innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

Precision Neuroscience、革新的脳インプラント「Layer 7」がFDA認可取得 ─ 最大30日間の埋め込みが可能に

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-21 16:08 by admin

Precision Neuroscience社は2025年4月17日、同社の脳-コンピュータインターフェース(BCI)システムの中核コンポーネントである「Layer 7 Cortical Interface」がFDAから510(k)認可を取得したと発表した。この認可により、Layer 7は最大30日間の一時的な埋め込みが可能となり、臨床応用での使用が認められた。

Layer 7 Cortical Interfaceは、人間の髪の毛の5分の1の薄さの柔軟なフィルム上に1,024個の電極を配置した高解像度皮質電極アレイである。この装置は脳表面に適合し、組織を損傷することなく神経活動を記録・刺激することができる。また、頭蓋骨に1mm未満の「マイクロスリット」と呼ばれる小さな切開を施すだけで挿入可能な低侵襲性を特徴としている。

Precision Neuroscienceは、これまでにMount Sinai Health System、ペンシルバニア大学ペレルマン医学部、WVUロックフェラー神経科学研究所、ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センターなど主要研究機関との臨床研究パートナーシップを通じて、37人の患者でLayer 7を試験してきた。

Precision Neuroscienceの共同創設者兼最高科学責任者であるベンジャミン・ラポポート博士は、「これはPrecisionにとって基盤となる瞬間だ」と述べ、Layer 7の臨床現場への導入により、患者と脳神経外科チームに即座に価値を提供し、これまでに不可能だった精度とスケールでリアルタイムの神経記録を可能にすると強調した。

ラポポート博士はイーロン・マスク率いるNeuralink社の共同創設者でもあったが、2017年の設立から1年後に同社を離れている。Precision Neuroscienceは、Neuralink社やSynchron社と並ぶBCI分野の主要プレイヤーとして位置づけられている。

from Why ‘please’ and ‘thank you’ to ChatGPT costs ‘tens of millions of dollars’

【編集部解説】

Precision Neuroscienceが開発したLayer 7 Cortical Interfaceの510(k)認可取得は、脳-コンピュータインターフェース(BCI)業界にとって画期的な出来事です。この認可により、同社の電極アレイが最大30日間の臨床使用が可能になりました。

この技術の特筆すべき点は、その低侵襲性にあります。従来のBCIは脳に直接電極を刺入する必要がありましたが、Layer 7は髪の毛の5分の1の薄さのフィルム上に1,024個の電極を配置し、脳表面に適合させるだけで機能します。また、わずか1mm未満の「マイクロスリット」と呼ばれる小さな切開から挿入できるため、大規模な開頭手術が不要となります。

Precision Neuroscienceの共同創設者であるベンジャミン・ラポポート博士は、イーロン・マスク率いるNeuralink社の共同創設者でもありましたが、2017年の設立から1年後に同社を離れ、2021年にPrecision Neuroscienceを設立しました。この背景から、両社の技術アプローチの違いが興味深いところです。

Neuralink社が脳に直接電極を刺入するアプローチを取っているのに対し、Precision社は脳表面に電極を配置する方法を選択しています。これは侵襲性を低減し、安全性を高める戦略と言えるでしょう。

BCIの臨床応用において、データ収集期間の延長は極めて重要です。これまでの臨床試験では、装置の装着は数分から数時間に限られていましたが、今回の認可により最大30日間のデータ収集が可能になります。ラポポート博士が述べているように、神経デコーディングアルゴリズムの改善には膨大なデータが必要であり、この認可によってより多様で高品質なデータへのアクセスが飛躍的に向上することが期待されます。

Precision社はこれまでに37人の患者でLayer 7を試験しており、複数のアレイを単一患者に使用した実績もあります。各アレイが1,024個の電極を持つことから、複数使用時には従来技術を大幅に上回る電極密度を実現しています。

BCIの将来性は計り知れません。重度の麻痺患者の発話や運動機能の回復だけでなく、てんかんの研究や治療にも応用できる可能性があります。

一方で、脳インプラント技術には常に倫理的・安全性の懸念が付きまといます。長期的な脳組織への影響や、データセキュリティの問題は今後も注視すべき課題でしょう。

BCIの開発競争は激化しており、Neuralink社やSynchron社(ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツが支援)などの主要プレイヤーが参入しています。この競争がイノベーションを加速させる一方で、安全性や倫理的配慮が犠牲にならないよう、適切な規制の枠組みが重要となるでしょう。

Precision社のCEOであるマイケル・メイガー氏は、「わずか4年で構想から製造施設の所有・運営、そしてFDA認可取得まで到達した」と述べており、同社の迅速な技術開発と事業展開の能力を示しています。

今回のFDA認可は、BCIの臨床応用と商業化への重要な一歩であり、神経科学とテクノロジーの融合がもたらす可能性に大きな期待が寄せられています。

【用語解説】

脳-コンピュータインターフェース(BCI):
脳の神経活動を読み取り、それをコンピュータ命令に変換する技術。簡単に言えば、「考えるだけでコンピュータを操作できる」技術である。

510(k)認可:
米国食品医薬品局(FDA)による医療機器の承認プロセスの一つ。既存の承認済み製品と「実質的に同等」であることを示すことで、新製品の市場導入を許可する制度である。

皮質電極アレイ:
脳の表面(皮質)に置かれる電極の集合体。神経活動を記録したり、刺激したりするために使用される。

マイクロスリット技術:
Precision Neuroscienceが開発した、頭蓋骨に1mm未満の小さな切り込みを入れて電極アレイを挿入する低侵襲な手術方法。従来の大きな開頭手術と比べて患者への負担が少ない。

神経デコーディングアルゴリズム: 脳の電気信号を解読し、それが何を意味するのか(例:動きの意図、言葉など)を理解するためのAIアルゴリズム。

【参考リンク】

Precision Neuroscience公式サイト(外部)Precision Neuroscienceの公式ウェブサイト。Layer 7 Cortical Interfaceの詳細情報や企業情報が掲載されている。

【関連記事】

ヘルスケアテクノロジーニュースをinnovaTopiaでもっと読む

投稿者アバター
乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!
ホーム » ヘルスケアテクノロジー » ヘルスケアテクノロジーニュース » Precision Neuroscience、革新的脳インプラント「Layer 7」がFDA認可取得 ─ 最大30日間の埋め込みが可能に