Nothingは、ユーザーが自然言語で説明するだけでモバイルアプリを作成・共有できるAIプラットフォーム「Essential」を発表した。Nothingスマートフォン向けの新機能「Essential Apps」では、チャットボットと会話するように指示を出すことで、名刺スキャンディレクトリや会議後のアクションアイテム抽出、写真ダイアリーなどのアプリを生成できる。
作成したアプリは技術的な手間なしにホーム画面へ直接追加して使用可能だ。このプラットフォームは専用スペース「Playground」を中心に構成され、AI搭載の開発ツールキットを提供する。Playgroundは初代のNothing Phone(1)を除くすべてのNothingスマートフォンユーザーに提供されており、創業責任者Carl Peiを含むコミュニティメンバーが作成したアプリが既に多数存在する。ユーザーは他者が作成したアプリをダウンロードして改良することも可能だ。
From: Nothing just opened the door for anyone to build their own mobile app. Yes, even you
【編集部解説】
Nothingが発表した「Essential」プラットフォームは、ノーコード開発の概念をさらに一歩進めた試みです。ただし、現時点で作成できるのはフルスクリーンアプリではなく、ホーム画面上で動作するウィジェットに限定されています。Nothingは技術的成熟度を理由に、まだフルスクリーンアプリの開発には対応していないと明言しています。
TechCrunchの報道によれば、現在作成できるのはフライトトラッカー、次回ミーティングの概要表示、バーチャルペットといったウィジェットです。より技術的知識のあるユーザーはコードを修正して機能を微調整することも可能となっています。
従来のノーコードツールが開発者の裾野を広げることを目指していたのに対し、Essentialは「アプリを作る」という行為そのものを日常会話の延長線上に置こうとしています。注目すべきは、このプラットフォームがスマートフォン上で完結する点です。ChatGPTのカスタムGPTやGeminiのGemsといった既存のAI活用ツールと比較されていますが、Essentialはモバイルデバイスのネイティブ機能と深く統合されています。
カメラロール、カレンダー、ギャラリーといったスマートフォン固有のデータソースに直接アクセスし、それらを組み合わせたウィジェットを生成できる点が差別化要素です。「Playground」というコミュニティスペースの存在も重要でしょう。ユーザーが作成したウィジェットを共有し、他者が改良を加えられる仕組みは、オープンソース文化をモバイルアプリ開発に持ち込んだと言えます。
この発表は、Nothingが数週間前にTiger Globalが主導するラウンドで2億ドルの資金調達を実施した直後に行われました。CEO Carl Peiは当時、AI機能を備えたOSの構築と新たなAI中心のデバイス開発を目指すと述べており、今回のPlaygroundの発表はその戦略の具体化と言えます。
Nothingはスマートフォン市場において世界シェア1%未満という小規模企業ですが(IDCのデータによる)、Peiはこの立場が有利だと考えています。創業から5年で10億ドル以上の売上を達成し、数百万台のデバイスを出荷してきた実績は、大手に対抗する独立系チャレンジャーとしての可能性を示しています。
一方で、自然言語だけでウィジェットを生成する仕組みには課題も存在します。セキュリティとプライバシーの管理がどこまで担保されるのか、生成されたコードの品質や効率性はどうなのか、という技術的な疑問が残ります。また、誰でも簡単にウィジェットを作れる環境は、悪意のあるアプリケーションの拡散リスクも高めます。コミュニティ駆動型プラットフォームには強力なモデレーションが不可欠です。
Nothingが長期的に目指すのは「Essential OS」という完全なAIネイティブOSであり、その登場は2027年前半と予告されています。現在のEssential AppsとPlaygroundは、その第一歩に過ぎません。スマートフォンを単なる消費デバイスから創造デバイスへと変容させる試みは、モバイルOSの在り方そのものを問い直すものと言えるでしょう。
【用語解説】
Essential Space
Nothingが2025年3月にPhone (3a)シリーズと共に発表したAI搭載アプリ。スクリーンショット、音声メモ、会議の文字起こしなどを一元管理するデジタルメモリーバンクとして機能する。専用の「Essential Key」ボタンで素早くアクセス可能。
ノーコード開発
プログラミング言語を記述せずにアプリケーションを開発する手法。ビジュアルインターフェースや自然言語での指示により、技術的知識がなくてもソフトウェアを作成できる。
ウィジェット
スマートフォンのホーム画面に配置できる小型のアプリケーション要素。天気予報、時計、カレンダーなど特定の情報や機能を提供する。フルスクリーンアプリとは異なり、ホーム画面上で直接動作する。
カスタムGPT
OpenAIが提供するChatGPTの機能で、ユーザーが特定の目的に特化したAIアシスタントを作成できる。指示とデータを与えることで、独自の応答パターンを持つGPTを構築可能。
Gemini(Gems)
Googleが提供する生成AIサービス。Gemsは特定のタスクや用途に特化したカスタマイズ可能なAIアシスタント機能を指す。
Tiger Global
米国の投資会社。テクノロジー企業への投資で知られ、Nothingの2億ドル資金調達ラウンドを主導した。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
スマートフォンが「作る道具」になる未来を、皆さんはどう捉えますか。プログラミング知識なしで、会話するだけで日常の小さな不便を解決するウィジェットを生み出せる世界。それは創造性の民主化なのか、それとも新たな技術的課題の始まりなのか。現時点ではフルスクリーンアプリではなくウィジェットという制約はありますが、Nothingの挑戦は私たちとデバイスの関係性を根本から問い直しています。