DJI Agricultureは2025年11月10日、新型農業ドローンDJI Agras T70PおよびDJI Agras T25Pを日本国内の正規代理店を通じて発売開始すると発表した。
DJI Agricultureが長年にわたって研究開発した成果を結集した新機種である。現在、DJI Agricultureのドローンは日本の水田の約30%で散布および播種用途に導入されており、日本国内には3万名を超える認定農業ドローン操作者が存在し、アフターサービス体制も全国100か所のサービスセンターへと拡大している。
Agras T70Pは最大飛行速度20m/sに向上し、70Lの散布タンク、100Lの撒布タンクを搭載でき、積載重量は撒布時70kg、リフティング作業時65kgに対応する。安全性システム3.0はミリ波レーダーとTri-Visionシステムによる高精度な障害物検知を実現している。Agras T25Pは最大積載量が散布作業時20kg、流量は16L/分で、液滴サイズは50〜500μmの範囲をカバーする。
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DJI AgricultureがAgras T70PおよびT25Pを日本で発売

【編集部解説】
日本の農業現場で、ドローンはもはや単なる「最新ツール」ではありません。深刻化する労働力不足と高齢化の中で、実質的な解決策として機能し始めています。
今回発表されたAgras T70PとT25Pの最大の特徴は、単なる性能向上ではなく「多用途化」にあります。従来の農薬散布に加え、肥料の撒布、さらには最大65kgの物資を運ぶリフティング作業まで対応する点は注目に値するでしょう。これは山間部の果樹園や、車両でのアクセスが困難な圃場において、収穫物の搬出や資材運搬の負担を大幅に軽減する可能性を秘めています。
安全性システム3.0の進化も見逃せません。ミリ波レーダーとTri-Visionシステムの組み合わせにより、電線や樹木といった農業現場特有の障害物を最大60メートル先から検知し、自動で回避できます。これにより、オペレーターの経験に依存せず安全な運用が可能になります。
市場環境を見ると、日本の農業用ドローン市場は2024年の9,080万ドル9,080万ドル(2024年のレートで約137億5,300万円)から2033年には3億5,070万ドル(現在のレートで約542億5,700万円)へと、年平均成長率15.39%で拡大すると予測されています。DJI Agricultureは日本の多軸ローター型農業ドローン市場の70%以上のシェアを占めており、業界標準としての地位を確立しています。
しかし、普及の実態には課題も残されています。ドローンを購入した農家の多くが、実際には農薬散布以外の用途で活用できていないという指摘があります。その理由は、自動航行に必要な圃場測量やデータ管理の難しさです。T70PとT25Pには測量機能が搭載されているものの、それを使いこなすためのサポート体制が普及の鍵を握ります。DJI Agricultureが全国100か所のサービスセンターを展開し、3万名以上の認定操作者を育成している背景には、こうした「真の普及」への取り組みがあると言えます。
長期的には、AI分析との統合がさらに進むでしょう。マルチスペクトルセンサーによるリアルタイムの作物健康診断や、病害虫の早期発見と自動対処といった、データ駆動型の精密農業が現実のものとなりつつあります。日本の水田の30%ですでにDJIのドローンが使用されている現状は、この技術が特殊なものではなく、標準的な農業インフラへと移行しつつあることを示しています。
【用語解説】
ミリ波レーダー
波長が1〜10mmの電磁波を使用するセンサー技術。農業ドローンでは、霧や雨などの悪条件下でも障害物を検知できる利点がある。光学センサーと異なり、気象条件に左右されにくい特性を持つ。
Tri-Visionシステム
DJIのドローンに搭載される先進的な視覚システム。従来の単一方向センサーと比べ、複雑な農業環境での安全性が大幅に向上している。
精密農業(プレシジョン・アグリカルチャー)
GPS、センサー、データ分析などの技術を活用し、圃場の状態を詳細に把握しながら、必要な場所に必要な量だけ資材を投入する農業手法。資源の効率的利用と環境負荷の低減を両立させる。
【参考リンク】
DJI Agriculture 公式サイト(外部)
DJIの農業ドローン事業部門の公式サイト。Agrasシリーズの製品情報、技術仕様、導入事例を掲載。
DJI Agras T70P 製品ページ(外部)
T70Pの日本語公式ページ。詳細スペック、機能説明、価格情報、購入方法が確認できる。
DJI Agras T25P 製品ページ(外部)
T25Pの日本語公式ページ。コンパクト設計の特徴や小規模圃場での活用方法を紹介。
DJI SmartFarm アプリ(外部)
DJIの農業ドローン専用管理アプリ。散布作業のデータ表示、機体管理、圃場共有機能を提供。
【参考記事】
DJI AGRAS T70P – Specs(外部)
T70Pの公式技術仕様。障害物検知範囲60m、最大飛行速度20m/s等の詳細データを掲載。
ドローンを活用した「スマート農業」の導入に向けた実証実験について(外部)
静岡県沼津市でのみかん栽培におけるドローン活用事例。傾斜地での農薬散布作業時間を約93%削減したという具体的な成果の紹介。
農業用ドローン事例まとめ|活用別導入ケーススタディを紹介(外部)
北海道当別町での農作物運搬実証実験。高齢化と人手不足に悩む地域で、ドローンが約15kgの収穫物運搬に成功した事例。
日本の農業用ドローン市場規模は2033年までに3億5,070万米ドルに達すると予測|年平均成長率15.39%で推移(外部)
IMARCグループが調査した日本の農業用ドローン市場に関する記事。日本の農業用ドローン市場の成長要因や政府の支援政策などがまとめられている。
【編集部後記】
皆さんの身近な農業現場では、ドローンはどのように活用されているでしょうか。農薬散布だけでなく、圃場の測量や物資運搬まで対応する今回の新機種は、農業の「当たり前」を大きく変える可能性を秘めています。
地域によっては補助金制度やドローン講習の支援制度も整備されつつあり、導入のハードルは確実に下がってきています。一方で、機体を購入しても使いこなせないという声があるのも事実です。
私たちinnovaTopiaも、読者の皆さんと一緒にこの技術がどう農業を変えていくのか、そして本当に現場で役立つ形で普及していくのかを見守っていきたいと思います。皆さんの周辺で興味深い活用事例があれば、ぜひ教えていただけると嬉しいです。

























