Uberは2025年11月26日、アラブ首長国連邦のアブダビで中国企業WeRideと提携した完全無人ロボタクシーサービスを開始した。これは中東初の完全無人ロボタクシーサービスであり、Uberにとって4番目の市場展開となる。米国ではAlphabetのWaymoを通じてオースティン、フェニックス、アトランタでサービスを提供している。
アブダビの乗客はUberXまたはUber Comfortをリクエストする際にWeRideロボタクシーを予約できる。Nasdaqに上場しているWeRideとUberは2024年9月に提携を結び、同年12月にアブダビでオペレーター同乗のサービスを開始していた。
Uberは5月に今後5年間でヨーロッパを含む15以上の都市にWeRideサービスを展開する計画を発表した。アブダビの無人車両はヤス島の特定エリアで運行される。
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Uber rolls out driverless robotaxis in Abu Dhabi
【編集部解説】
アブダビで始まった完全無人ロボタクシーは、単なる技術デモンストレーションではありません。これは自律走行車産業が「実験段階」から「商業段階」へと移行する歴史的な瞬間を示しています。
今回のサービス開始が特に重要なのは、WeRideが2025年10月31日に取得した許可が、米国外で初めての都市レベルでの完全無人運行許可だという点です。この許可により、車内の安全オペレーターを配置する必要がなくなり、WeRideは損益分岐点に到達できる見込みとなりました。人件費の削減は、ロボタクシービジネスの収益性を左右する最も重要な要素の一つです。
WeRideは2021年からアブダビで活動しており、4年間の先発者優位性を持っています。2025年10月時点でアブダビでの走行距離は100万キロメートルに達しており、この膨大なデータ蓄積が安全性の検証と技術改善に貢献しています。自律走行技術において、実環境でのデータ収集は開発の鍵となります。
ここで使われているのはSAE Level 4の自律走行技術です。Level 4は「高度な自動化」を意味し、特定の条件下であれば人間の介入なしに完全な自動運転が可能です。WeRideの技術プラットフォーム「WeRide One」は、エンドツーエンドAIモデルを採用しており、約100万時間の運転データで訓練されています。このシステムは、認識、予測、計画という複雑なタスクを統合的に処理し、人間のような判断を可能にします。
今回の展開は、中東地域における自律走行車産業の急速な発展を象徴しています。アラブ首長国連邦は2030年までに、ドバイとアブダビでの移動の25%を無人化する目標を掲げており、積極的な規制環境の整備を進めています。この野心的な目標は、政府が自律走行技術を単なる技術革新ではなく、都市計画と交通政策の中核として位置づけていることを示しています。
WeRideは2026年までに中東で1,000台、2030年までに数万台のロボタクシーを展開する計画を発表しています。この規模の拡大は、技術的な準備だけでなく、ビジネスモデルの確立を意味します。同社幹部は、Uberとの提携により「5〜10台の車両」で収益性を達成できると述べており、これは「5,000台が必要」とされる単独展開モデルとは対照的です。
グローバルな視点で見ると、ロボタクシー市場は急成長しています。Goldman Sachsは、世界のロボタクシー市場が2030年までに250億ドル以上に達すると予測しています。特に中国市場は顕著で、2030年までに50万台のロボタクシーが10以上の都市で運行され、市場規模は2035年までに470億ドルに成長すると予測されています。
Uberの戦略も注目に値します。同社は2020年に自社の自律走行部門を売却した後、プラットフォーム戦略に転換し、現在では20社以上の自律走行企業と提携しています。Waymo、WeRide、Pony.ai、Baidu、Momentaなど多様なパートナーとの協力により、Uber CEOは2026年末までに少なくとも10都市で自律走行車を展開すると予測しています。この「プラットフォームとしてのUber」という戦略は、技術開発の重いリスクを避けながら、自律走行時代の配車市場で主導的地位を維持しようとする試みです。
一方で、この技術進化には社会的な課題も伴います。アラブ首長国連邦には約30,000人のタクシー運転手がおり、その多くは移民労働者です。ロボタクシーの普及は、これらの労働者の雇用に大きな影響を与える可能性があります。技術革新による利便性の向上と、雇用の移行という社会的課題のバランスをどう取るかは、今後の重要な議論になるでしょう。
安全性の面では、Waymoが公表したデータによれば、自律走行車は人間の運転手よりも安全である可能性が示唆されています。しかし、この技術はまだ発展途上であり、予期しない状況への対応能力や、複雑な都市環境での長期的な信頼性については、さらなる検証が必要です。
今回のアブダビでの展開は、米国と中国以外の地域での本格的な商業展開の第一歩です。WeRideはすでにシンガポール、スイス、サウジアラビア、フランス、ベルギーでも許可を取得しており、グローバルな展開を加速させています。中国の自律走行企業が海外市場で成功を収めることができるかは、この産業の地政学的な構図にも影響を与える重要な試金石となります。
