SpaceXは12月3日、フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地の宇宙発射施設37に2基の発射台を建設する承認を取得したと発表した。これらの発射台はStarshipのような重量級ロケットの打ち上げに対応する。
SpaceXのStarshipは再使用可能な第1段ロケットSuper Heavyから1,600万ポンド以上の推力を生み出す。比較として、NASAのSpace Launch Systemは約880万ポンドの推力である。
新設される2基の発射台は、ケネディ宇宙センターの発射施設39-Aにある既存の発射台に加わる。完成後、新しい発射台は年間約76回のStarshipミッションと152回の着陸を受け入れ、ケネディ宇宙センターの発射台からは年間44回の追加打ち上げと88回の追加着陸が可能となる。
SpaceXは約2年間この承認を待っており、建設はすでに開始されている。規制当局への提出書類によると、年間120回の打ち上げと240回の着陸は数千便の民間航空便に遅延を引き起こす可能性があり、空軍は最終承認前に空域の懸念を再評価する。
From:
SpaceX Gets OK to Build 2 Starship Launch Pads at NASA’s Cape Canaveral – CNET
【編集部解説】
SpaceXのStarship発射能力がフロリダで大幅に拡大します。今回承認されたケープカナベラル宇宙軍基地のSpace Launch Complex 37(SLC-37)は、単なる新設発射台ではなく、アポロ計画時代から続く歴史的施設の劇的な再生です。
SLC-37は1959年に建設が開始され、1960年代にはSaturn IとSaturn IBロケットの打ち上げに使用されました。その後1972年に閉鎖され、30年間休眠状態にありましたが、2002年からはUnited Launch AllianceのDelta IVロケットの発射施設として22年間活躍しました。2024年4月にDelta IV Heavyの最終打ち上げが行われ、2025年6月にはブロックハウスが解体されるなど、SpaceXへの引き継ぎ準備が進められてきました。
今回の承認は2年近い環境影響評価の結果です。SpaceXは2024年2月から環境影響評価のプロセスに取り組んでおり、地域の動植物への影響、騒音、空域への影響などについて詳細な検証が行われてきました。特に絶滅危惧種である南東部ビーチマウス、フロリダスクラブジェイ、三色コウモリ、東部インディゴヘビなどの保護対策が盛り込まれています。
Starshipの推力は1,600万ポンド以上で、これはアポロ計画で使用されたSaturn Vロケットの約2倍、NASAの現行ロケットSpace Launch Systemの約1.8倍に相当します。33基のRaptorエンジンを搭載したSuper Heavyブースターは、史上最も強力なロケット第1段となります。
フロリダでの3基目の発射台となるSLC-37は、国家安全保障ミッションとNASAのArtemis計画の両方を支援します。Artemis計画では、SpaceXは2021年に3億ドルの契約でStarship HLS(Human Landing System)を開発しており、2026年以降のArtemis IIIミッションで宇宙飛行士を月面に送り届ける予定です。さらに2022年には1億ドルの追加契約でArtemis IV用の第2世代Starship HLSの開発も受注しています。
完成後、SLC-37だけで年間76回の打ち上げと152回の着陸が可能となり、ケネディ宇宙センターのLaunch Complex 39-Aからの年間44回の打ち上げと88回の着陸と合わせて、合計年間120回の打ち上げと240回の着陸という驚異的な運用規模を実現します。
ただし課題も残されています。年間120回の打ち上げと240回の着陸は、年間数千便の民間航空便に遅延を引き起こす可能性があり、空軍はStarshipの打ち上げに最終承認を与える前に、連邦航空局(FAA)による補足的な空域影響分析を待つ必要があります。Playalinda Beachや周辺コミュニティへの影響も懸念されており、年間推定60.5日間の一時的な空域閉鎖、海域閉鎖、ビーチ閉鎖が見込まれています。
SpaceXは「空港のような運用」を目指しており、これが実現すれば宇宙へのアクセスは根本的に変わります。完全再使用可能なStarshipの打ち上げコストは、Elon Muskの試算では1回あたり200万ドル程度まで下がる可能性があり、これはインフレ調整後で10億ドル以上だったSaturn Vと比較すると、500分の1以下のコストです。
フロリダからの初のStarship打ち上げは2026年中頃に予定されており、テキサス州のStarbaseで11回の試験飛行を経たStarshipが、いよいよ東海岸でも本格運用を開始することになります。人類の宇宙開発史における新たな章の始まりと言えるでしょう。
【用語解説】
Starship(スターシップ)
SpaceXが開発中の完全再使用可能な超大型宇宙船。Super Heavyブースター(第1段)とStarship宇宙船(第2段)の2段式で構成され、全高約120メートル。33基のRaptorエンジンにより1,600万ポンド以上の推力を発生させ、史上最も強力なロケットである。
