Appleは11月17日にiOS 26.2開発者ベータ3をリリースし、その中でサイドボタンの長押しで起動する音声アシスタントを変更できる機能のコードが発見された。当初この機能は欧州連合のデジタル市場法への対応としてEUユーザー向けと報じられたが、Apple公式ドキュメントにより日本ユーザー向けが先行実装されることが判明した。
日本では2025年8月にモバイルソフトウェア競争促進法が可決され、12月にガイドラインが施行される。これによりプラットフォーム事業者は自社サービスを優遇せず、サードパーティアプリに音声アシスタントやハードウェアレベルのユーザーインタラクションへのアクセスを提供することが求められる。
コードには「サイドボタンが%@に割り当てられている間、長押しして話す機能は利用できません」などの文字列が含まれており、ユーザーはGoogle Gemini、Amazon Alexa、DeepSeekなどのサードパーティアシスタントを選択できる可能性がある。EUへの展開時期は不明である。
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iOS 26.2 may let EU users shift from Siri to other voice assistants
【編集部解説】
Appleが2025年11月17日にリリースしたiOS 26.2開発者ベータ3には、同社のエコシステム戦略における重要な転換点が示されています。当初EU市場向けと報じられたこの機能ですが、実際には日本のユーザーが先行実装の対象となることが判明しました。
この変更の背景には、日本で2024年6月に可決され、2025年12月18日に完全施行される「特定スマートフォンソフトウェアの競争促進に関する法律」（モバイルソフトウェア競争促進法）があります。この法律は日本公正取引委員会が主導し、AppleやGoogleといったプラットフォーム事業者に対して、自社サービスを優遇せず、サードパーティアプリに音声アシスタントやハードウェアレベルのユーザーインタラクションへの公平なアクセスを提供することを義務付けるものです。
技術的な実装としては、iPhoneのサイドボタン長押しで起動するアシスタントを変更できる仕組みが用意されます。開発者はApp Intentsフレームワークを採用することで、自社の音声アシスタントアプリをサイドボタンに割り当て可能にできます。これにより、ユーザーはGoogle Gemini、Amazon Alexa、あるいは他の音声アシスタントをデフォルトとして選択できるようになります。
興味深いのは、Appleがこの変更を実施するタイミングです。同社は現在、Siri自体の大幅なアップデートに苦戦しています。2024年6月のWWDCで発表された新しいSiriは、個人コンテキストの理解、画面認識、アプリ間でのアクション実行といった革新的な機能を搭載する予定でした。しかし、当初iOS 18.4での実装が予定されていたこれらの機能は、技術的な課題により延期が続いています。
2025年3月、Appleは正式に遅延を認め、「予想より時間がかかる」と表明しました。最新の報道によれば、iOS 26.4（2026年3月〜4月頃のリリース予定）での実装を目指していますが、内部テストでは依然として懸念が報告されており、基本的なタスクでも期待通りの動作をしていないとされています。この遅延により、iPhone 16を購入したユーザーからは集団訴訟も起こされています。
つまり、Appleは自社のSiriを改善できない状況下で、法規制により競合する音声アシスタントへの扉を開かざるを得ない、という皮肉な立場に置かれているのです。
EUに関しては、デジタル市場法（DMA）が同様の要件を定めており、Appleはプラットフォーム事業者として「ゲートキーパー」に指定されています。DMAは、ゲートキーパーがサードパーティアプリメーカーに対して、自社がiOS内で利用するのと「同じハードウェアおよびソフトウェア機能」を提供することを求めています。また、ユーザーがオペレーティングシステム、仮想アシスタント、Webブラウザのデフォルト設定を「簡単に変更できる」必要があると規定しています。
ただし、日本での実装時期が12月18日の法施行に合わせて設定されているのに対し、EU向けの展開時期は現時点では不明です。Appleの開発者向けドキュメントでは、この機能が日本向けに限定されることが明記されており、EU展開には別途の対応が必要になると見られます。
この変更がもたらす影響は多岐にわたります。ユーザーにとっては選択肢が増え、より自分のニーズに合った音声アシスタントを使用できるようになります。特に、Google HomeやAmazon Echoといった他社のスマートホームエコシステムを利用しているユーザーにとっては、デバイス間の統合が容易になるでしょう。
一方で、開発者にとっては新たな機会が生まれます。iOSという巨大なプラットフォーム上で、自社の音声アシスタント技術を直接ユーザーに届けられるようになるためです。ただし、App Intentsフレームワークの採用が必須となるため、対応には開発リソースの投入が必要です。
Appleにとっては、これまで築いてきた統合的なエコシステムの優位性が試される局面です。Siriの性能向上が遅れる中で、ユーザーが他社の音声アシスタントに大量に流出する可能性があります。その一方で、規制当局との協調関係を構築し、将来的な法的リスクを回避できるという利点もあります。
長期的には、この動きは音声アシスタント市場全体の競争を促進する可能性があります。各社は機能、精度、速度、プライバシー保護などの面で競い合うことになり、最終的にはユーザーにとってより良いサービスが提供されることが期待されます。
iOS 26.2の正式リリース時期はAppleから公表されていませんが、日本のモバイルソフトウェア競争促進法が12月18日に施行されることから、それに合わせたタイミングでのリリースが見込まれます。日本のユーザーは法施行後、この新機能を利用できるようになる見込みです。Appleがこの転換点をどのように乗り越え、自社のエコシステムの魅力を維持していくのか、2026年は重要な年になりそうです。
