NTTのIOWN APNと東芝のクラウド型PLC、300km離れた生産設備の遠隔制御に成功

[更新]2025年11月12日

NTTのIOWN APNと東芝のクラウド型PLC、300km離れた生産設備の遠隔制御に成功 - innovaTopia - (イノベトピア)

NTT株式会社と株式会社東芝は2025年11月10日、約300km離れた拠点からの制御周期20ms以内での生産設備の遠隔制御と、1設備につき4fps(250ms)でのAI外観検査に成功したと発表した。

これはNTTのIOWN構想の中核技術である「All Photonics Network(APN)」および「RDMAアクセラレーション技術」と、東芝のクラウド型PLC「Meister Controller Cloud PLCパッケージ typeN1」を活用した共同実験で、製造業界で初めての成功となる。

NTT武蔵野研究開発センタの模擬環境で実施された実験では、300km離れたクラウド型PLCによる制御周期20ms以内の遠隔設備制御を達成し、自動車産業の生産ラインなど高速制御が必要な設備要件を満たすことが可能になった。

両社は2027年度以降の実用化を目指す。実証技術は2025年11月19日から26日までNTT武蔵野研究開発センタで開催される「R&Dフォーラム2025」と、11月19日から21日まで東京ビッグサイトで開催される「IIFES2025」で紹介される。

From: 文献リンク製造業界初、IOWN APNとクラウド型PLCにより約300km離れた生産設備の高速制御を実現

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共同実験の全体像(出所:NTT公式)

【編集部解説】

今回のNTTと東芝の共同実証は、製造業のDX推進において極めて重要な転換点を示しています。この実験が注目されるのは、単に「遠隔制御ができた」という事実だけでなく、従来は物理的な近接性が必須とされてきた精密な産業制御を、クラウド環境で実現できることを証明した点にあります。

制御周期20msという数値について補足しますと、これは1秒間に50回の制御命令を送受信できることを意味します。自動車製造ラインのような高速な動作を要求される環境では、このレベルの応答速度が必要不可欠です。従来の汎用インターネット回線では制御周期が100ms~1秒程度であり、これでは精密な制御が困難でした。今回IOWN APNを使用することで、この制御周期を大幅に短縮し、ローカル環境と同等の性能を300km離れた場所から実現できたことになります。

この技術が実用化されると、製造業が抱える深刻な課題に対する有効な解決策となります。少子高齢化による技術者不足、特にベテラン技術者の知見継承は待ったなしの状況です。クラウド型PLCにより、遠隔地から複数の工場を一元管理できるようになれば、限られた専門人材を効率的に活用できます。

AI外観検査についても、4fps(250ms)という処理速度を達成したことは重要です。製造ラインにおける品質検査は生産速度に直結するため、クラウド環境でもローカルと同等の検査速度を維持できることで、AI検査システムのクラウド移行が現実的になります。これにより、複数工場で品質基準を統一し、AIモデルの更新も一元的に行えるようになります。

IOWN APNの技術的な優位性は、光電融合による低遅延・低ジッター(ゆらぎ)通信にあります。従来の電気信号ベースのネットワークでは、信号の変換や中継地点でのレイテンシーが積み重なりますが、APNではエンド・ツー・エンドで光信号のまま伝送することで、これらの遅延を最小化します。

2027年度以降の実用化を目指すとのことですが、これは製造業のインフラが根本的に変わる可能性を示唆しています。工場の新設時にPLC制御室を現地に構築する必要がなくなる可能性があり、初期投資を抑えられると期待されます。また、生産ラインの設定変更や保守作業も遠隔から実施できるため、現地派遣コストの削減につながります。

一方で、制御システムのクラウド化には慎重な議論も必要です。ネットワーク障害時のフェイルセーフ機構、セキュリティ対策、データ主権の問題など、クリティカルな産業インフラをクラウドに依存させることのリスク管理が求められます。今後の実用化に向けて、こうした課題への対応策が注目されるでしょう。

【用語解説】

PLC(Programmable Logic Controller)
プログラマブルロジックコントローラの略称で、製造現場の機械や設備を自動制御するための産業用コンピュータである。従来のリレー回路を置き換える形で開発され、工場の過酷な環境下でも動作する堅牢性を持つ。プログラムの書き換えにより柔軟に制御内容を変更できるため、生産ラインの変更や保守が容易になる。

RDMA(Remote Direct Memory Access)
リモートダイレクトメモリアクセスの略称で、ネットワークを介して異なるコンピュータのメモリ間で直接データ転送を行う技術である。CPUやオペレーティングシステムを経由せずにデータ転送が可能なため、高スループットかつ低レイテンシの通信を実現できる。データセンターや高性能計算システムで広く利用されている。

制御周期
PLCが入力信号を読み取り、演算処理を行い、出力信号を更新する一連の動作を繰り返す周期のことである。制御周期が短いほど高速な制御が可能になり、精密な機械動作が求められる自動車製造ラインなどでは20ms以下の制御周期が必要とされる。

工場DX(Digital Transformation)
製造業においてデジタル技術を活用して業務プロセスや生産システムを変革し、生産性向上や新たな価値創造を実現する取り組みである。IoT、AI、クラウドなどの技術を組み合わせ、データドリブンな意思決定や遠隔管理を可能にする。

【参考リンク】

IOWN Global Forum(外部)
NTTが主導する次世代通信インフラ構想IOWNの標準化や普及を推進する国際的な業界団体の公式サイト

NTT R&D FORUM 2025公式サイト(外部)
2025年11月19日から26日開催のNTT研究開発成果展示イベント。IOWN技術を中心とした最新成果を紹介

IIFES 2025 東芝グループ特設サイト(外部)
2025年11月19日から21日まで東京ビッグサイトで開催される製造業DX展示会における東芝グループ出展情報

【参考記事】

IOWN APN活用で遠隔地の産業機器をリアルタイム制御(外部)
NTT東日本と三菱電機がIOWN APNを用いて行った遠隔制御実験について報じている。遅延調整機能により最大1600km相当の遠距離でもリアルタイム通信が可能であることを確認し、遠隔での監視・制御における遅延やゆらぎの課題を克服 。

労働力不足と技術継承問題を解消!OKIの「高度遠隔運用」によるイノベーションとは?(外部)
製造業における人手不足と技術継承の課題に対し、遠隔での監視・制御を可能にする「高度遠隔運用」を紹介。専門人材の効率的な活用策を提示 。

IOWNの何がすごい?技術的要素や活用例をわかりやすく解説!(外部)
IOWNの中核技術であるAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)の解説。光信号のまま伝送することで実現する、圧倒的な低遅延・大容量通信の仕組みを説明

【編集部後記】

製造現場のクラウド化は、今まさに大きな転換期を迎えています。皆さんの身近な製品を作る工場でも、すでにこうした変化が始まっているかもしれません。遠隔地から制御できることで、技術者の働き方はどう変わるでしょうか。

一方で、クラウドに依存することへの不安もあるのではないでしょうか。セキュリティや通信障害のリスク、あるいは人と技術の関わり方など、考えるべきテーマは多岐にわたります。この技術が2027年度に実用化される時、製造業はどんな姿になっているのか、一緒に見守っていきたいと思います。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

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