XREALは12月1日、東京ポートシティ竹芝で開催された「XR Kaigi 2025」において、次世代ARグラス「XREAL 1S」を発表しました。

価格は6万7,980円(税込)で、2026年1月下旬の発売を予定しています。注目すべきは、日本がグローバルで初の発表・予約開始市場となった点であり、同社の日本市場重視戦略が鮮明となっています。
エントリーモデルに込められた戦略的意図

XREAL 1Sの製品名に冠された「S」には、「Special」と「Superior」の二つの意味が込められています。同社はこれを「AR未体験者と、新時代を求める経験者へ」向けたエントリーモデルと位置づけていますが、その実態は単なる廉価版ではありません。
発表会でXREAL PR Managerの尾崎大介氏は、2025年を「収穫祭」の年と表現しました。XREAL Oneシリーズの成功、Amazonにおける業界検索シェア80%の獲得、前年比売上40%増といった実績を挙げました。そして2026年に向けては、ブランド戦略として「ローカライズ」、製品戦略として「メインストリーム」を主軸に据え、より幅広い層への浸透を図るとしています。
この戦略的文脈において、XREAL 1Sは前世代のミドルレンジモデルXREAL One(6万9,980円→12月2日より6万2,980円に価格改定)と同等の価格帯に設定されながら、多くの面でスペックを向上させている点が興味深いです。量産体制が整った部品を採用することでコストと供給の安定を両立させつつ、革新的機能を搭載するという、巧みな製品設計が見て取れます。
世界初:ARグラス単体での2D→3D変換
XREAL 1Sの最大の技術的特徴は、自社開発の空間コンピューティングチップ「XREAL X1」に内蔵されたAIによる、2Dコンテンツの3D映像へのリアルタイム変換機能です。XREALによると、ARグラス単体でこの機能を実現したのは世界初だということです。

この機能は、YouTubeの動画、漫画アプリ、ゲーム画面など、あらゆる2Dコンテンツを追加のソフトウェアやアクセサリーなしに立体視可能な映像へ変換できます。最大3msという低遅延を実現しており、実用的なレベルでの体験が可能です。
スペックの全面的向上


XREAL 1SはXREAL Oneと比較して、多くの面でスペックが向上しています:
ディスプレイ仕様:
視野角: 52度(Oneは50度)
解像度: WUXGA(1,920×1,200ドット)片目あたり(OneはフルHD 1,920×1,080ドット)
輝度: 700cd/㎡(Oneは600cd/㎡)
重量: 82g(ノーズパッド除く、Oneと同等)
ディスプレイにはソニー製0.68型OLEDマイクロディスプレイを採用し、投影方式はバードバス方式を継続しています。数メートル先に100〜173インチ相当の大画面を表示でき、距離や画面サイズは好みに応じて調整可能です。
解像度が16:10のアスペクト比になったことで、従来の16:9表示よりも縦方向の視野が広がり、スマートフォンやタブレット、ノートPCなど、昨今16:10比率のパネルが多用される機器との親和性も高まっています。
空間固定機能の進化
従来の0DoF対応グラスでは頭を動かすと画面も一緒に動き、酔いやすいという問題がありました。XREAL 1Sは3DoFに対応し、頭を動かしても画面が空間に固定されるため、実際のテレビを見るような感覚で視聴できます。
さらに、別売の外付け小型カメラ「XREAL Eye」(1万3,980円)を装着することで6DoFに対応し、前後方向の移動に対してもスクリーンを空間上に固定できるようになります。この段階的な機能拡張により、ユーザーは自身のニーズに応じて体験をカスタマイズできます。
また、今回の発表では6DoFを活用したアプリ開発のためのSDK提供も同時にアナウンスされました。

カメラアクセスが可能なスマートグラスでの開発環境解禁は、プライバシー保護の観点から慎重な判断が求められる領域ですが、XREALはこれを英断として実行しました。デモでは初音ミクのライブMRコンテンツが披露され、ユーザーが自由な位置・角度からステージを眺められる体験が提示されました。
今回の発表では、6DoFを活用したアプリ開発のためのSDK提供も同時にアナウンスされました。開発者がXREAL Eyeのカメラにアクセスし、独自のAR/MRアプリケーションを開発できる環境が整うことになります。デモでは初音ミクのライブMRコンテンツが披露され、ユーザーが自由な位置・角度からステージを眺められる体験が提示されました。
UnityやUnreal Engineで制作された3D CGコンテンツを、XREAL 1S上で自由な視点から鑑賞できるこの機能は、特にボーカロイドやVTuber文化が根付く日本市場において、新たなコンテンツ体験の可能性を開くものと言えます。インディーゲーム開発者やクリエイターにとって、新たな表現の場が提供されることになります。
BOSE協業による高音質サウンド
音響面では、BOSE製サウンドシステムを採用し、内蔵スピーカーの音質を大幅に強化しています。テンプル部分には「SOUND BY BOSE」のロゴが配され、プレミアムな音響体験を提供します。
耳をふさがないオープン型でありながら低音の量感を確保し、映像コンテンツとの組み合わせで没入感のある体験を実現しています。また、瞳孔間距離調整機能、3段階(0%、35%、100%)に調整可能なレンズ透明度など、XREAL Oneシリーズに搭載されていた主要機能もすべて引き継いでいます。自動調光機能により、外部機器なしでモード切り替えやカスタム操作が行える点も利便性を高めています。
Nintendo Switch 2対応の「XREAL Neo」
同時に発表されたアクセサリー「XREAL Neo」は、ARグラス利用時のバッテリー消耗問題を解決するモバイルバッテリーです。価格は1万4,580円で、XREAL 1Sとのセット購入なら通常8万2,560円のところ、予約価格7万6,560円(6,000円割引)で購入できます。

