株式会社ビーマップは、イスラエルのロボティクス企業Robotican Ltd.の製品を日本国内で正式に取り扱うことを発表した。Robotican社は2013年設立で、AIと自律制御技術を融合した警備・災害・防衛対応用の無人システムを開発している。
取扱製品は、屋内外対応の戦術ハイブリッド無人偵察ドローン「ROOSTER」、AI誘導型カウンターUASシステム「GOSHAWK」、災害現場や危険区域での遠隔偵察に対応する多目的地上無人偵察車両「Scorpion UGV」の3製品である。
ROOSTERはNATO加盟国および米国特殊作戦軍等での評価・訓練実績を持ち、GPSが届かない環境下で自律飛行・偵察を実現する。
ビーマップは自衛隊・防衛装備庁向け技術評価、警察・消防・自治体による災害救助支援、港湾・空港・発電所など重要インフラ警備といった分野での導入・実証を進める。
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イスラエル最先端ロボティクス企業「Robotican」製品の日本国内取り扱いを開始
【編集部解説】
株式会社ビーマップによるイスラエルのRobotican社製品の国内取り扱い開始は、日本の防災・防衛分野における自律型ロボティクス技術の導入が新たな段階に入ったことを示しています。
イスラエルは世界的な防衛技術の先進国として知られています。常に地政学的な緊張状態にあるという特殊な環境が、実戦で検証された高度な技術開発を促してきました。Robotican社は2013年の設立以来、AI駆動の自律型ロボットシステムの開発を続け、NATO加盟国や米国特殊作戦軍での採用実績を持つ企業です。
特に注目すべきは、ROOSTER(ルースター)です。このハイブリッド無人偵察ドローンは、飛行とローリング走行を切り替えることができる独特な設計を持っています。2025年7月には欧州特殊部隊への納入が発表され、NATO登録も完了しました。GPS信号が届かない建物内部や地下環境でも自律飛行が可能で、90分間の活動時間と最大5時間の待機時間を実現しています。保護ケージにより転倒しても自己復帰でき、3機まで連携して動作できるMESH通信機能も備えています。
GOSHAWK(ゴーショーク)は対ドローンシステムとして、侵入してくる敵対ドローンをネットで捕獲する方式を採用しています。電子戦システムやジャミング装置と異なり、周辺への電波妨害や墜落による二次被害を防ぐことができます。既に250機以上のドローンを迎撃した実績があり、2021年には米国防総省の実証試験にも成功しています。イスラエル国内では警察、救急、消防サービスでも使用され始めており、民生利用の可能性も広がっています。
日本市場においては、自衛隊・防衛装備庁向けの技術評価から、警察・消防・自治体による災害救助支援、さらには港湾・空港・発電所などの重要インフラ警備まで、幅広い応用が想定されています。特に日本は地震や台風などの自然災害が多く、危険区域への人間の立ち入りを最小限にする技術ニーズは高いと言えます。
ビーマップは従来、位置情報サービスや無線LANソリューション、監視カメラシステムなどを手がけてきた企業です。今回の防衛ロボティクス分野への参入は、同社にとって新たな事業領域への挑戦となります。同社が持つ通信・AI技術との組み合わせにより、日本の現場に最適化されたソリューション提供が期待されます。
一方で、自律型武器システムの倫理的課題や、プライバシーへの影響、サイバーセキュリティリスクなども考慮すべき点です。特に民生利用が進む場合、適切な法的枠組みと運用ガイドラインの整備が不可欠となるでしょう。
今後、日本国内での実証実験や導入事例が蓄積されることで、災害対応力の向上と安全保障技術の高度化がどのように進展するのか注目されます。
【用語解説】
NATO(北大西洋条約機構)
北米および欧州諸国による集団防衛を目的とした軍事同盟である。1949年設立。加盟国は32カ国で、加盟国への攻撃を全体への攻撃とみなす集団防衛原則を掲げる。軍事装備の標準化や相互運用性の確保を進めており、NATO登録は国際的な信頼性の証となる。
USSOCOM(米国特殊作戦軍)
United States Special Operations Commandの略。米軍の統合特殊作戦部隊を統括する統合軍である。Navy SEALsやArmy Green Beretsなど、各軍の特殊部隊を指揮下に置く。対テロ作戦、特殊偵察、直接行動などの任務を担当する。
UGV(Unmanned Ground Vehicle)
