Music×Tech #01「Johnny B. Goode」ボイジャーゴールデンレコード——「地球の皆さん、チャックベリーの曲をもっと送ってくれ」

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Music×Tech — 音楽と技術の交差点

音は、時間を超えます。

1877年、エジソンが初めて音を記録しました。それから150年、私たちは音を刻み、増幅し、圧縮し、伝送してきました。蓄音機、ラジオ、レコード、カセット、CD、MP3——技術が進化するたび、音楽の在り方も変わりました。

「Music×Tech」は、音楽と技術が交差する瞬間を記録するシリーズです。ボイジャー探査機に搭載された2分38秒の録音。デジタル革命が変えた音楽産業の構造。AIが生成する旋律。量子コンピュータが解き明かす音響の数理。

技術は音楽をどう変えたのか。音楽は技術に何を求めてきたのか。

このシリーズでは、歴史の転換点となった技術と音楽の出会いを振り返ります。時には宇宙へ、時にはポケットの中へ。音が辿った道のりは、人類が辿った道のりでもあります。

宇宙からの返信

1978年4月22日、Saturday Night Live。コメディアンのスティーブ・マーティンが演じるサイキックが、タイム誌の表紙を掲げました。そこには4語:「Send More Chuck Berry」

架空のエイリアンからの返信です。ジョークでした。しかし、このジョークには元ネタがあります。前年、NASAはボイジャー1号と2号を打ち上げ、それぞれに「ゴールデンレコード」を搭載していました。人類からのメッセージとして、27曲の音楽が選ばれました。

その中に「Johnny B. Goode」がありました。チャック・ベリーの、1958年の録音です。

2025年11月現在、ボイジャー1号は地球から200億km以上離れた場所を飛んでいます。そこに今も、2分38秒の音が刻まれています。誰も聴きません。おそらく永遠に。

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1958年3月、セントルイス

「Johnny B. Goode」は1958年にリリースされ、Billboard Hot 100で8位に達しました。チャック・ベリーはGoode Avenue、セントルイスで生まれました。彼は後に認めています。この曲は部分的に自伝だと。

オリジナルの歌詞では「colored boy(有色人種の少年)」でしたが、ラジオで流れるように「country boy(田舎の少年)」に変更されました。田舎の少年がギターを弾きます。「鐘を鳴らすように(ring like a bell)」。いつか名前が明かりに照らされるかもしれない、と歌います。

録音には特徴的な構造があります。ドラムとピアノはスイングします。しかし、ギターは「ストレート」です。スイングしません。このコントラストが、ブルース、カントリー、ジャズを融合させて、全く新しいものにしました。ジョン・レノンは後にこう言いました。「ロックンロールに別の名前をつけようとするなら、それはチャック・ベリーと呼べるかもしれない」

ミック・ジャガーとキース・リチャーズが初めて会った時、二人ともチャック・ベリーのアルバムを手にしていました。

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1977年、パサデナ

カール・セーガン率いるチームが、ボイジャー探査機に搭載する音楽を選んでいました。地球外知的生命体に向けた、人類からのメッセージです。

バッハが3曲、ベートーヴェンが2曲、ジャワのガムラン、ブルガリアの民謡、日本の尺八、中国の古琴——世界各地の伝統音楽が選ばれました。そして、ロックンロールは1曲だけ。「Johnny B. Goode」です。

選考は簡単ではありませんでした。民族音楽学者アラン・ロマックスは主張しました。「ロック音楽は青年期的すぎる」。セーガンは答えました。「地球には多くの青年がいる」

クリエイティブディレクター、アン・ドルーヤンはこう語っています。「私にとって、『Johnny B. Goode』、ロックンロールは、動きの音楽でした。まだ行ったことのない場所へ向かう音楽です」

チャック・ベリーは承諾しました。一方、ビートルズの「Here Comes the Sun」も候補でしたが、著作権を持つEMIレコードが許可しませんでした。(ただし、プロデューサーのティモシー・フェリスは、この曲は真剣に考慮されなかったと述べており、見解が分かれています)

ジョン・レノンはゴールデンレコードプロジェクトへの参加を求められましたが、国を離れる必要があったため断りました。しかし、彼は二つのものを残しています。サウンドエンジニアとしてジミー・アイオヴィンを推薦したこと。そして、レコードに刻印を入れるアイデアです。プロデューサーのティモシー・フェリスは、レノンのアイデアに触発されて、ゴールデンレコードに手彫りで刻みました:「To the makers of music—all worlds, all times(音楽の創造者たちへ——すべての世界、すべての時代)」

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タイムトラベルする曲

「Johnny B. Goode」には不思議な運命があります。

1985年の映画「Back to the Future」で、マイケル・J・フォックス演じるマーティ・マクフライは、1955年にタイムスリップします。そこで高校のダンスパーティーでこの曲を演奏するのですが、架空のバンドリーダー、マーヴィン・ベリーが従兄弟のチャック・ベリーに電話をかけ、「君が探している新しいサウンドだよ」と伝えます。

未来から来たマーティが過去のチャックに「Johnny B. Goode」を聴かせる——ブートストラップ・パラドックスです。この曲は、どこから生まれたのか?

映画の中のジョークですが、現実でも似たようなことが起きています。1958年に生まれた曲が、1977年に宇宙へ送られ、2013年に太陽圏を離れ、40,000年後の未来へ向かっています。

鳴り続ける音

1986年1月23日、第1回ロックの殿堂入り式典で、チャック・ベリーは「Johnny B. Goode」を演奏しました。バックバンドはブルース・スプリングスティーンとEストリート・バンドでした。1999年にはグラミーの殿堂入りを果たし、ローリングストーン誌の「史上最も偉大な500曲」では、2004年版で7位、2021年版で33位にランクインしています。

ガーディアン紙のジョー・クィーナンは書いています。「ロックンロールの歴史において、『Johnny B. Goode』ほど喜びに満ちてこのジャンルの低階級の社会経済的ルーツを祝福した曲はありません」

ゴールデンレコードには27曲が収録されています。バッハ、ベートーヴェン、世界各地の伝統音楽——その中で、「Johnny B. Goode」だけが、音楽を作ることの喜びそのものを歌っています。ギターを弾く少年の物語が、今、星々へ向かっています。

2分38秒の録音が、永遠になりました。もし今、新しいゴールデンレコードを作るとしたら、何を入れますか?


【Information】

Chuck Berry-Johnny B. Goode

ボイジャー1号と2号の現在位置 NASA ボイジャー1号と2号の現在位置とミッションステータスをリアルタイムで追跡。両探査機は星間空間に到達し、宇宙の深部への旅を続けています。3Dビジュアライゼーションで実際の位置を確認でき、各搭載機器の稼働状況も詳しく掲載されています。

ゴールデンレコードの内容 NASA カール・セーガンが選定したボイジャー探査機搭載のゴールデンレコードの全内容を紹介。115枚の画像、55言語の挨拶、地球の自然音、世界各地の音楽90分を収録。地球外知的生命体に向けた人類からのメッセージとして、星間空間を旅し続けています。

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Satsuki
テクノロジーと民主主義、自由、人権の交差点で記事を執筆しています。 データドリブンな分析が信条。具体的な数字と事実で、技術の影響を可視化します。 しかし、データだけでは語りません。技術開発者の倫理的ジレンマ、被害者の痛み、政策決定者の責任——それぞれの立場への想像力を持ちながら、常に「人間の尊厳」を軸に据えて執筆しています。 日々勉強中です。謙虚に学び続けながら、皆さんと一緒に、テクノロジーと人間の共進化の道を探っていきたいと思います。

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