性を持つ部品を作成できます。これは製造工程の大幅な簡素化を意味し、組み立て工数の削減や品質の向上に直結します。
技術的な観点から見ると、ナノリットル範囲での材料堆積制御は極めて高度な技術です。液滴径200から1000μm以上という精度は、従来の製造技術では不可能な微細構造の実現を可能にしています。特に医療分野では、人体組織の特性勾配を模倣した人工関節や、電子回路が組み込まれた医療デバイスの製造が現実的になります。
しかし、この技術にはいくつかの課題も存在します。材料間の相互作用や熱処理工程の最適化は高度な材料科学知識を要求し、すべての企業が容易に導入できるとは限りません。また、マルチマテリアル対応設計には従来とは異なる思考プロセスが必要で、設計者の再教育が不可欠です。
産業への影響を長期的な視点で捉えると、この技術は「デジタルファクトリー」概念の実現に大きく貢献する可能性があります。オンデマンド製造や分散型生産モデルの普及により、サプライチェーンの短縮化と地産地消型製造の促進が期待されます。
規制面では、特に航空宇宙や医療分野での採用において、新しい品質保証基準や認証プロセスの確立が急務となるでしょう。現在の規制は単一材料での製造を前提としているため、マルチマテリアル部品に対応した新たな安全基準の策定が必要です。
この技術革新は、製造業の未来像を根本的に変える可能性を秘めています。従来の「設計→材料選択→製造→組み立て」という工程が「統合設計→一体製造」へと簡素化されることで、製品開発サイクルの劇的な短縮が実現するかもしれません。
【用語解説】
Multi Material Jetting (MMJ)
複数の異なる材料を1回の3Dプリント工程で同時に処理し、機能的に統合された部品を造形する技術である。
EXIST研究転移プログラム
イツ連邦経済気候保護省が支援する研究成果の産業応用促進プログラムである。
【参考リンク】
AMAREA Technology（外部）
ドイツ・ドレスデンを拠点とするマルチマテリアル3Dプリンティング技術のリーディングカンパニー
Fraunhofer IKTS（外部）
ドイツの応用材料研究機関で、陶磁器技術やシステムの研究・開発を行う
【参考記事】
Fraunhofer IKTS and AMAREA set new standards in 3D printing（外部）
AMAREA TechnologyがFraunhofer IKTSからスピンオフし、多材料ジェッティング技術の産業応用に成功した事例を報告
AMAREA Technology installs its new multi-material MMJ ProX 3D printer at Fraunhofer IKTS（外部）
AMAREAの最新マルチマテリアルプリンターが研究機関に導入され、その精度や用途の広がりについて論じられている
The State of Additive Manufacturing 2025（外部）
2025年のアディティブマニュファクチャリング市場の動向と技術導入の現状、特にマルチマテリアル印刷の課題および展望を包括的に解説
【編集部後記】
皆さんは、これまで複数の部品を組み立てて作っていた製品を、一度の3Dプリントで完成させる技術をどう思われますか。AMAREA Technologyの事例を見ていると、私たちが当たり前だと思っていた「設計→製造→組み立て」という工程が根本的に変わる可能性を感じます。
特に日本の製造業界でも、こうしたマルチマテリアル技術の導入が進めば、どのような新しい製品が生まれるでしょうか。皆さんの業界や身の回りで、この技術が活用できそうな場面があれば、ぜひお聞かせください。一緒に製造業の未来を考えてみませんか。