【用語解説】
iOS 26.2
Appleが2025年12月頃にリリース予定のiPhoneおよびiPad向けオペレーティングシステムのマイナーアップデート版である。開発者ベータ版として先行配信され、新機能のテストや不具合の修正が行われる。
デジタル市場法（DMA）
欧州連合が2022年に制定し、2024年から施行されているデジタルプラットフォーム規制法である。AppleやGoogleなどの大手テック企業を「ゲートキーパー」と定義し、公正な競争環境の確保と消費者保護を目的とする。
モバイルソフトウェア競争促進法
日本が2024年6月に可決し、2025年12月18日に完全施行される法律である。スマートフォンのOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンにおける競争を促進し、プラットフォーム事業者による自社サービス優遇を禁止する。
App Intents
Appleが提供する開発者向けフレームワークで、アプリの機能をSiriやショートカットなどのシステムレベルで統合できるようにする技術である。これにより音声コマンドでアプリ内の操作が可能になる。
Apple Intelligence
Appleが2024年に発表した独自のAI機能群の総称である。デバイス上での処理を重視し、プライバシー保護を優先した設計となっている。Siriの強化や画像生成、テキスト要約などの機能を含む。
WWDC（Worldwide Developers Conference）
Appleが毎年6月に開催する世界開発者会議である。新しいOSや開発ツール、技術の発表が行われ、開発者向けのセッションが多数実施される。
ゲートキーパー
デジタル市場法において、市場支配力を持つデジタルプラットフォーム事業者を指す用語である。月間アクティブユーザー数や市場シェアなどの基準により指定される。
【参考リンク】
Apple – iOS 26（外部）
Appleの公式iOS 26紹介ページ。最新のオペレーティングシステムの機能や変更点について詳細情報を提供している
Japan Fair Trade Commission – Mobile Software Competition Act（外部）
日本公正取引委員会によるモバイルソフトウェア競争促進法のガイドライン公表ページ。法律の詳細と施行スケジュールを確認できる
European Commission – Digital Markets Act（外部）
欧州委員会によるデジタル市場法の公式ページ。ゲートキーパー指定企業や規制内容について包括的な情報を提供
Google Gemini（外部）
Googleが開発した次世代AIアシスタント。自然言語処理と多様なタスク実行能力を備えている
Amazon Alexa（外部）
Amazonの音声アシスタントサービス。スマートホーム連携や音声ショッピングなどの機能を提供している
【参考記事】
iOS 26.2 Might Let iPhone Users in the EU Replace Siri With a Third-Party Assistant（外部）
MacRumorsによる報道。iOS 26.2ベータ3のコード解析から発見されたサイドボタン設定変更機能について詳細に解説している
Designation of Specified Software Operators under the Act on Promotion of Competition for Specified Smartphone Software（外部）
日本公正取引委員会による指定事業者の発表。2025年3月31日に特定ソフトウェア事業者としてAppleとGoogleが指定されたことを報告
Apple Plans to Release Delayed Siri Apple Intelligence Features in Spring 2026（外部）
Siriの大幅アップデートが2026年春のiOS 26.4まで延期されることを報じる記事。内部での技術的課題について詳述している
iOS 26.2 Side button virtual assistant settings were actually meant for Japan（外部）
AppleInsiderによる続報。当初EU向けとされた機能が実際には日本向けであることを開発者ドキュメントから確認した記事
The Mobile Software Competition Act and Its Impact on the Japan Fair Trade Commission（外部）
日本のモバイルソフトウェア競争促進法の詳細と公正取引委員会の取り組みについて包括的に解説した2025年3月の記事
iOS 26.2 leak shows iPhone might let you replace Siri as default assistant（外部）
9to5Macによるコード解析記事。SystemVoiceAssistantシステムアプリの発見とサイドボタンアプリ設定の実装について報告
Japan: Apple Must Lift Browser Engine Ban by December（外部）
Open Web Advocacyによる分析記事。日本の法律がブラウザエンジンの選択自由化も求めていることを詳しく解説している
【編集部後記】
長年Siriを使い続けてきた私たちにとって、音声アシスタントの選択肢が広がることは喜ばしい変化かもしれません。一方で、Appleが築いてきた統合的なエコシステムの魅力も確かに存在します。みなさんは、もし選択できるようになったら、Siriを使い続けますか？それとも他のアシスタントに切り替えてみたいと思いますか？日本が世界に先駆けてこの変化を体験できることは、テクノロジーの未来を考える上で貴重な機会だと感じています。規制による変化が、結果的にどのような革新を生み出すのか、私たちも注目していきたいと思います。
