オハイオ州立大学医学部のJames Cray教授らは、妊娠マウスをプロピレングリコールとグリセロールのみで構成したベイプ液のエアロゾルに曝露し、21腹140匹の仔を得た。
約20日間の妊娠期間中、週5日・1日4時間・1分毎1パフで曝露を継続。50/50と30/70の2配合を比較したところ、グリセロール比率が高い30/70群の仔では頭蓋骨と顔面の幅・長さが有意に縮小し、鼻も短縮した。
研究成果は2025年6月30日にPLOS Oneで公開され、ニコチンを含まないキャリア成分だけでも胎児発達へ影響し得ることを示唆した。
From: Vape Fluid Warps The Skulls of Fetal Mice, Study Shows
【編集部解説】
本研究は「ニコチンが主因」との従来認識を揺さぶります。安全対策として広まったグリセロール高配合(30/70)が、標準的な50/50より強い奇形リスクを示した点は業界の前提を覆しました。しかも対象はキャリア液のみで、香料やニコチンを含めれば影響はさらに複雑になります。
動物実験ゆえ人間への適用には限界がありますが、胎児期の頭蓋骨形成は発達障害とも関連し得るため看過できません。現在の規制はニコチン濃度中心で、キャリア物質は盲点でした。今回の結果は、成分ごとの安全性評価とラベリング義務を再考する契機となるでしょう。技術的には「単一成分ごとの毒性プロファイル確立→多成分混合での相互作用解析」というステップが示されたことも意義深いです。
一方、ベイプは禁煙補助など医療応用の可能性もあります。安全性を高めるには、加熱条件・粒径・添加物質まで統合的に最適化するエンジニアリングが必要です。イノベーションの余地は大きいものの、「自然由来」「ニコチンフリー」という表示だけで安全を保証できない点は忘れてはなりません。
【用語解説】
プロピレングリコール
無色無臭の多価アルコール。吸湿性が高く、ベイプでは霧化促進と香料溶媒を担う。加熱吸入時の長期安全性は十分確立していない。
グリセロール
植物油由来の三価アルコール。滑らかな蒸気を生み、甘味も持つ。吸入時にはアクロレイン生成が懸念される。
3D再構築
CT画像から三次元形状をデジタル復元し、体積・距離などを精密に測定する手法。
【参考リンク】
The Ohio State University College of Medicine(外部)
研究資金4億ドル超を持つ米国有数の医科大学。Cray教授の所属組織。
PLOS One(外部)
査読後すべてオープンアクセスで公開する総合科学ジャーナル。今回の論文掲載誌。
【参考動画】
【参考記事】
Vaping while pregnant can change your baby’s skull shape(外部)
オリジナル論文の要点と専門家コメントを紹介。30/70配合の意外なリスクを強調。
Exposure to Vape Smoke in Utero — Even Without Nicotine(外部)
一般読者向けに妊娠中ベイプ使用の注意点をまとめ、医師の見解を掲載。
【編集部後記】
「ニコチンフリー=安全」と思い込んでいた私たちに、今回の研究は考え直す機会をくれました。安全と信じて日々取り入れている製品でも、成分まで遡って確かめることは意外に少ないものです。
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