楽天がヘルシングの日本展開を支援|陸自がHX-2を9月末まで実証

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ドイツの防衛スタートアップが日本の陸上自衛隊に無人機を売り込むにあたって選んだ相手は、商社でも重工メーカーでもなく、楽天でした。ヘルシングはこの相手を「現地の仲介パートナー」と表現しています。防衛装備が日本に入ってくる入り口に、防衛を主業としてこなかった企業が立っています。


楽天グループが、ドイツの防衛AI企業ヘルシングの無人機を日本の陸上自衛隊へ売却する商談をまとめる支援を担う。楽天広報が8月17日に明らかにした。陸上自衛隊はヘルシングの攻撃型ドローン「HX-2」の実証試験を実施中で、試験は9月末まで続く。

ヘルシングは今年、日本政府が同社システムを使用することで初期合意に達したとし、名称を明かさない現地の仲介パートナーによって実現したと説明している。日本での量産については、現時点でヘルシング側と協議していないと楽天広報は述べた。ヘルシングは2021年創業でミュンヘンに拠点を置き、7月にシリーズEで18億ドルを調達、評価額は180億ドルとなった。

楽天グループ株は17日、一時前営業日比3.5%高の790.4円を付けた。

From: 文献リンクGerman drone maker Helsing enlists Rakuten to broker Japan military deal

【編集部解説】

今回の一報で目を引くのは、ドローンの性能でも金額でもなく、楽天が引き受けた役どころです。ヘルシングは、日本政府とのシステム利用に関する初期合意が、社名を明かさない「現地の仲介パートナー」によって可能になったと説明しています。ロイターは別途、楽天がこの商談の取りまとめを支援していると報じました。開発でも製造でもなく、仲介です。

日本の防衛装備品の輸入調達は、大きく一般輸入とFMS(有償援助)に分かれます。一般輸入には、外国企業から直接調達する形と、商社などの国内企業を介する形があります。会計検査院の整理でも「商社等」には商社だけでなく国内の製造会社が含まれており、海外メーカーと防衛省をつなぐ機能そのものは以前からありました。担い手も一種類ではありません。

そのうえで今回特徴的なのは、その担い手の顔ぶれです。楽天のように防衛を主業としてこなかった大手デジタル企業が、海外の防衛スタートアップと日本政府をつなぐ位置に入っています。ここが今回の注目点です。

楽天には、今回の支援と隣接する実績があります。2016年にドローン配送プロジェクト「そら楽」を始め、その後は建物の点検・調査や操縦者の育成へと領域を広げてきました。2025年5月にはウクライナの政府機関Brave1と協力し、防衛装備品の展示会DSEI Japanで同国のスタートアップ6社の出展を支援しています。さらに楽天モバイルは、日米の共同演習でOpen RAN対応ネットワークを介したモバイル通信接続を実証しました。ただし、ヘルシングがこれらを理由に楽天を選んだとする当事者の説明は公表されていません。

並べてみると、いずれも兵器をつくる能力ではありません。ドローンの運用や規制対応、政府とスタートアップの接点づくり、厳しい運用環境での通信技術の実装といった、周辺の実務能力です。防衛産業の内側ではなく外側で積み上がったものが、海外の技術を日本に持ち込む場面で生きる。この構図は、これから増えていくのではないかと見ています。

制度の側も動いています。防衛省は先端技術の早期装備化を政策課題に掲げ、そのスキームは民生技術だけでなく、海外ですでに実装済みの装備品も対象としています。短い時間で外の技術を取り込む道筋が、制度として整えられつつあります。

楽天側の言葉も、この文脈に重なります。常務執行役員で社長室室長の向井秀明氏は、ロイターへの声明で、日本の防衛産業へのスタートアップ参入について、複雑な調達制度、政府機関とのコミュニケーションの難しさ、調達サイクル上の困難という構造的な障壁を挙げました。そのうえで、自社の経験と能力を生かして、スタートアップや先端技術を政府機関のニーズにつなぎたいと述べています。ヘルシング1社に限らず、この役割を広げていく意向が読み取れます。

