11月27日、WSJの報道によると、Palmer Luckey設立の防衛テックAnduril Industriesは、自律型兵器システムのテストおよび実戦で複数の問題に直面している。5月のカリフォルニア沖での海軍演習では12隻以上のドローンボートが故障し、夏の地上テストでは無人戦闘機Furyが機械的問題でエンジンを損傷した。8月にはオレゴン州での対ドローンシステムAnvilのテストが22エーカーの火災を引き起こした。また、ウクライナのSBU保安庁の兵士は、徘徊型ドローンAltiusが墜落や標的への命中失敗を繰り返し、2024年に使用を中止したと報告されている。Andurilは6月に評価額305億ドルで25億ドルを調達済みであり、これらの課題は開発において典型的であると主張している。
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Anduril’s autonomous weapons stumble in tests and combat, WSJ reports
【編集部解説】
シリコンバレーの成功哲学である「Move Fast and Break Things(素早く行動し、破壊せよ)」が、物理的なリスクや人命に関わる防衛産業というフィールドで、文字通り「破壊」と「摩擦」を引き起こしている象徴的な事例と言えるでしょう。Anduril Industriesは、既存の軍産複合体(プライム・コントラクター)の鈍重な開発スピードに対抗し、ソフトウェア主導で兵器開発を加速させてきました。しかし、今回のWSJの報道は、その急進的なアプローチが現実の物理法則や複雑な戦場環境という高い壁に直面していることを浮き彫りにしています。
特に注目すべきは、ウクライナでの実戦における「Altius」ドローンの不調です。ウクライナの戦場は現在、世界で最も過酷な電子戦(EW)環境下にあります。テスト環境では完璧に動作するシステムでも、強力なジャミング(電波妨害)やGPSスプーフィングが飛び交う実戦では無力化されるケースが後を絶ちません。SBU(ウクライナ保安庁)が使用を中止したという事実は、カタログスペックと実戦での生存性の間に、まだ埋めがたいギャップが存在することを示唆しています。これはAndurilに限らず、多くの西側諸国のハイテク兵器が直面している「洗練されすぎた脆さ」という課題でもあります。
また、オレゴン州でのテスト中に発生した火災や、海軍演習でのドローンボートの不具合は、アジャイル開発のリスク側面を露呈しました。ソフトウェアのバグならアップデートで修正できますが、ハードウェアの制御不能は、今回の火災のように物理的な損害や、最悪の場合は友軍への誤射や事故につながりかねません。海軍の水兵たちが安全性を懸念したという点は、人と自律システムが協働する「マン・マシン・チーミング」における信頼構築がいかに難しいかという心理的なハードルも物語っています。
それでもなお、投資家たちが同社に305億ドル(約4.5兆円規模)という破格の評価額をつけている点には留意が必要です。これは、従来の防衛産業が抱える構造的な非効率さを打破できるのは、やはりAndurilのようなプレイヤーしかいないという市場の強い期待の裏返しでもあります。彼らは失敗を隠蔽せず、「開発プロセスの一部」として高速でPDCAを回すことで、最終的な製品精度を高めようとしています。この「失敗の許容度」を、ミスが許されない軍事領域でどこまで適用できるかが、今後の焦点となるでしょう。
長期的な視点では、今回のつまずきは自律型兵器が「実験フェーズ」から「実運用フェーズ」へと移行する際に必ず通らなければならない「死の谷」です。ここを乗り越えた時、Andurilの技術は単なる実験機ではなく、真に戦局を変えるゲームチェンジャーとして定着する可能性があります。これはテクノロジーが社会実装される際の「産みの苦しみ」を目撃している瞬間であり、決してネガティブな側面だけで語るべきではない事象なのです。
【参考情報】
ウクライナ保安庁(SBU)
ウクライナの情報・法執行機関。スパイ活動防止に加え、ドローンを用いた特殊作戦も実行。
電子戦(EW: Electronic Warfare)
電磁波を利用して敵の通信やレーダーを妨害、または防御する軍事活動。ジャミングなど。
GPSスプーフィング
偽のGPS信号を発信し、位置情報を誤認させる攻撃。ドローンを制御不能にする際などに使われる。
プライム・コントラクター(Prime Contractor)
政府や軍と直接契約を結ぶ主契約企業。伝統的に大規模・長期的な開発を担う大手企業を指す。
【参考リンク】
Anduril Industries(外部)
Palmer Luckey設立の防衛テック企業。AI自律システムや無人機開発で産業刷新を目指す。
Founders Fund(外部)
Peter Thiel率いるVC。Andurilの主要投資家であり、SpaceXなどへの投資で知られる。
【参考動画】
【参考記事】
Anduril responds to reports of failed Altius and Ghost-X tests(外部)
一連の報道に対し、Anduril側が失敗は開発の一部であり修正済みであると反論した内容。
Ukrainian Security Service SBU Halts Altius UAVs’ Operation(外部)
SBUがジャミング耐性の問題などで2024年にAnduril製ドローンの使用を中止した詳細報道。
【編集部後記】
「動き続け、破壊せよ」というシリコンバレーの哲学は、人命がかかる防衛領域でも通用するのでしょうか。今回のAndurilの苦戦は、デジタルの速度と物理的な現実との摩擦を象徴しているように感じます。しかし、失敗なくして革新がないのも事実です。私たちはこの「産みの苦しみ」をどう見守るべきか、そして自律型システムにどこまで命運を託せるのか。






























