OpenAIとFoxconnが提携、米国でAIデータセンター部品を製造へ―1.4兆ドル投資計画の次の一手

OpenAIとFoxconnが提携、米国でAIデータセンター部品を製造へ―1.4兆ドル投資計画の次の一手 - innovaTopia - (イノベトピア)

OpenAIは2025年11月20日、世界最大の電子機器受託製造企業である台湾のFoxconnと提携し、米国でAIデータセンター部品を共同設計・製造すると発表した。

財務条件は非開示だが、OpenAIはFoxconnが生産するシステムを早期評価し購入できる権利を持つ。両社は複数世代のAIサーバーを並行開発し、電力、ネットワーキング、冷却システムなどのコア部品をFoxconnの米国施設で製造する。

Foxconnはウィスコンシン州、オハイオ州、テキサス州、バージニア州、インディアナ州に工場を保有している。

OpenAIのCEOサム・アルトマンは、AIインフラをアメリカ再工業化の機会と位置づけた。OpenAIは最近約1.4兆ドルの支出コミットメントを発表しており、今年末までに年間200億ドルの収益、2030年までに数千億ドルの収益を見込んでいる。

From: 文献リンクOpenAI taps iPhone assembler Foxconn to manufacture data center components in U.S.

【編集部解説】

今回のOpenAIとFoxconnの提携は、AI産業における製造サプライチェーンの「米国回帰」という大きな流れを象徴する動きです。これまでOpenAIはNvidiaやMicrosoft、Oracleといった企業とクラウドやチップ供給の契約を結んできましたが、今回初めて「ハードウェア製造」という物理的なレイヤーに踏み込みました。

この提携の背景には、OpenAIが掲げる約1.4兆ドル(30ギガワット相当)という途方もないインフラ投資計画があります。これはニューヨーク市のピーク時電力消費の約3倍に匹敵する規模で、AI時代の計算需要がいかに膨大かを物語っています。しかし同時に、年間収益200億ドルの企業がこれほどの投資をどう回収するのか、という疑問も浮上しています。

製造面では、Foxconnが電力システム、ネットワーク機器、冷却システムといったデータセンターの「心臓部」を米国内5州の工場で生産します。これにより、関税リスクの回避とサプライチェーンの短縮化が実現し、AI インフラの展開速度が飛躍的に向上する可能性があります。特にAIデータセンターは従来型の3〜5倍の電力密度を持つため、冷却や電力供給の設計が極めて重要になります。

ただし、Foxconnの米国での実績には懸念材料もあります。2018年のウィスコンシン州でのディスプレイ工場プロジェクトは、当初約束された100億ドルの投資と13,000人の雇用創出が実現せず、最終的には約30億ドルの税制優遇を受けながらも1,000人規模のサーバー組立施設に縮小されました。この失敗の記憶は、今回の提携においても慎重な見方を促します。

一方で、FoxconnはすでにNvidiaのAIサーバーを製造する主要サプライヤーであり、ヒューストンの工場ではNvidiaと共同で次世代スマート製造施設を建設中です。こうした実績が、OpenAIとの協業における技術的な信頼性を支えています。今回の提携に購入義務や財務的なコミットメントが含まれていない点は、両社が段階的にリスクを管理しながら関係を深めていく意図を示しています。

【用語解説】

AIサーバー
人工知能の学習や推論処理に特化したサーバーで、通常のサーバーと比べて高性能なGPUを大量に搭載し、3〜5倍の電力密度を持つ。冷却システムや電力供給の設計が従来型とは大きく異なる。

データセンター部品(コア部品)
データセンターを構成する電力供給システム、ネットワーク機器、冷却装置などの基幹部品を指す。AIワークロードでは特に冷却と電力管理が重要になる。

受託製造(EMS)
Electronics Manufacturing Serviceの略で、他社ブランドの電子機器を製造する事業形態。Foxconnは世界最大のEMS企業である。

サプライチェーンのローカライゼーション
製造拠点を需要地に近づけることで、輸送時間やコストを削減し、関税リスクを回避する戦略。AI時代の製造における重要なトレンドとなっている。

【参考リンク】

OpenAI公式サイト(外部)
ChatGPTやGPT-4を開発するAI研究企業。Foxconnとの提携でデータセンターインフラの米国内製造を推進

Foxconn(鴻海精密工業)公式サイト(外部)
世界最大の電子機器受託製造企業。iPhone組み立てで知られ、近年はAIサーバーや自動車製造に事業拡大

OpenAI – Foxconn提携発表ページ(外部)
OpenAIとFoxconnの協業に関する公式発表。米国製造の強化と長期的なインフラ展開を説明

Nvidia公式サイト(外部)
AI向け高性能チップの支配的プレーヤー。FoxconnはNvidiaのAIサーバーの主要製造パートナー

【参考記事】

OpenAI’s $1.4T Infrastructure: Scale and Transparency Issues(外部)
OpenAIの約1.4兆ドル(30ギガワット相当)のインフラ投資計画を詳述。ニューヨーク市のピーク時電力消費に匹敵する規模

OpenAI wants to get to $1 trillion a year in infrastructure spend(外部)
サム・アルトマンが語る1兆ドル規模の年間インフラ支出計画と、OpenAIの野心的な成長戦略を報告

Foxconn, OpenAI partner on AI hardware manufacturing(外部)
ロイターによる提携の詳報。購入義務や財務的コミットメントは含まれず、段階的なリスク管理アプローチを採用

What happened to Foxconn in Wisconsin? A timeline(外部)
2018年のウィスコンシン州Foxconn工場プロジェクトの失敗を時系列で解説。100億ドル投資が1,000人規模に縮小

AI Data Centers and Manufacturing: A New Era of Opportunity(外部)
AIデータセンターが従来型の3〜5倍の電力密度を持ち、製造業に新たな機会をもたらすことを解説

【編集部後記】

AIインフラの製造がいよいよ米国に戻ってくる。この動きは、私たちが日々使うサービスやプロダクトの未来にどんな影響を与えるのでしょうか。データセンターの部品が「どこで」「誰によって」作られるかは、一見地味なテーマに思えるかもしれません。

でも、それがAIの進化スピードや、新しいサービスが私たちの手元に届くタイミングを左右するとしたら? Foxconnのような巨大企業が製造体制を変え、OpenAIのような存在が「作り方」から変えようとしている今、テクノロジーと社会の関係性が再び書き換えられようとしています。みなさんは、AIが生まれる現場の変化に、どんな可能性を感じますか?

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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