無人地上車両。人間が乗らずに地上を移動するロボット車両の総称である。遠隔操作型と自律型があり、危険地域での偵察、爆発物処理、物資輸送などに使用される。軍事用途だけでなく、災害対応や産業用途でも活用が進んでいる。
C-UAS(Counter-Unmanned Aircraft Systems)
対無人航空機システム。敵対的なドローンを検知、追跡、無力化するためのシステムの総称である。電子戦、ジャミング、物理的迎撃など複数の手法があり、重要施設やイベントの警備で需要が高まっている。
GPS拒否環境
GPS信号が届かない、または妨害されている環境のこと。建物内部、地下施設、トンネル、電波妨害下などが該当する。このような環境で動作できる自律システムは、センサーフュージョンやSLAM技術を活用して自己位置推定を行う。
MESH通信
メッシュネットワーク通信。各ノード(機器)が相互に接続し、データを中継しながら通信するネットワーク形態である。中央集権的な基地局を必要とせず、一部のノードが故障しても通信が維持される耐障害性が高い。
【参考リンク】
Robotican Ltd. 公式サイト(外部)
イスラエルのロボティクス企業。自律型ドローンと地上ロボットの開発・製造を手がけ、防衛・防災分野での実績を持つ。
株式会社ビーマップ 公式サイト(外部)
位置情報サービス、無線LANソリューション、監視カメラシステムなどを提供する日本企業。今回Robotican製品の国内取り扱いを開始。
Robotican GOSHAWK C-UAS システム(外部)
Robotican社の対ドローンシステムGOSHAWKの詳細情報。ネット捕獲方式による自律迎撃システムの特徴を紹介。
【参考記事】
Robotican’s Rooster Hybrid Drone Boosts European Special Forces With NATO Approval(外部)
2025年7月にRobotican社がROOSTERハイブリッドドローンを欧州特殊部隊に納入し、NATO登録を取得したことを報じる記事。
Robotican Delivers ROOSTER Hybrid Drone Systems to European Special Forces(外部)
ROOSTERドローンシステムの技術的特徴を解説。90分の活動時間、MESH通信による複数機連携について詳述。
Successful Demonstration of Low-Collateral Counter-UAS Interceptor(外部)
2021年にRobotican社のGOSHAWKが米国防総省の実証試験に成功したことを報じる記事。副次的被害を最小化する技術を検証。
Combat Drones That Catch Prey In Mid-Air And Underground(外部)
Robotican社の企業背景とGOSHAWK、ROOSTERの両システムについて包括的に解説。250機以上の迎撃実績を紹介。
Finder Spotlight: 2024 Israeli Robotics Tech Companies(外部)
イスラエルのロボティクス産業全体を概観。170社が存在し、2017年以降126%の成長率を記録。
【編集部後記】
今回ご紹介したRobotican社の自律型ロボティクス技術は、災害救助や重要インフラ警備など、日本社会の安全性向上に貢献する可能性を秘めています。同時に、この技術導入には慎重な議論が必要な側面もあることを、私たちは見過ごすべきではありません。
イスラエルは先端防衛技術の開発国として知られる一方で、パレスチナ・ガザ地区への侵略・虐殺は国際社会からの強い批判にさらされており、到底許容できるものではありません。実戦で検証された技術という言葉の背景には、現実の紛争地域での使用実績があることを意味します。自律型ドローンシステムの導入は、技術の軍事転用可能性(デュアルユース)という倫理的な課題を内包しています。
災害対応という人道的な目的と、防衛・警備という安全保障上の必要性、そして技術の起源が持つ倫理的な問題。これらは単純に切り分けられるものではありません。私たちの社会がこうした技術をどのように受け入れ、どのような用途に限定し、どのように監視・管理していくのか。技術の進化が速い今だからこそ、立ち止まって考える必要があるのではないでしょうか。
みなさんは、この技術導入についてどのようにお考えになりますか。innovaTopia編集部としても、読者のみなさんと共に、技術と倫理のバランスについて考え続けていきたいと思います。
