どこまで踏み込むのかは未定です。日本経済新聞は国産化も視野に入ると報じましたが、楽天の広報は、日本での量産をヘルシング側と現時点で協議していないとしています。正式な調達契約も、まだ発表されていません。9月末までの実証試験は導入判断の材料になりますが、国内生産まで含めた絵がそこで決まるかどうかは、現時点ではわかりません。

機体の位置づけは、切り分けて読む必要があります。HX-2はヘルシングの公式分類では攻撃型ドローンで、機体重量は12キログラム、射程は最大100キロメートル。電動推進で、対装甲の成形炸薬を含む複数の弾頭に対応します。通信や測位衛星の信号が妨害された環境でも搭載AIが目標を探索・再識別でき、重要な判断には人間が関与する設計です。一部の報道はこの機体を「ミサイルの撃墜ができる迎撃用」と伝えていますが、その能力は公開されている一次資料では確認できません。一方、米陸軍の最高技術責任者は、リトアニアでの演習でHX-2が一方向攻撃だけでなく対ドローン用途にも使われたと説明しており、迎撃的な使い方が皆無だと言い切ることもできません。陸上自衛隊が今回の実証でどの任務を想定しているかは公表されていません。

ヘルシング自身の現在地も押さえておきます。7月にシリーズEで18億ドルを調達し、評価額は180億ドルとなりました。前年の2025年6月にはFinancial Timesが評価額を約120億ユーロと報じています。同社は当時、評価額を公表していません。今年1月にはウクライナ前線でのHX-2の稼働と命中をめぐる報道があり、同社はドイツ、英国、ケニアでの軍事試験で高い命中率だったと自社声明で反論しました。ただし声明に試験条件や母数は示されていません。米陸軍によると4月30日から5月19日までリトアニアで実施されたProject Flytrap 5.0については、Axiosが米陸軍への取材をもとに、ヘルシングのHX-2計17機が15件の「kill」と2件のニアミスを記録したと報じています。この内訳は米軍の公式発表では確認できません。数字は出所と条件で振れる、ということです。

国内では、テラドローンが防衛装備庁から国産の「モジュール型UAV(汎用型)教育用」300式を受注するなど、スタートアップが自衛隊向けの実績を積み始めています。今回の件では、以前から存在する海外技術の導入経路に、楽天のように防衛を主業としてこなかった企業が新たな担い手として加わりました。装備をつくる会社と、つなぐ会社。その顔ぶれが広がることは、日本が選べる技術の幅が広がることでもあります。

【関連記事】

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本記事で触れた命中率をめぐる一連の報道について、2026年1月時点の状況を詳しく扱った記事である。今回の背景の理解に役立つ。

テラドローンが防衛装備庁から国産モジュール型UAV 300機を1.15億円で受注、1機38万円が変える日本の防衛調達
国内スタートアップの側から見た、日本の防衛調達の変化を扱った記事である。受注の金額と1機あたりの単価についても触れている。

Terra A1、ウクライナで実運用開始—日本発の迎撃ドローンが変える防衛コスト
迎撃ドローンのコスト構造を扱った記事である。今回の攻撃型ドローンとの違いを理解するための補助線として読むことができる内容。

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海外の防衛ドローン企業と日本企業が組んだ先行例を扱った記事である。日本国内での製造拠点の設置と、その狙いを伝えている記事。

【編集部後記】

本文には入れませんでしたが、楽天が間に立ったのはヘルシングが最初ではありません。ロイターによると、今年4月には米国上場のウクライナ企業Swarmerが自衛隊の部隊向けにドローン群を連携させるデモを実施しており、その段取りも楽天が担っていました。

一度きりの提携なら、話題として消費されて終わります。二度目、三度目と続くなら、それは事業です。どちらなのかは、9月末以降の動きでわかります。


【用語解説】

一般輸入
防衛装備品の輸入調達方式のひとつ。外国企業から直接調達する形と、商社などの国内企業を介する形がある。米国政府から政府間で調達するFMSと区別される。

FMS(有償援助)
Foreign Military Salesの略。米国政府が同盟国などに装備品を有償で提供する仕組みである。企業間の契約ではなく、政府間の取引となる点が特徴。

