Valentino、AI生成広告に批判殺到──ラグジュアリーブランドが直面する「本物らしさ」の試練

Valentino、AI生成広告に批判殺到──ラグジュアリーブランドが直面する「本物らしさ」の試練 - innovaTopia - (イノベトピア)

イタリアの高級ファッションブランドであるValentinoが、AI生成広告を巡って批判を受けている。

同ブランドは2025年12月2日、新作ハンドバッグ「DeVain」のプロモーションとして、デジタルアーティストとのコラボレーションによる「デジタルクリエイティブプロジェクト」を発表した。

Instagramに投稿されたAI生成広告は、モデルがValentinoのロゴやバッグと融合するシュールなコラージュ映像で、AI使用のラベルが付けられていた。しかし、この投稿には数百件のコメントが寄せられ、ファンからは「安っぽい」「怠惰」「不気味」といった批判が相次いだ。

Getty Imagesのクリエイティブ部門を統括するRebecca Swift博士は、消費者がAIコンテンツを人間の創作物より価値が低いと見なしていると指摘した。デジタルエージェンシーLoopのAnne-Liese Premは、ブランドがAIを視覚的アイデンティティに取り入れる際、効率性を芸術性より優先していると受け取られることが問題だと述べた。

H&MやGuessなど、他のファッションブランドも同様のAI使用で批判を受けている。

From: 文献リンクFashion house Valentino criticised over ‘disturbing’ AI handbag ads

【編集部解説】

今回のValentinoの騒動は、ラグジュアリーブランドとAI技術の関係性における重要な転換点を示しています。問題の本質は「AIを使ったこと」そのものではなく、ブランドが何を大切にし、消費者に何を約束するのかという根本的な価値観にあります。

ラグジュアリー市場では、製品の背後にある職人技、創造性、そして「人間の手による努力」が価格とブランド価値を正当化する要素となってきました。2025年3月に発表された研究では、高級ブランドがAI生成画像の使用を開示した場合、消費者は「努力が足りない」「本物ではない」と感じ、ブランドへの評価が下がることが明らかになっています。Valentinoのケースは、まさにこの理論を実証する形となりました。

一方で、ファッション業界全体ではAI活用が加速しています。ファッションブランドの20%が生成AIをデザインプロセスに組み込む計画を持っており、LVMHは過去1年間で約3億ユーロを5つの生成AI関連スタートアップに投資しています。こうした投資は主に生産性向上、デジタルマーケティング、グラフィック編集を目的としており、バックエンドでの効率化には有効です。

興味深いのは、2025年に入ってから「アンチAIブランディング」が新たなマーケティング戦略として台頭していることです。アパレルブランドAerieは10月に「AI不使用、レタッチなし」をうたったキャンペーンで、Instagram史上最高のエンゲージメントを記録し、ピーク時の28%増を達成しました。消費者は今、ブランドに対して透明性だけでなく、人間性そのものを求めているのです。

Valentinoが透明性を示すためにAI使用のラベルを付けたことは評価できますが、それだけでは不十分でした。デジタルエージェンシーLoopの文化インサイト責任者が指摘するように、問題は「技術そのものではなく、その技術が何を置き換えるかという認識」にあります。ラグジュアリーブランドがAIを活用する場合、人間の創造性を拡張する道具として位置づけ、クラフツマンシップを前面に押し出す戦略が求められるでしょう。

【用語解説】

生成AI(Generative AI)
テキスト、画像、動画などのコンテンツを自動生成する人工知能技術である。深層学習アルゴリズムを用いてデータのパターンを学習し、新しい創作物を生み出す能力を持つ。DALL-E、Midjourney、Stable Diffusionなどが代表的なツールとして知られる。

AIスロップ(AI Slop)
低品質で画一的なAI生成コンテンツを指す俗語である。大量生産されたような安っぽさや、人間の創意工夫が感じられない機械的な表現を批判する際に用いられる。

レイジベイト(Rage-baiting)
意図的に視聴者の怒りや反発を誘発することで、注目を集めエンゲージメントを高めるマーケティング手法である。炎上商法とも呼ばれる。

【参考リンク】

Valentino(ヴァレンティノ)公式サイト(外部)
1960年創業のイタリア高級ファッションブランド。クチュールからアクセサリーまで幅広く展開。

LOOP(ループ)(外部)
デジタルブランディングとコンテンツ制作を専門とするグローバルデジタルエージェンシー。

【参考記事】

The Luxury Dilemma: When AI-Generated Ads Miss the Mark(外部)
ラグジュアリーブランドがAI生成画像開示時に消費者評価が下がる研究結果を報告。

Algorithm or creativity? Fashion’s defining dilemma in the age of AI(外部)
LVMHの約3億ユーロのAI投資など、ファッション業界のAI導入動向を詳細に分析。

Why Anti-AI Branding Is Reshaping Fashion Marketing Strategies(外部)
Aerieがピーク時の28%増を達成したアンチAIブランディング戦略の成功事例を紹介。

Aerie Rejects AI in Ads, Vowing to Stay ‘100% Real’(外部)
Aerieが2025年10月に生成AIによる人物画像生成を永久に使用しない方針を発表。

【編集部後記】

あなたがふだん手に取るブランドの広告やビジュアルを見たとき、それが人の手によるものか、AIによるものか、意識したことはあるでしょうか。今回のValentinoの騒動は、技術の進歩と人間らしさのバランスについて、私たち自身が何を大切にしたいのかを問いかけているように感じます。

効率化が進む一方で、クリエイティブな現場で働く人々の声や、ものづくりの過程にある物語をどう評価するか。デザイナーとして、そしてひとりの消費者として、皆さんと一緒にこの問いを考え続けていきたいと思います。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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