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廃止されたWindows Mixed Reality救済プロジェクト「Oasis」、Microsoft社員が非公式SteamVRドライバー開発

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-11 10:52 by まお

Microsoft社員が非公式でWindows Mixed Realityヘッドセット向けのSteamVRドライバー「Oasis」を開発中であることが明らかになった。

Microsoftは2024年10月のWindows 11 24H2アップデートでWindows Mixed Realityプラットフォームのサポートを完全に終了し、HP Reverb G2などのヘッドセット所有者は使用不可能となっていた。この状況を受けて、Redditユーザー名「mbucchia」を名乗るMicrosoft社員が、Windows MRヘッドセットを復活させるためのネイティブSteamVRドライバー「Oasis」の開発を進めていると発表した。

開発者は元Microsoft Mixed Reality部門の現Microsoft社員であると自己紹介しており、同ドライバーの名称は社内でのWindows Mixed Realityの内部コードネーム「Oasis」と、開発者自身のフランスでの子供時代の思い出に由来する。このドライバーはValve IndexやBigscreen Beyond、PSVR2と同様のネイティブSteamVRドライバーとして機能し、Windows 11 24H2で廃止されたMixed Reality Portalに依存せずに動作する設計となっている。

技術仕様として、完全な6DoF(6軸)トラッキングとモーションコントローラーをサポートするが、ValveとSteamVRのGPUドライバーとの相互作用の制約により、対応はNvidia GPUに限定される。開発者はNDAや企業義務に違反しないよう細心の注意を払っており、SteamVRに多くの処理を依存させ、Microsoft知的財産の借用は一切行っていないと明言している。

これらの制約により早期アクセスやベータテストは実施されず、正式リリースは2025年秋を予定している。なお、このプロジェクトはオープンソースのOpenXRランタイムであるMonadoとは別物であり、そのコードも使用していない。

Windows MRユーザーは現在、Windows 10(2025年10月14日サポート終了予定)や旧バージョンのWindows 11 23H2(2026年11月までSteamVRサポート継続)でヘッドセットを使用可能だが、この非公式ドライバーにより使用期間の大幅延長が期待される。

from:
 - innovaTopia - (イノベトピア)Microsoft Employee Working On SteamVR Driver To Revive Windows MR Headsets | UploadVR

【編集部解説】

Windows Mixed Reality(WMR)プラットフォームの廃止は、VR業界にとって大きな転換点となりました。Microsoftは2024年10月のWindows 11 24H2アップデートで、Mixed Reality PortalとWindows Mixed Reality for SteamVRのサポートを完全に終了しています。これにより、HP Reverb G2をはじめとするAcer、Asus、Dell、HP、Lenovo、Samsung製の数十万台のWMRヘッドセットが事実上使用不可能となりました。

このOasisドライバーが画期的である理由は、Mixed Reality Portalに依存しない独立したSteamVRドライバーとして設計されている点にあります。従来のWMRヘッドセットは、Windows標準のMixed Reality Portalを経由してSteamVRにアクセスする必要がありましたが、Oasisは直接SteamVRと通信する仕組みを採用しています。

技術的な制約として、Nvidia GPUのみの対応となる点は重要です。これはValveのSteamVRがGPUドライバーと相互作用する方法に起因しており、Linux環境でのOpenXR関連の既知の問題とも関連している可能性があります。AMD GPUユーザーにとっては残念な制限となりますが、市場シェアを考慮すると多くのユーザーが恩恵を受けられるでしょう。

法的な観点から見ると、現役Microsoft社員による開発という点は非常にデリケートです。開発者は企業秘密保持契約(NDA)の遵守を強調し、Microsoft知的財産の使用を明確に否定しています。リバースエンジニアリングによる開発手法を採用することで、法的リスクを最小限に抑える戦略を取っています。

このプロジェクトが成功すれば、廃止されたプラットフォームの復活という前例のない事例となります。特にHP Reverb G2は、2020年発売と比較的新しく、2160×2160の高解像度ディスプレイを搭載した高性能ヘッドセットです。これらのデバイスが再び活用可能になることで、VRシミュレーション分野への影響は計り知れません。