攻撃型ドローン(徘徊型兵器)
目標の上空で待機し、発見した対象へ機体ごと突入する無人機。使い捨てを前提とする点で、繰り返し使う偵察機や、飛来物を落とす迎撃ドローンとは設計思想が異なる。

成形炸薬
爆薬の形状を工夫して爆発のエネルギーを一点に集中させ、装甲を貫通させる弾頭方式。対戦車兵器で広く用いられている。

対ドローン(counter-drone)
飛来する無人機を検知・追尾・無力化する技術と運用の総称。C-UAS(Counter-Unmanned Aircraft Systems)とも呼ばれる。

Open RAN
無線基地局の構成要素を分離し、複数ベンダーの汎用機器で組み合わせられるようにした方式。楽天モバイルが商用網で採用している。

シリーズE
スタートアップの資金調達ラウンドの区分で、シリーズA以降の5番目にあたる後期の段階。事業が確立し、規模拡大の局面にある企業が対象となることが多い。

早期装備化
有望な技術を短い期間で装備品として実用化するための、防衛省の政策的な取り組み。民生技術のほか、海外ですでに実装済みの装備品も対象に含まれる。

Project Flytrap
米陸軍が主導する多国間の対ドローン演習。リトアニアのパブラデ訓練場などで実施され、各国の部隊と企業の技術を実環境で評価する。

【参考リンク】

Helsing(外部)
2021年設立のドイツの防衛AI企業。攻撃型ドローン、水中監視システム、軍用機向けソフトウエアを幅広く手がけている企業。

HX-2 – AI Strike Drone(外部)
本記事で扱う機体の公式製品ページ。射程や機体重量、搭載AIの働き、弾頭の選択肢、重要な判断への人間の関与について記載されている。

楽天グループ株式会社(外部)
Eコマース、フィンテック、通信を柱とする日本のインターネット企業。2016年からドローン事業も手がけ、配送や点検に取り組んでいる。

楽天グループ 役員紹介(外部)
本文で言及した向井秀明氏の役職を確認できる公式ページ。2026年4月1日現在の経営陣の顔ぶれと担当領域が掲載されている。

Terra Drone株式会社(外部)
産業用ドローンと防衛装備を手がける日本企業。防衛装備庁からの受注や、ウクライナ企業への出資の実績を公表している企業である。

DSEI Japan(外部)
幕張メッセで開催される防衛装備品の国際展示会。2025年の開催では、楽天が支援したウクライナのスタートアップも出展した。

Brave1(外部)
ウクライナ政府の防衛技術クラスター。国内外のディフェンステック企業への支援と、海外市場との橋渡しの役割を担っている組織。

【参考記事】

楽天G、ドイツの防衛スタートアップと協業-軍用ドローン導入支援(外部)
日本での量産を現時点で協議していないという楽天広報の説明と、報道当日の楽天グループ株の反応の両方を伝えている記事。

楽天、迎撃用ドローンで提携 ドイツ新興と、防衛省納入狙う(外部)
共同通信が配信した記事である。本記事が公式情報と切り分けた「迎撃用」「ミサイルの撃墜」という説明が掲載されているものである。

U.S. troops test German-made Helsing attack drones in Europe(外部)
HX-2計17機が15件の命中と2件のニアミスを記録したとする報道。演習に立ち会った米陸軍の最高技術責任者の発言を掲載。

Helsing raises $1.8 billion in Europe’s biggest defense-startup round(外部)
18億ドルの調達と180億ドルの評価額を伝える記事。2025年6月時点で報じられた評価額との比較についても触れている記事。

US Army tests Helsing’s HX-2 strike drone during Flytrap 5.0(外部)
演習全体で約200回の飛行があったとする記事。「17」を機数ではなく発射回数として記述しており、Axiosと表現が異なる。

Rakuten, German startup Helsing test military drones for Japan(外部)
楽天が両者の窓口を務めたことや、アジア太平洋地域における同社にとって初期の提携にあたる点を伝えている記事である。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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