生成AI、個人の創造性向上と集団の多様性低下のジレンマ – UCLとエクセター大学の最新研究が示す両刃の剣

2024年7月24日7:16

Last Updated on 2024-07-24 07:17 by TaTsu

2024年7月12日、ロンドン大学カレッジ（UCL）とエクセター大学の研究者らが、生成AIが創造性に与える影響に関する新たな研究結果を発表した。この研究は学術誌「Science Advances」に掲載された。

研究では、300人の非プロ作家を対象に、8文からなる短編小説を書くよう依頼した。参加者は3つのグループに分けられ、AIの助けを借りずに執筆するグループ、ChatGPTから1つのアイデアを得るグループ、5つのAI生成アイデアから選択できるグループに分類された。

結果、AI支援を受けた作家の物語は、novelty（新規性）で最大8.1%、usefulness（有用性）で9%向上した。特に、5つのAIアイデアを利用できたグループが最も大きな創造性の向上を示した。

また、もともとの創造性が低い作家ほどAIの恩恵を受け、noveltyで10.7%、usefulnessで11.5%の向上が見られた。これにより、創造性の高低差が平準化される傾向が示された。

一方で、AI支援を受けた物語は互いに類似性が高くなり、1つのAIアイデアを使用した場合、AI不使用群と比べて10.7%の類似性増加が確認された。

この研究は、生成AIが個人の創造性を向上させる一方で、集団としての多様性を減少させる可能性を示唆している。

【編集部解説】

今回の研究結果は生成AIの活用に関して重要な示唆を与えてくれています。個人の創造性向上と集団の多様性低下というトレードオフは、私たちが慎重に考慮すべき点です。

まず、個人レベルでの創造性向上は非常に興味深い発見です。特に、もともとの創造性が低い人ほど大きな恩恵を受けるという点は注目に値します。これは、生成AIが創造性の「民主化」をもたらす可能性を示唆しています。

一方で、集団レベルでの多様性低下は懸念すべき問題です。ボストン・コンサルティング・グループ（BCG）の研究によると、GPT-4を使用したグループでは、アイデアの多様性が41%も低下したそうです。これは、長期的なイノベーション能力に影響を与える可能性があります。

また、生成AIの活用には適材適所があることも忘れてはいけません。BCGの研究では、創造的な製品イノベーションタスクでは90%の参加者のパフォーマンスが向上した一方、ビジネス問題解決タスクでは23%パフォーマンスが低下したそうです。

このような結果は、生成AIの活用方法について私たちに再考を促しています。個人の能力向上と組織の多様性維持のバランスをどのように取るべきか、真剣に検討する必要があるでしょう。

さらに、生成AIへの過度の依存がもたらすリスクも考慮すべきです。BCGの研究参加者の約70%が、GPT-4の長期的な使用が創造力を阻害する可能性を懸念しているそうです。

これらの課題に対処するためには、生成AIを補助ツールとして賢く活用する方法を模索する必要があります。例えば、AIが生成したアイデアを出発点として、人間がさらに発展させていくアプローチなどが考えられます。

また、組織内でのアイデア共有や議論の機会を増やすことで、AIによる同質化を防ぐ努力も重要でしょう。

最後に、この研究結果は生成AIの影響が創造性の分野にとどまらないことを示唆しています。教育、ビジネス、文化など、社会のあらゆる側面に波及する可能性があります。

私たちは今、AIと人間の能力を最適に組み合わせ、イノベーションを促進しつつ多様性を維持するという難しい課題に直面しています。この課題に対する解決策を見出すことが、今後のAI時代における私たちの重要な使命となるでしょう。

生成AI（ジェネレーティブAI）：
大量のデータから学習し、新しいコンテンツを創造するAI技術です。例えるなら、料理人が様々な食材や調理法を学び、新しいレシピを生み出すようなものです。
創造性：
新しいアイデアや概念を生み出す能力のことです。例えば、子どもが積み木で今までにない形を作り出すような、独創的な思考や表現力を指します。
新規性：
これまでにない、新しい特徴や性質のことです。例えるなら、スマートフォンが登場した時のように、既存の概念を覆す斬新さを持つことを意味します。