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 ISS後継開発で40億ドル予算不足、NASAが宇宙ステーション継続滞在要求を撤回

 ISS後継開発で40億ドル予算不足、NASAが宇宙ステーション継続滞在要求を撤回 - innovaTopia - (イノベトピア)

NASAは2025年8月7日、老朽化する国際宇宙ステーション(ISS)の代替となる商業宇宙ステーションに関する要求仕様を大幅に変更した。

新指令では最低要求能力を1か月間で4名のクルーに設定し、従来の「2031年12月までに6か月ミッションで2名のNASAクルーが継続的に低軌道に滞在する完全運用能力」から大幅にダウングレードした。

商業低軌道目的地プログラムのフェーズ2では40億ドルの予算不足が発生している。2026年度予算要求には同年度2億7,230万ドル、今後5年間で21億ドルが含まれる。NASAは確定固定価格契約から資金付きSpace Act協定への転換も決定した。

ISSはSpaceXが開発する軌道離脱機により2030年に運用終了予定である。Axiom SpaceはISSへの依存を取り除くため組み立て順序を変更し、独立宇宙ステーション運用を目指している。この変更により2000年11月から続く人類の軌道上における継続的存在が終了する可能性がある。

From: 文献リンクNASA changes the rules of the game for commercial space stations

【編集部解説】

この度のNASAによる商業宇宙ステーション要求仕様の大幅変更は、単なる政策調整ではなく、人類の宇宙活動における歴史的な転換点を示します。

実質的に、この変更は「人類の軌道上における永続的存在」という約25年間続いてきた時代の終焉を意味する可能性があります。ISSは2000年11月のExpedition 1開始以来継続的に人類が居住してきましたが、新しい要求仕様では月1回の4名クルー滞在という間欠的な運用モデルに移行することになります。

注目すべきは40億ドルという巨額の予算不足です。これは単なる資金調達の問題ではなく、米国の宇宙政策における優先順位の根本的な変化を反映しています。NASA長官代行のショーン・ダフィー氏による新指令は、月面探査や火星ミッションなど深宇宙探査への予算配分を重視する姿勢の表れでもあります。

技術的な観点から見ると、この変更は商業宇宙企業にとって現実的な選択肢を提供します。従来の「完全運用能力」要求は技術的難易度が高く、2030年のISS運用終了までに実現困難とされていました。新要求により、Axiom SpaceやBlue Origin、Starlab Spaceなどの企業は、より実現可能なタイムラインで宇宙ステーション開発を進められます。

特にAxiom Spaceは既にAX-1、AX-2、AX-3の商業有人宇宙飛行ミッションを完了し、2025年後半にはAX-4ミッションでインド、ポーランド、ハンガリーの宇宙飛行士を輸送予定です。同社はISSからの独立を目指し組み立て順序を変更するなど、積極的な戦略転換を図っています。

科学研究への長期的影響も重要な考慮事項です。微小重力環境での連続的な実験は、材料科学、生物学、医学研究にとって極めて価値があります。間欠的な運用モデルでは、長期間を要する実験や継続的なモニタリングに制約が生じる可能性があります。

国際協力の文脈でも変化が予想されます。ISSは15カ国による国際パートナーシップの象徴でしたが、新たな商業宇宙ステーション時代では、各国が独自の戦略を模索することになるでしょう。中国の天宮宇宙ステーションが既に運用中である中、西側諸国の宇宙戦略再構築が急務となっています。

今後の展望として、この変更は宇宙産業の完全な民営化を加速させます。NASAは宇宙ステーション運営者から顧客へと役割を変化させ、民間企業が主導する新たな宇宙経済の基盤構築を支援する方針です。これにより、宇宙観光、軌道上製造、宇宙研究の商業化が飛躍的に進展することが期待されます。

ただし、この転換には注意深い管理が必要です。2030年のISS運用終了と商業宇宙ステーション運用開始の間に生じる可能性がある「ギャップ」は、人類の宇宙活動にとって深刻な後退となるリスクを孕んでいます。

【用語解説】

Space Act Agreement(SAA)
1958年のNASA設立法に基づく法的合意形式で、NASAが民間企業や他機関と柔軟に協力できる仕組み。従来の契約形式より規制が少なく、技術開発や研究における革新的な取り組みを促進する目的で使用される。

Commercial LEO Destinations Program(商業低軌道目的地プログラム)
NASAが推進する官民パートナーシップで、ISS後継となる民間商業宇宙ステーションの建設を支援するプログラム。NASAは所有者ではなく顧客として参加し、宇宙産業の完全民営化を目指す。

インクリメント
宇宙ステーション運用における標準的な滞在期間単位。従来は6か月の長期滞在を指していたが、今回の変更では1か月の短期滞在へと大幅に短縮された。

確定固定価格契約
契約時に総額が決定され、開発リスクを請負企業が負担する契約形式。予算超過リスクが高いため、NASAは予算制約によりより柔軟なSAAへの変更を決定した。

Expedition 1
2000年11月2日にISSで開始された最初の長期滞在ミッション。アメリカ人2名とロシア人1名の計3名が4か月間滞在し、人類の軌道上継続的居住の歴史が始まった。

【参考リンク】

NASA公式サイト – 商業宇宙ステーション(外部)
NASA主導の商業低軌道目的地プログラムに関する公式情報、ISS後継プランの詳細と最新進捗状況を提供

Axiom Space公式サイト(外部)
世界初商業宇宙ステーション開発企業。これまで3回の商業有人宇宙飛行ミッション成功、独立運用目標

Blue Origin公式サイト(外部)
ベゾス創設の宇宙技術企業。New ShepardとNew Glenn開発、NASA商業宇宙ステーションプログラム参画

Starlab Space公式サイト(外部)
Voyager Space主導の次世代宇宙ステーション開発企業。国際合弁で単一打ち上げ完全運用ステーション実現目指す

【参考記事】

NASA Selects International Space Station US Deorbit Vehicle(外部)
NASAがSpaceXに8億4300万ドルでISS軌道離脱機開発契約発注、2030年安全軌道離脱準備の公式リリース

Axiom Space shuffles station assembly sequence to remove ISS dependency(外部)
Axiom SpaceがISS依存脱却目指し独立宇宙ステーション実現向け組み立て順序を戦略的変更と報じる記事

【編集部後記】

今回のNASAによる方針転換は、私たちが当たり前だと思っていた「宇宙に人がいる」という状況が実は非常に特殊だったことを改めて気づかせてくれます。

皆さんは、宇宙ステーションの運用が間欠的になることで、どのような新しい可能性が生まれると思いますか?予算制約の中で宇宙開発を進める現実的なアプローチについて、どのようにお考えでしょうか?

この変化が宇宙産業の民営化にもたらす影響や、日本の宇宙関連企業にとっての新たなチャンスについても、ぜひSNSでご意見をお聞かせください。私たちと一緒に、変わりゆく宇宙開発の未来について考えてみませんか。

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TaTsu
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