Super Heavy(スーパーヘビー)
Starshipの第1段ブースター。33基のRaptorエンジンを搭載し、液体メタンと液体酸素を推進剤として使用する。完全再使用可能な設計で、発射後は発射台に戻って着陸する。
Artemis計画(アルテミス計画)
NASAが主導する有人月面探査計画。2020年代後半から2030年代にかけて、宇宙飛行士を月面に送り、持続可能な月面基地の建設を目指す。SpaceXのStarship HLSが月着陸船として選定されている。
Space Launch Complex 37(SLC-37)
ケープカナベラル宇宙軍基地にある発射施設。1959年に建設され、1960年代にはSaturn IとSaturn IBロケットの打ち上げに使用された。2002年から2024年まではDelta IVロケットの発射施設として運用され、現在SpaceXが再開発を進めている。
Space Launch System(SLS)
NASAが開発した使い捨て型の大型ロケット。Artemis計画でOrion宇宙船を月軌道に運ぶために使用される。約880万ポンドの推力を持つが、Starshipの半分程度である。
Saturn V(サターンV)
1960年代から1970年代初頭にかけて使用されたNASAの大型ロケット。アポロ計画で宇宙飛行士を月に送った。全高111メートル、推力750万ポンドで、当時史上最大のロケットだった。
Raptor エンジン
SpaceXが開発した液体メタンと液体酸素を燃料とするロケットエンジン。フルフロー段階燃焼サイクルを採用し、1基あたり約50万ポンドの推力を発生する。再使用可能な設計が特徴。
【参考リンク】
SpaceX(外部)
イーロン・マスクが創業した民間宇宙開発企業。再使用可能なロケットを開発し、商業宇宙輸送の革新を主導。
NASA Artemis Program(外部)
NASAの月探査計画の公式サイト。Artemis計画の最新情報、ミッション詳細を提供している。
NASA Human Landing System(外部)
Artemis計画で使用される月着陸船に関する詳細情報。SpaceXの開発状況や技術仕様を掲載。
Kennedy Space Center(外部)
NASAの主要な打ち上げ施設。アポロ計画から現在のArtemis計画まで歴史的な打ち上げを実施。
Cape Canaveral Space Force Station(外部)
米国宇宙軍が管理する打ち上げ施設。複数の発射台を有し、軍事・民間両方のミッションを支援。
【参考記事】
Air Force clears SpaceX to build Starship launch pad at Cape Canaveral Space Force Station(外部)
米国空軍がSpaceXに対してSLC-37でのStarship発射台建設を承認した経緯と詳細を報道。
SpaceX wins approval to redevelop historic pad for Starship flights from Florida coast(外部)
2025年11月20日付けの正式決定により、歴史的発射施設の再開発が可能になった。
SpaceX can launch its Starship megarocket from Florida pad, Air Force says(外部)
空軍の承認により、SpaceXは歴史的なSLC-37をStarship打ち上げ施設として開発可能に。
Cape Canaveral Space Launch Complex 37 – Wikipedia(外部)
SLC-37の詳細な歴史。1959年の建設開始からSpaceXによる再開発に至るまでの経緯を網羅。
Starship vs. Saturn V: What’s the Difference?(外部)
StarshipとSaturn Vの技術比較。推力や全高など具体的な数値で両ロケットを比較している。
NASA, SpaceX Illustrate Key Moments of Artemis Lunar Lander Mission(外部)
Artemis計画におけるStarship HLSの役割を詳説。月軌道での運用計画の概要を提供。
From Delta to Starship, SpaceX’s ambitious plan for SLC-37’s future(外部)
SLC-37の環境影響評価書の詳細。2つの発射台建設と既存施設解体の計画が明らかに。
【編集部後記】
年間120回の打ち上げという数字は、私たちが考える「宇宙開発」のイメージを根本から変えるものかもしれません。かつて月へ向かったSaturn Vの1回の打ち上げに10億ドル以上かかっていた時代から、わずか200万ドルで打ち上げられる未来へ。SpaceXが目指す「空港のような運用」は、宇宙が特別な場所ではなく、日常的にアクセスできる場所になることを意味します。一方で、年間数千便の航空便への影響や地域環境への懸念も現実です。技術革新のスピードと、それを受け入れる社会や環境のバランスについて、私たちはどう考えていくべきでしょうか。みなさんは、この変化をどのように捉えますか。






