XREAL Neoの主要機能:
容量: 10,000mAh / 38.7Wh
最大入力: 60W
最大出力: 40W
サイズ: 121×72×17mm(最薄部)
重量: 240g
XREAL NeoをスマホやPCに接続し、XREAL 1Sなどを数珠つなぎすることで、デバイス本体に給電しつつ映像を出力できます。内蔵磁石によりiPhoneなどの背面へ貼り付け可能で、同梱の専用シールを利用すれば他のデバイスにも吸着できます。
特筆すべきは、Nintendo Switchのドック機能を内蔵している点です。従来のアダプター「XREAL Hub」ではNintendo Switch 2のTVモード出力に対応できなかったのですが、XREAL Neoを介することで対応可能になる見込みです。Nintendo Switch 2は独自プロトコルでUSBポートから映像信号を出力しているため、DisplayPort Alt Mode対応のARグラスでは直接接続できない問題がありましたが、XREAL Neoがその橋渡し役を果たします。これにより、出先で高画質、高パフォーマンスなゲームを楽しめるようになります。
長距離移動中の使用も視野に入れて開発されており、航空機に持ち込んで使用できるよう各種承認を得ている点も、モバイルデバイスとしての実用性を高めています。
コンテンツエコシステムの拡充

XR Kaigiのブースでは、XREAL 1Sで楽しめる新たなコンテンツ体験も披露されました。初音ミクや花譜の3DMVなどを楽しめる「スパーシャルディスク」や、動くデジタルフィギュアを表示できる「ホロモデル」など、3D変換機能を活かしたコンテンツが体験可能です。
筆者が実際に体験しましたが、2Dから3Dへの変換は驚くほどスムーズで、これならユーザーに手間をかけさせることなく、手軽に3Dを実感できるでしょう。やはり、変換の際に専用のアプリケーションや別途デバイスを用いる必要が無いというのはそれだけでもかなり魅力的です。
一方で、細かいオブジェクトが画面いっぱいに詰め込まれている映像や、奥行きの手がかりが少ないシーンでは立体感が薄くなるなど、コンテンツとの相性による得意・不得意も存在します。今後のファームウェアアップデートによる改善が期待される領域です。
こうしたコンテンツエコシステムの拡充は、ハードウェアの普及とともにARグラス市場全体の成長を促進する重要な要素となります。
市場への影響と今後の展望
XREAL 1Sは、ARグラス市場において重要な意味を持つ製品です。エントリーモデルでありながら、世界初の2D→3D変換機能という革新的技術を搭載し、前世代よりも安価でありながらスペックを向上させています。この戦略は、AR体験の敷居を下げつつ、技術の進化を示すという二つの目的を同時に達成しています。
2026年に向けた「メインストリーム」戦略の中核製品として、XREAL 1SはARグラスの一般消費者への普及を加速させる可能性を秘めています。特に、既存の2Dコンテンツを3D化できる機能は、専用コンテンツの不足というARグラス普及における大きな障壁を克服する手段となり得ます。
また、XREAL Neoによるゲーム機との親和性向上や、航空機持ち込み対応などの実用面での配慮は、ARグラスがニッチなガジェットから日常的に使用されるデバイスへと進化する道筋を示しています。
日本市場を最優先で選んだXREALの判断も興味深いです。日本のコンテンツ産業の豊富さ、ガジェットに対する受容性の高さ、そしてモバイルゲーム市場の成熟度を考えれば、AR技術の実証市場として最適な選択と言えるでしょう。
XREAL 1Sの市場投入により、2026年はARグラスがより身近な存在となる転換点となる可能性があります。技術革新と価格戦略、そしてコンテンツエコシステムの三位一体の進化が、AR体験を日常に溶け込ませる未来を切り開くことになるでしょう。
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