【用語解説】
SAE Level 4(レベル4自律走行)
米国自動車技術会(SAE International)が定義する自動運転のレベル分類の一つ。Level 4は「高度な自動化」を意味し、特定の条件下(地理的エリア、天候、道路状況など)であれば、人間の介入なしに完全な自動運転が可能である。Level 5が「完全自動化」(あらゆる条件下で自動運転)であるのに対し、Level 4は限定的な環境での無人運転を実現する。
ロボタクシー(Robotaxi)
自律走行技術を搭載した無人タクシーサービス。従来の配車サービスと異なり、運転手が不要で、AIシステムが車両を制御する。乗客はスマートフォンアプリで配車を依頼し、目的地まで自動で運ばれる。
WeRide One
WeRideが開発した汎用自律走行技術プラットフォーム。Level 2からLevel 4までの自律走行システムに対応し、ロボタクシー、ロボバス、配送車両など異なる車種に同一のアルゴリズムを適用できる。エンドツーエンドAIモデルを採用し、約100万時間の運転データで訓練されている。
エンドツーエンドAIモデル
従来の自律走行システムが認識、予測、計画を個別のモジュールで処理していたのに対し、これらすべてのプロセスを統合的にAIが学習・処理するアプローチ。より人間に近い判断と滑らかな運転を実現する。
Integrated Transport Centre (ITC)
アブダビの統合交通センター。アブダビ首長国の公共交通システムの計画、規制、運営を統括する政府機関。自律走行車の許可発行や規制監督を担当している。
【参考リンク】
WeRide(公式サイト)(外部)
2017年設立の中国系自律走行技術企業。Level 2からLevel 4まで対応し、30以上の都市で展開している。
Uber(外部)
世界最大級の配車プラットフォーム。20社以上の自律走行企業と提携し、ロボタクシーサービスを展開中。
Waymo(外部)
Alphabet傘下の自律走行車企業。米国で最大規模のロボタクシーサービスを運営し、週15万回以上の配車を実施。
SAE International – Levels of Driving Automation(外部)
自動運転レベルの国際標準規格を策定する米国自動車技術会。Level 0〜5の定義を提供している。
Goldman Sachs Research – Autonomous Vehicle Market(外部)
ゴールドマン・サックスによる自律走行車市場の予測レポート。2030年までの市場成長を分析している。
【参考記事】
WeRide Secures World’s First City-level Fully Driverless Robotaxi Permit Outside the U.S.(外部)
2025年10月31日にWeRideが取得したアブダビでの完全無人運行許可について詳細を報告している。
Uber and WeRide’s robotaxi service in Abu Dhabi is officially driverless(外部)
アブダビでの完全無人サービス開始を報道。ヤス島での運行開始と今後の拡大計画を詳述。
Global robotaxi race heats up between U.S. and Chinese rivals(外部)
米中のロボタクシー競争を分析。Goldman Sachsの市場予測250億ドル超や各社の収益性戦略を紹介。
Autonomous Vehicle Market Is Forecast to Grow and Boost Ridesharing Presence(外部)
Goldman Sachsによる詳細な市場予測。2030年に35,000台が米国で運行し、70億ドルの収益を生むと予測。
Abu Dhabi awards city-level fully driverless robotaxi permit to WeRide(外部)
WeRideのアブダビでの100万キロメートル走行実績と、損益分岐点達成の見込みについて報告。
Dubai’s robotaxi dreams are coming for human drivers(外部)
UAEのロボタクシー展開が30,000人のタクシー運転手に与える影響を分析し、社会的課題を掘り下げている。
Global Technology: China’s Robotaxi market – the road to commercialization(外部)
中国のロボタクシー市場が2030年までに50万台規模へ成長するとの予測と商業化への道筋を分析。
【編集部後記】
アブダビで始まった完全無人ロボタクシーは、決して遠い未来の話ではありません。自律走行技術は今、「できるかどうか」から「どう社会に実装するか」というフェーズに移りつつあります。みなさんは、運転手のいない車に乗ることに抵抗を感じるでしょうか。それとも、移動時間を仕事や読書に充てられる未来に期待するでしょうか。技術の進化は常に利便性と不安を同時にもたらします。中東や中国で急速に進む自律走行車の商業展開は、日本の都市交通にどのような示唆を与えるのか。私たち一人ひとりが、この変化をどう受け止め、どんな未来を望むのか、考えてみる価値があるのではないでしょうか。
























