SMRより再生可能エネルギーが43%安価、データセンター電力で英研究が証明

 - innovaTopia - (イノベトピア)

英国のネットゼロセンター(CNZ)が実施した研究によると、再生可能エネルギーによるデータセンター電力供給は小型モジュール炉(SMR)より低コストで実現できる。120MWのデータ施設において、再生可能エネルギーと少量のガス発電を組み合わせた場合、SMRと比較して43パーセントのコスト削減が可能である。洋上風力、太陽光、バッテリーストレージ、ガス発電で構成されるマイクログリッドは、原子力SMRからの電力調達より年間運営コストが大幅に安くなる。

再生可能エネルギーは大規模データセンターの年間恒常需要の80パーセントを満たすことができる。CNZはPython for Power System Analysis(PyPSA)を使用してコスト計算とモデル化を実施した。再生可能エネルギー主体のマイクログリッドは約5年で建設可能な一方、運用可能なSMRは次の10年間まで広く利用できない見込みである。CNZはオクトパスエネルギーグループによって設立され、カリフォルニア州、ヨーロッパの国際エネルギー機関、英国政府にアドバイスを提供している。

From: 文献リンクWind and solar will power datacenters more cheaply than SMRs

【編集部解説】

今回のCNZ(ネットゼロセンター)による研究は、AI需要急拡大によるデータセンター電力不足という差し迫った課題に対する現実的な解決策を提示しています。特に注目すべきは、再生可能エネルギーによる43パーセントというコスト削減幅と、建設期間の大幅短縮です。

コスト構造の現実

SMRの経済性については業界内でも議論が分かれており、実際のコストデータは限定的です。NuScale社の米国プロジェクトでは、当初の建設費53億ドルが93億ドルへと75パーセント増加し、発電コストも58ドル/MWhから89ドル/MWhに上昇しています。

技術的実現可能性の差

最も重要な観点は実装スピードです。再生可能エネルギーベースのマイクログリッドが約5年で構築可能である一方、商用SMRの広範囲な展開は2030年代まで見込まれていません。現在運用されているSMRは、ロシアの浮体式原子力発電所「アカデミック・ロモノソフ」のみと極めて限定的です。中国の「玲龍1号」は建設が進行中で2026年の運転開始予定となっており、西側諸国での実証例はまだありません。

マイクログリッドの技術的優位性

洋上風力と太陽光の組み合わせによって年間需要の80パーセントをカバーできるという数値は、近年の再生可能エネルギー技術の急速な進歩を反映しています。特にバッテリーストレージ技術のコスト低下により、ガス発電への依存度をさらに削減できる見通しです。これは地政学的リスクの軽減にもつながります。

規制環境への影響

このような研究結果は、各国のエネルギー政策に大きな影響を与える可能性があります。米国では政権交代によって再生可能エネルギーへの支援策が変更される可能性がある一方、欧州では既に再生可能エネルギーへの投資が加速しており、技術革新競争が激化することが予想されます。

長期的な視点での課題

ただし、この研究が英国の高コスト電力市場を基準としている点は留意が必要です。また、データセンターの電力需要は継続的に増加しており、単一の電源に依存するリスクも考慮すべきです。最終的には、多様なエネルギーソースの最適な組み合わせを見つけることが、持続可能なデジタル社会の実現につながるでしょう。

【用語解説】

SMR(Small Modular Reactor): 出力300MW以下の小型モジュール炉。従来の大型原子炉と比較して工場での製造が可能で、建設期間の短縮とコスト削減を目指す次世代原子力技術。

マイクログリッド: 特定地域で電力を生成・配電する局所的なエネルギーネットワーク。通常は国の電力網から独立して運営され、再生可能エネルギーとバッテリーストレージを組み合わせることが多い。

LCOE(Levelized Cost of Electricity): 均等化発電原価。発電所の建設から運用までの全費用を発電量で割った指標で、異なる発電技術のコストを比較する際の標準的な指標。

PyPSA: Python for Power System Analysisの略称。電力システムの最適化と分析を行うオープンソースのエネルギーモデリングツール。

洋上風力発電: 海上に設置される風力発電施設。陸上風力より安定した風況が得られ、騒音問題も少ないため、近年急速に導入が進んでいる。

【参考リンク】

Centre for Net Zero(外部)
オクトパスエネルギーグループが設立した研究機関。英国政府やカリフォルニア州にエネルギー政策のアドバイスを提供

NuScale Power Corporation(外部)
米国オレゴン州を拠点とするSMR開発のパイオニア企業。77MWのVOYGR SMRモジュールを開発

GE Vernova(外部)
ゼネラル・エレクトリックのエネルギー部門。BWRX-300 SMRを開発し、カナダで商用SMR建設を進行

Python for Power System Analysis (PyPSA)(外部)
電力システムの最適化と分析を行うオープンソースソフトウェア。今回の研究でコスト比較モデリングに使用

【参考記事】

Eye-popping new cost estimates released for NuScale small modular reactor | IEEFA(外部)
NuScale SMRプロジェクトの建設費が53億ドルから93億ドルへ75%増加し、発電コストも58ドル/MWhから89ドル/MWhに上昇したことを詳細に分析

Global SMR pipeline surges 42% as data centres drive demand | Wood Mackenzie(外部)
SMRパイプラインが前四半期比42%増加し47GWに達したと報告。データセンター需要が全体の39%を占め、総投資額3600億ドルが必要と分析

Canada’s first SMR project: How is CAD20.9 billion cost calculated? – World Nuclear News(外部)
カナダ初のSMRプロジェクトの総費用209億カナダドルの内訳を詳細に説明。初号機61億カナダドル、インフラ整備16億カナダドルという具体的なコスト構造を提示

Techno-economic analysis of advanced small modular nuclear reactors – ScienceDirect(外部)
軽水炉SMR、ガス冷却SMR、溶融塩SMRの建設費をそれぞれ4844ドル/kW、4355ドル/kW、3985ドル/kWと算出し、LCOEを89.6ドル/MWh、81.5ドル/MWh、80.6ドル/MWhと分析した学術研究

【編集部後記】

今回の研究結果は、私たちが直面するエネルギー転換の複雑さを浮き彫りにしています。SMRへの期待が高まる一方で、実は既存技術の組み合わせがより現実的な解決策かもしれません。皆さんが働く職場やお住いの地域では、どのようなエネルギー課題を感じていらっしゃいますか?また、新技術への投資と実証済み技術の活用、どちらを優先すべきだとお考えでしょうか?コスト面だけでなく、環境負荷や社会受容性も含めて、この議論を深めていく必要があると感じました。

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shimizu
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