2025年11月、米国カリフォルニア連邦裁判所でFigmaが集団訴訟に直面した。Figmaはクラウド型デザインツールを提供する企業で、AlphabetやMicrosoft、Netflixといった大手企業を顧客に持ち、OpenAIとの提携により高度なAI機能の実装を進めている。
今回の訴訟でFigmaは、顧客データや知的財産を本人の許可なくAIモデル開発や生成AIツールのトレーニングに利用したと指摘された。訴状によれば、同社の行為は2025年7月に実施された調達額12億ドル規模の新規株式公開(IPO)における企業評価額形成にも影響したとされる。原告側は、不正なデータ利用が高額なバリュエーションを支える要因の一つになっていたと主張している。
原告側は、ユーザーに無断でデータ利用設定を「自動登録(オプトアウト)」の状態にしていた点も問題視している。Figma側は、「明示的な許可なしで顧客データは使わない」「取得時も匿名化処理を行っている」と反論しているが、規約変更時の通知プロセスやデフォルト設定の透明性が争点となっている。訴訟では損害賠償に加え、当該AIモデルの恒久的な利用差し止めが求められている。知的財産の価値は「数十億から数百億ドル」と試算されている。
From:
Figma sued for allegedly misusing customer data for AI training
【編集部解説】
Figmaが直面した今回の訴訟は、近年の生成AI関連サービスにとって非常に象徴的な出来事だと感じます。まず、クラウド型デザインツールを持つFigmaが、ユーザーの明示的な許可なしに顧客データや知的財産をAIモデル開発に利用したという疑いが浮上したことは、デジタル社会の信頼や倫理観に大きな影響を与えています。
実際、Figma側は「明確な許可がない顧客データは利用していない」「取得時には匿名化など追加措置を施している」と説明していますが、原告側は「ユーザー通知や事前許諾も不十分だった」と主張しているため、合意形成や説明責任のあり方が改めて問われている状況です。
この訴訟の特徴として、著作権侵害だけに焦点を当てているわけではなく、営業秘密の不正利用やデータガバナンス、クリエイター・企業ユーザーの権利保護まで問題視されている点が挙げられます。ここ数年、OpenAIやMetaのような他社サービスにも同様の訴訟事例が多発しており、AIモデルの「学習素材」としてユーザーデータを使う行為に対して法的、倫理的な規制のあり方が世界的に議論されています。AIを使った新規サービスの拡大は、利便性や業務効率を高める反面、「誰が・どこで・どのように自分の創作物やデータが使われるのか」という疑問や不安も呼び起こしているのです。
今後は、デザイナーやクリエイターだけでなく一般企業・個人ユーザーも、自分の情報がAIモデルにどう活用されているのか、さらにその履歴や活用結果がどう管理・保護されるかを主体的に考えていく必要が高まるでしょう。SaaSやクラウドサービスを利用する事業者・開発者も、利用規約やプライバシーポリシーの透明性だけでなく、AIモデルへの学習データ履歴を可視化する仕組みを求められる可能性が出てきました。
あわせて、AI開発企業は、技術イノベーションと人間主体の権利擁護とのバランスをいかに取るかが試される時代だとも言えます。Figmaの事例は、グローバルに拡大するAI産業全体におけるガイドラインや規制設計にも影響し、今後はユーザーと企業、クリエイターとプラットフォーム運営側が双方向で「未来のルール作り」に関わる必要があるでしょう。
【用語解説】
IPO(Initial Public Offering)
企業が株式を新規公開すること。
【参考リンク】
Figma公式(外部)
クラウドベースのコラボレーション型デザインツールを提供する公式サイト。幅広いプロダクト情報や導入事例を掲載。
Alphabet(Google親会社)公式(外部)
Googleや関連事業を統括する持株会社の公式サイト。テクノロジー投資・研究情報が充実。
Microsoft公式(外部)
WindowsやOfficeで知られる米IT大手の公式ページ。法人向けクラウドやAI開発情報も発信。
Netflix公式(外部)
ストリーミング動画配信サービスの公式サイト。コンテンツ制作と最新技術導入にも積極的。
OpenAI公式(外部)
生成AI「ChatGPT」、研究・API公開などを進める組織の総合ページ。
ChatGPT公式(外部)
OpenAIが提供する対話型AIサービスChatGPT専用のチャットページ。
【参考記事】
Figma Trained AI on User Data Without Consent, Class Action Says(外部)
FigmaによるユーザーデータのAI訓練活用疑惑を報道。営業秘密やデータ保護の側面に注目した記事。
Figma hit with class action for using customer designs to train AI(外部)
AIモデル開発のために顧客デザインが利用された点や、倫理・規制上の波紋などを詳しく解説。
【編集部後記】
AIやクラウドサービスの進化は創作や仕事のやり方そのものの幅を広げてくれますが、その利便性の裏で「自分のデータや作品がどのように扱われているか」といった疑問や不安も高まります。
みなさんは、ご自分のデータ・アイデアがどこまでAIなどテクノロジーの進化に役立てられて良いと思いますか?
























