米国ドローン配送2025年大転換:FAA規制緩和でAmazon・Walmart・DoorDashが全米展開加速

米国ドローン配送2025年大転換:FAA規制緩和でAmazon・Walmart・DoorDashが全米展開加速 - innovaTopia - (イノベトピア)

連邦航空局(FAA)が2025年8月7日、ドローンの視界外飛行を容易にする新規則を提案した。これまで米国では商用ドローン配送が承認から6年以上経過しても郊外と農村地域に限定されていたが、状況が変わる可能性がある。

ウォルマートとGoogle傘下のWingは現在ダラス地域の18店舗でサービスを提供し、2026年夏までにアトランタ、シャーロット、ヒューストン、オーランド、タンパの100店舗に拡大予定である。Amazonはテキサス州カレッジステーションで2022年末にPrime Air配送サービスを開始後、フェニックス郊外に拡大し、ダラス、サンアントニオ、カンザスシティでの展開を計画している。

DoorDashはWingとFlytrexと協力してバージニア州農村部とダラス大都市圏でテストを実施後、シャーロットへの拡大を発表した。ウォルマートは2021年以降15万回以上のドローン配送を完了しており、上位商品はアイスクリーム、卵、リース・ピーナッツバターカップである。Wingのドローンは最大2.5ポンドの荷物を往復12マイル運搬可能で、1人のパイロットが最大32機を監督できる。

From: 文献リンクDelivery drones may soon take off in the US. Here’s why

【編集部解説】

これまで米国では、2019年にFAAが商用ドローン配送を承認して以来、6年間という長期間にわたって一部の郊外と農村地域に限定されていた理由は、規制の複雑さにありました。企業は個別の免除申請や航空運送業者認証を取得する必要があり、これが普及の大きな障壁となっていたのです。

今回提案されたPart 108規則は、まさにこの問題を解決することを目的としています。最大1,320ポンド(約600kg)までの貨物を運搬可能な枠組みを設定し、高度400フィート以下での運用を標準化することで、従来のケースバイケースの免除申請制度を合理化します。

技術的な観点から見ると、現在の主要プレイヤーの能力差は興味深い状況です。Wingのドローンは最大2.5ポンド、往復12マイルという制約がある一方、Ziplineは4ポンド、往復120マイルと大幅に上回る性能を持っています。これは、都市部での小口配送と郊外・農村部での長距離配送という異なる市場ニーズに対応していることを示している状況です。

経済性の課題も見逃せません。記事中のミズーリ大学の研究によると、現在ドローン配送のコストは1回あたり約13.50ドルと、従来の車両配送の2ドルと比較して約7倍高い状況です。ただし、これは初期段階の技術であることを考慮すると、スケールメリットと技術革新により今後大幅に改善される見込みです。

ただし、AmazonのPrime Airサービスについては、2025年1月にMK30ドローンのソフトウェア更新のため一時停止され、3月末に再開された経緯があります。これは安全性を最優先とする同社の慎重なアプローチを示すものと考えられます。

潜在的なリスクについては、プライバシーの侵害と騒音問題が住民から指摘されています。AmazonはCollege Station住民からの苦情を受けて、より静音性の高いドローンを開発するなど、社会受容性の向上に積極的に取り組んでいます。これは、技術的優位性だけでなく、コミュニティとの共存が商用展開の成功に不可欠であることを物語っています。

労働市場への影響については、記事中のDoorDashの事例が示唆的です。ドローン配送サービスを導入した地域で、従来の人間による配送サービスの需要も同時に増加しているという現象は、新技術が既存の雇用を代替するのではなく、むしろ全体的な配送需要を喚起している可能性を示唆します。

長期的な視点で考えると、この規制変更は米国が中国などの競合国に対する技術的優位性を維持するための戦略的な動きでもあるでしょう。Transportation Secretary Sean Duffyが言及したように、国内でのイノベーションを促進しなければ、技術開発の主導権を他国に奪われるリスクがあるという危機感が背景にあると予想されます。

