Sony Interactive Entertainmentは2025年7月28日、6月のState of Playで「Project Defiant」として発表していたワイヤレスファイトスティックの正式名称を「FlexStrike」と発表した。8月1日から3日にかけてラスベガス・コンベンションセンターで開催されるEvo 2025において、Fight Stick MuseumとArc System Worksブースで初回展示される。同製品はSony Interactive Entertainmentが設計する初のファイトスティックコントローラーで、2026年に発売予定である。
FlexStrikeはPS5とPCに対応し、有線接続に加えて超低遅延ワイヤレス技術のPlayStation Linkによるワイヤレス接続が可能である。メカニカルスイッチボタン、工具不要で交換可能な四角・円・八角形のリストリクターゲート、内蔵収納コンパートメント、USB-Cケーブル、スリングキャリーケース、内蔵充電式バッテリーを搭載する。PS5では単一のPS Link USBアダプターでFlexStrike2台の同時接続が可能で、Pulse EliteワイヤレスヘッドセットやPulse Exploreワイヤレスイヤホンとの同時接続にも対応する。
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New details on PlayStation’s first wireless fight stick, FlexStrike

【編集部解説】
今回のFlexStrike発表は、格闘ゲーム業界における長年の課題への革新的なアプローチとして注目されます。
現在の格闘ゲーム大会では、Evo 2025を含む主要トーナメントにおいて「ワイヤレスコントローラーは原則として使用禁止」というルールが厳格に適用されています。これは単なる慣習ではなく、技術的な制約に基づく合理的な判断です。
格闘ゲームにおけるコントローラーの現状は複雑です。競技レベルでは、パッド(ゲームパッド)とアーケードスティックの両方が使用されており、どちらが優位かは個人の好みとプレイスタイルに依存します。また近年では、Hit BoxやMixboxといったレバーレス(全ボタン式)コントローラーも普及しており、より精密で高速な入力を可能にする第三の選択肢として注目を集めています。格闘ゲームの多くがアーケード由来であるため、従来のアーケードスティックは本来の操作感を再現する意味で伝統的に重宝されていますが、レバーレスコントローラーは「ボタンを押す方がレバーを動かすより速い」という物理的特性を活かし、複雑なコマンド入力を高速かつ正確に実行できる利点があります。
ワイヤレス技術の最大の懸念点は遅延と接続障害です。現代のワイヤレスコントローラーの遅延は通常4-8ミリ秒程度と技術的には無視できるレベルですが、Bluetoothの場合はさらに大きく、条件によっては20ミリ秒以上の遅延が発生することもあります。また、問題は大会会場という特殊環境にもあります。数十台のワイヤレス機器が同じ会場に集中すると、2.4GHz帯での電波干渉が深刻化し、入力遅延の増大や接続断が頻発します。
PlayStation Linkは、従来のBluetoothとは異なる独自のワイヤレス技術として、「超低遅延」と「ロスレス音声」を謳っています。原文では「our innovative ultra-low latency wireless technology」と表現されており、Sony独自の革新的技術であることが強調されています。しかし、具体的な遅延数値や干渉耐性については詳細が明かされておらず、実際の大会環境での検証が待たれるところです。
この技術が実現すれば、プロゲーマーの可搬性は劇的に向上します。現在、競技者は重いアーケードスティックとケーブルを持参する必要がありますが、ワイヤレス化により機動性が大幅に改善されるでしょう。一方で、大会主催者にとってはコントローラー管理の複雑化という新たな課題が生まれます。
潜在的なリスクとして、技術的な信頼性の問題があります。バッテリー切れ、接続エラー、ファームウェアの不具合など、有線では起こり得ない障害の可能性が考えられます。また、大会ルール策定においても、ワイヤレス機器の承認基準や検査手順の見直しが必要になるでしょう。
長期的な視点では、FlexStrikeの成功は業界標準を変える可能性を秘めています。もしSonyの技術が真に信頼性の高いワイヤレス接続を実現できれば、他メーカーも追随し、格闘ゲーム界のワイヤレス化が一気に進む可能性があります。これは競技環境のみならず、一般ユーザーの体験向上にも寄与するでしょう。
ただし、2026年の発売まで実際の性能は未知数であり、特に大会環境での実証実験が成功の鍵を握ることになります。
【用語解説】
PlayStation Link
Sony独自開発の超低遅延ワイヤレス音声・制御技術。従来のBluetoothより高速で安定した接続を実現し、ロスレス音声を提供する。
ファイトスティック(アーケードスティック)
格闘ゲーム用の専用コントローラー。アーケードゲーム機の操作パネルを模したレバーと複数のボタンで構成される。
レバーレスコントローラー
従来のレバーを廃止し、方向入力も含めて全てボタンで操作するファイトスティック。Hit BoxやMixboxが代表的製品である。
リストリクターゲート
アーケードスティックのレバーの動作範囲を制限するパーツ。四角、円、八角形などの形状があり、ゲームに応じて交換可能。
Project Defiant
FlexStrikeの開発時コードネーム。2025年6月のPlayStation State of Playで初めて公表された。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
格闘ゲームの世界では、コントローラー選びが勝敗を左右する重要な要素の一つです。パッド派、アーケードスティック派、そして最近注目のレバーレス派と、プレイヤーの好みは実に多様ですね。正直なところ、私も大会でのワイヤレス普及には技術的なハードルがまだ高いと感じています。電波干渉や遅延の問題を完全に解決するのは容易ではないでしょう。それでも、FlexStrikeのような挑戦的な製品が登場することで、業界全体の技術革新が促進される意義は大きいはずです。みなさんは普段どんなコントローラーでゲームを楽しんでいますか?また、競技レベルでのワイヤレス化についてどう思われるでしょうか?技術の進歩とともに変化する格闘ゲーム界の動向を、一緒に見守っていけたらと思います。