一方で、個人開発者による非公式ドライバーという性質上、長期的なサポートや安定性には不確実性が残ります。また、将来的なWindows更新やSteamVRの仕様変更により、互換性が失われるリスクも存在します。

VR市場全体への影響を考えると、このような草の根的な開発活動は、プラットフォーム廃止に対するユーザーコミュニティの強い意志を示しています。Meta Quest 3やApple Vision Proなど新世代デバイスが注目される中、既存ハードウェアの延命は持続可能なVR普及にとって重要な意味を持ちます。

2025年秋のリリース予定という時期設定も戦略的です。Windows 10のサポート終了が2025年10月14日に予定されており、多くのユーザーがWindows 11への移行を検討するタイミングと重なります。このドライバーの登場により、WMRユーザーは安心してOSアップグレードを実行できるようになるでしょう。

【用語解説】

Windows Mixed Reality(WMR):Microsoftが開発したVR/ARプラットフォーム。Windows 10に統合され、HP Reverb G2などのヘッドセットで利用できたが、2024年10月のWindows 11 24H2で完全にサポート終了となった。

SteamVR:Valve社が提供するVRゲームプラットフォーム。PC向けVRヘッドセット用のオープンプラットフォームとして、多くのVRデバイスに対応している。

6DoF(Six Degrees of Freedom):3次元空間における6つの自由度を指す。前後・左右・上下の移動(3軸)と、ピッチ・ヨー・ロールの回転(3軸)を組み合わせた動きを追跡する技術。

Mixed Reality Portal:Windows Mixed Realityヘッドセットを使用するためのWindows標準アプリケーション。Windows 11 24H2で完全に廃止され、WMRヘッドセットが使用不可能となった。

リバースエンジニアリング:既存の製品やソフトウェアを解析して、その仕組みや設計を理解する技術。知的財産権に配慮しながら互換性のあるソフトウェアを開発する手法。

Windows 11 24H2:2024年10月にリリースされたWindows 11の大型アップデート。このバージョンでWindows Mixed Realityのサポートが完全に終了した。

【参考リンク】

Microsoft公式サイト(外部)Microsoftの公式日本語サイト。Windows Mixed RealityやHoloLensなどのMR技術、Azure、Office製品の情報を提供している。

HP Reverb G2製品ページ(外部)HP Reverb G2 VRヘッドセットの日本語製品情報ページ。スペックや価格、購入方法などの詳細情報を掲載している。

Valve Index製品情報(外部)Valve社製VRヘッドセット「Valve Index」の製品概要ページ。SteamVRの公式ハードウェアとしての位置づけや特徴を解説している。

【参考動画】

【参考記事】

Unofficial SteamVR Driver Will Reportedly Enable Support for WMR | Road to VR本記事の主要な海外報道元。mbucchiaによるOasisドライバー開発の詳細と、Windows MR廃止の経緯について詳しく報じている。

【解説】WindowsMRとは?設定方法やゲーム・アプリ主要デバイスなど一挙紹介! | VR INSIDE
Windows Mixed Realityの基本概念から設定方法、対応デバイスまでを包括的に解説した日本語記事。WMR初心者向けの詳細ガイド。

Steam VRとは?対応ヘッドセットや設定方法について詳しくご紹介! | XR CLOUDSteamVRプラットフォームの概要と対応デバイス、設定方法を詳しく解説した記事。VRゲーミングの基礎知識として有用。

【編集部後記】

改めてVRコミュニティの底力を感じずにはいられませんでした。Windows Mixed Realityの突然の廃止発表から約8ヶ月、多くのユーザーが「高価な文鎮」を抱えて途方に暮れる中、まさかMicrosoft社員自身が救世主として現れるとは誰が予想できたでしょうか。

特に印象的なのは、mbucchia氏がNDAや企業秘密の制約を細心に配慮しながらも、コミュニティへの貢献を優先している姿勢です。大企業の論理で切り捨てられたプラットフォームを、個人の情熱と技術力で蘇らせようとする姿は、まさにVR黎明期から続く「草の根精神」の体現と言えるでしょう。

個人的には、このような技術的チャレンジがVRコミュニティから生まれ続けることに、この業界の未来への希望を感じています。大手企業の戦略に左右されがちなVR市場において、ユーザーコミュニティの力強さを改めて実感させられるニュースでした。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!

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