今回の展開は、単なる配送手段の多様化を超えて、都市のインフラストラクチャーそのものを変革する可能性を秘めています。innovaTopiaの読者の皆さんには、この技術が日本市場にいつ、どのような形で導入されるかにも注目していただきたいところです。

【用語解説】

FAA(Federal Aviation Administration)
米国連邦航空局。米国の航空安全と航空交通を管理する政府機関で、商用ドローンの規制と承認を担当している。

BVLOS(Beyond Visual Line of Sight)
視界外飛行。パイロットが目視できない範囲でドローンを飛行させる技術で、長距離配送に不可欠である。

UTM(Unmanned Aircraft System Traffic Management)
無人航空機交通管理システム。ドローンの飛行経路を管理し、他の航空機や障害物との衝突を回避するためのシステム。

Part 107/Part 108
FAA規則の一部。Part 107は商用ドローンの運用に関する基本的な規制を定めており、今回提案されているPart 108は、より高度な商用ドローン運用のための新しい規則である。

Alphabet Inc.
Googleの親会社。WingやWaymoなど、革新的な技術企業を傘下に持つ持株会社である。

【参考リンク】

Wing公式サイト(外部)
Googleの親会社Alphabet傘下のドローン配送企業で軽量自律配送ドローンによる数分配送を提供

Zipline公式サイト(外部)
世界最大規模の自律配送システム運営企業でルワンダ・ガーナで医療用品配送実績を持つ

DoorDash Investor Relations(外部)
フードデリバリー大手がWingやFlytrexとのパートナーシップで展開するドローン配送プログラム

Amazon Prime Air(外部)
Amazonが展開するドローン配送サービスでテキサス州からフェニックス郊外へ拡大中

FAA無人航空機システム(外部)
米国連邦航空局の公式ドローン情報で2025年7月時点で82万台以上の登録実績

【参考動画】

【参考記事】

Wing and Walmart announce world’s largest drone delivery expansion(外部)
WingとWalmartによる史上最大規模のドローン配送拡大で200万人をカバー

Amazon resumes drone deliveries after two-month pause(外部)
Amazon Prime Airが2月間の一時停止を経て3月31日に配送を再開した経緯

Pause on Amazon drone deliveries reveals the path forward(外部)
Amazon Prime Airの一時停止の詳細解説とMK30ドローンクラッシュの予防的措置

Walmart to expand drone deliveries to three more states(外部)
Walmartが3州100店舗でのドローン配送拡大を発表し配送料金も公開

DoorDash Expands Drone Delivery Partnership with Wing in Charlotte(外部)
DoorDashとWingがシャーロットでの提携拡大で地元商業施設と連携

DOT Announces Progress on Key Drone Regulations(外部)
運輸省がドローン規制の重要進展を発表し最大1320ポンド対応プロセス導入

GoTo Foods partners with DoorDash for drone delivery service(外部)
GoTo FoodsがDoorDashとパートナーシップ締結でテキサス3市場で配送速度改善

【編集部後記】

米国でのドローン配送の急速な展開を見ていると、日本の物流業界にも大きな変化の波が押し寄せてくることを感じずにはいられません。皆さんは、もしご自宅の庭にドローンが降りてきてアイスクリームを届けてくれたら、どんな気持ちになるでしょうか。

日本では山間部や離島での医療用品配送から始まったドローン活用ですが、都市部での商用配送はまだ限定的です。騒音やプライバシー、安全性への懸念もある一方で、人手不足に悩む配送業界にとっては救世主となる可能性も秘めています。皆さんが考える理想的なドローン配送の在り方や、日本独自の課題について、ぜひSNSで意見を聞かせてください。一緒にこの未来の物流システムについて考えてみませんか。

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TaTsu
デジタルの窓口 代表 デジタルなことをまるっとワンストップで解決 #ウェブ解析士 Web制作から運用など何でも来い https://digital-madoguchi.com

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