Last Updated on 2024-08-12 07:40 by admin
カリフォルニア大学ボルダー校の古生物学者カール・シンプソン氏の研究チームが、複雑な生命の起源に関する新しい仮説を提唱した。この研究結果は2024年8月9日にQuanta Magazineで報告され、その後WIREDでも取り上げられた。
従来の学説では、複雑な生命の誕生は約5億4000万年前の「カンブリア爆発」とされていたが、新たな仮説では、約21億年前に複雑な生命が出現した可能性が示唆されている。
研究チームは、冷水の物理的特性が生命の複雑化を促進したと考えている。冷水中では水の粘性が高くなり、微小な生物の移動が困難になる。これが複雑な生命体の発達に必要な変化を促した可能性がある。
シンプソン氏らは、現代の単細胞生物を用いた実験を行い、高粘性環境下で生物がどのように反応するかを観察した。その結果、藻類が大きな集団を形成し、協調して動くようになることが確認された。
この仮説は、地球の気候変動の歴史と生命の進化の関連性を示唆している。約24億年前の「大酸化事件」後の地球の寒冷化が、複雑な生命の出現を促した可能性がある。
新しい仮説は、生命の起源に関する従来の時間軸を大幅に書き換える可能性があり、生物学や地球科学の分野に大きな影響を与えると考えられている。ただし、この仮説にはまだ議論の余地があり、さらなる研究が必要とされている[1][2]。
from:The Physics of Cold Water May Have Jump-Started Complex Life
【編集部解説】
今回の研究結果は生命の起源に関する私たちの理解を大きく変える可能性を秘めています。カリフォルニア大学ボルダー校の古生物学者カール・シンプソン氏らの研究チームが提唱した新しい仮説は、複雑な生命の誕生時期を従来の学説よりもさらに古い時代に遡らせる可能性があります。
この仮説の核心は、冷水の物理的特性にあります。冷水中では水の粘性が高くなり、微小な生物の移動が困難になります。これが複雑な生命体の発達に必要な変化を促した可能性があるという考えは、非常に興味深いものです。
シンプソン氏らは、現代の単細胞生物を用いた実験を行い、高粘性環境下で生物がどのように反応するかを観察しました。その結果、藻類が大きな集団を形成し、協調して動くようになることが確認されました。これは、厳しい環境に適応するための戦略として、集団行動が有効であることを示唆しています。
しかし、この仮説にはまだ議論の余地があります。例えば、ケンブリッジ大学のニック・バターフィールド氏は、この説に新規性があることを認めつつも、「フリンジ(周辺的)」なアイデアだと指摘しています。また、オーストラリア国立大学のヨッヘン・ブロックス氏は、最初の動物が自由遊泳していたかどうかは不明確だと指摘しています。
この研究が示唆するのは、生命の起源と進化のプロセスが私たちの想像以上に複雑で、多様な要因が絡み合っているということかもしれません。物理的な環境の変化が生命の進化にどのような影響を与えるかという新しい視点は、今後の研究に大きな影響を与える可能性があります。
今後、この仮説を検証するためには、さらなる地質学的証拠や生化学的分析が必要になるでしょう。シンプソン氏は現在、動物により近縁な生物であるコアノフラジェラータを用いた研究を進めています。これらの研究が進展すれば、生命の起源と進化に関する私たちの理解がさらに深まることが期待されます。
最後に、この研究は科学の進歩が常に新しい発見と再考をもたらすことを示しています。私たちは常にオープンマインドを持ち、新しい証拠に基づいて自らの理解を更新する準備をしておく必要があるでしょう。
【用語解説】
【参考リンク】
- 大酸化事件(GOE)についての解説(YouTube:外部)
- カンブリア爆発の原因に関する考察(YouTube:外部)
- 大酸化事件の影響についての解説(YouTube:外部)