Last Updated on 2025-05-23 14:44 by 乗杉 海
Metaは5月22日(現地時間、日本時間5月23日)、Meta Quest VRヘッドセット向けのHorizon OS v77アップデートの詳細を発表しました。このアップデートでは、InstagramフィードをVRヘッドセットで閲覧する際に、通常の2D写真を3D写真として表示する新機能のテストが開始されます。
この3D写真機能は、MetaのAI視覚合成アルゴリズムを使用して、特別な3Dカメラを使わずに撮影された既存の写真をピクセル単位で変換し、Quest上で奥行き感のある表示を実現します。ただし、すべてのユーザーがこの機能にアクセスできるわけではなく、テストグループに選ばれたユーザーでも利用開始まで時間がかかる場合があるとMetaは説明しています。
v77アップデートの主要機能として、「Navigator」と呼ばれる新しいハブシステムが実験的に導入されます。Navigatorは右コントローラーのMetaボタンでアクセス可能で、ゲーム、アプリケーション、友人、通知、重要なシステム設定への統合アクセスを提供します。ユーザーは最近使用したアプリケーションに素早くアクセスでき、最大10個のアイテムをピン留めして簡単に取得できます。
その他の新機能として、Bluetooth Low Energyオーディオデバイスの実験的サポート、ユーザーの動きに追従するウィンドウの選択機能、Meta Quest Link、キャスティング、リモートデスクトップ機能を統合した「Horizon for PC」という単一のPCアプリケーションが含まれます。また、空間オーディオのオン・オフ切り替え機能、テキスト読み上げ機能、Meta AIの新しいボタン組み合わせ(MetaボタンとグリップボタンによるMeta AI起動)も追加されます。
v77のPublic Test Channel(PTC)版は一部のユーザーに配信が開始されており、正式版は今後数ヶ月かけて段階的に全ユーザーに展開される予定です。
References:
Quest’s Horizon OS v77 Overhauls Navigator UI & Turns Instagram Photos 3D | UploadVR
【編集部解説】
今回のHorizon OS v77アップデートは、VR業界における重要な転換点を示しています。Metaが2024年9月のConnect 2024で予告していたNavigatorシステムがついに実装段階に入り、Quest誕生以来最大規模のUI刷新が現実のものとなりました。
この変更の背景には、VRヘッドセットが単なるゲーム機器から日常的な生産性ツールへと進化している現実があります。従来のドック型システムでは、複数のアプリケーションを同時に使用する際の操作性に限界がありました。Navigatorの導入により、ユーザーはWindowsのスタートメニューのような直感的な操作で、VR空間内での作業効率を大幅に向上させることができるでしょう。
Instagram 3D写真機能については、技術的な観点から注目すべき点があります。この機能はAI視覚合成アルゴリズムを使用して、既存の2D写真をピクセル単位で変換し、立体視効果を生み出します。Apple Vision ProやPico 4 Ultraでも類似機能が提供されていますが、大手ソーシャルネットワークがこの技術を本格的にテストするのは初めてのケースです。
この取り組みの意義は、ソーシャルメディアの未来を示唆している点にあります。現在のソーシャルメディアは基本的に2D体験に留まっていますが、VR技術の普及により、より没入感のあるソーシャル体験が求められるようになっています。Metaは「2Dから3Dへの移行」を長期戦略として掲げており、今回のテストはその第一歩と位置づけられます。
技術的な課題としては、AI生成による3D変換の品質の問題があります。すべての2D写真が自然な3D効果を生み出せるわけではなく、特に複雑な構図や被写体の写真では違和感のある結果になる可能性があります。また、処理能力の制約により、リアルタイムでの変換品質にも限界があるでしょう。
Bluetooth LE Audio対応については、VRヘッドセットの実用性向上において重要な意味を持ちます。従来のBluetoothオーディオと比較して、LE Audioは低遅延と省電力を実現しており、VR体験における音声の同期性を向上させます。これにより、長時間のVR使用時のバッテリー消費も軽減されるでしょう。
今回のアップデートで注目すべきは、段階的なロールアウト戦略です。MetaはPTC(Public Test Channel)を通じて限定的にテストを開始し、数ヶ月かけて全ユーザーに展開する予定としています。この慎重なアプローチは、大規模なユーザーベースを抱えるプラットフォームにおいて、安定性を確保するための賢明な判断といえます。
長期的な視点では、今回のアップデートはVRプラットフォームの成熟度を示す重要な指標となります。単なる技術的な改良ではなく、ユーザー体験の根本的な向上を目指した包括的なアプローチは、VR技術が一般消費者にとってより身近な存在になっていることを物語っています。
ただし、新機能の普及には時間がかかることも予想されます。特にNavigatorのようなUI変更は、既存ユーザーの学習コストを伴うため、Metaには丁寧なユーザー教育とサポートが求められるでしょう。
【用語解説】
Horizon OS:Meta Quest VRヘッドセット向けのオペレーティングシステム。従来のQuest OSから名称変更され、VRアプリケーションの実行、ユーザーインターフェース、システム機能を統合的に管理する。
Navigator:Horizon OS v77で導入予定の新しいハブシステム。右コントローラーのMetaボタンでアクセス可能で、ゲーム、アプリ、友人、通知、システム設定への統合アクセスを提供する。従来のUniversal Menuドック型UIに代わる革新的なインターフェース。
Universal Menu:従来のMeta Questで使用されていたドック型システムインターフェース。v77のNavigatorシステムにより置き換えられる予定。最大3つのアプリケーションを上部に固定できる機能を提供していた。
Public Test Channel(PTC):Meta Questの新機能を正式リリース前にテストするためのベータ版配信システム。開発者やアーリーアダプターが新機能を事前に体験し、フィードバックを提供できる。
Bluetooth Low Energy(BLE):Bluetooth 4.0から追加された低消費電力通信モード。従来のBluetoothと比較して省電力かつ低遅延を実現し、VRヘッドセットでの長時間使用に適している。
AI視覚合成アルゴリズム:2D画像をピクセル単位で解析し、奥行き情報を推定して3D効果を生成する人工知能技術。特別な3Dカメラを使用せずに既存の写真を立体視可能にする。
Portable Windows:v77で導入される新しいウィンドウ管理システム。従来のUniversal Menu上部に固定されていたアプリケーションウィンドウの新名称で、より簡素化されたインターフェースを提供する。
【参考リンク】
Meta Quest公式サイト(外部)MetaのVR/MRヘッドセット製品ラインナップを紹介する公式サイト。Quest 3S、Quest 3の詳細情報、価格、アクセサリー情報を提供している。