報徳HubとJパートナーズが連携、JA向け生成AIで業務DXを全国展開へ

報徳HubとJパートナーズが連携、JA向け生成AIで業務DXを全国展開へ - innovaTopia - (イノベトピア)

深刻な人手不足と高齢化に直面する日本の農業に、DXの本格的な波が訪れました。現場の知恵と最新技術を掛け合わせ、「相互扶助」の思想で課題に挑む新たな挑戦が始まっています。


イマジエイト株式会社と株式会社日本農業新聞は、JA向け生成AIプラットフォーム「報徳Hub」に関するリセールパートナー契約を2025年12月5日に発表した。

イマジエイトの代表取締役CEOは津田幸佑、日本農業新聞の代表取締役社長は田宮和史郎である。報徳HubはJAグループ向けに開発された生成AIプラットフォームで、議事録作成、渉外支援、組合員との会話ネタ提案、財務諸表分析、画像生成、RAGといった機能を搭載する。

日本農業新聞は報徳HubのJA向け契約窓口を担当し、イマジエイトは開発・運用および報徳コミュニティの運営を担う。

From: 文献リンク日本農業新聞とイマジエイト、JA向け生成AIプラットフォーム「報徳Hub」リセールパートナー契約を締結

 - innovaTopia - (イノベトピア)
イマジエイト株式会社PRTIMESより引用

【編集部解説】

今回の提携発表は、日本農業界における生成AI活用の潮流が「試行期」から「本格導入期」へ移行するサインと捉えています。

日本農業新聞が既に展開してきた「日農AI金次郎」は、JA職員が生成AIに初めて触れるための入口として機能してきました。しかしイマジエイトの月田COOが指摘するように、生成AIの真価は「ツールを配るだけ」では引き出せません。現場の課題を深く理解し、業務プロセスそのものを再設計しながらAIを組み込んでいく伴走型の支援が不可欠です。

報徳Hubの特徴は、単なるChatGPT利用環境ではなく、議事録作成や渉外支援といった「JA特有の業務」に最適化されたアプリ群を搭載している点にあります。さらに注目すべきは、RAG(拡張検索生成)機能の標準搭載です。RAGは、生成AIが外部データベースから関連情報を検索し、その内容に基づいて回答を生成する仕組みで、社内規程や事務手続書といったJA固有の知識を正確に参照できるようになります。

また、報徳コミュニティという毎月の意見交換の場が設けられている点も重要です。各JAが成功事例や失敗体験を持ち寄り、新しいアプリ開発のアイデアを共有する。まさに二宮尊徳の「報徳思想」が説く相互扶助の精神が、デジタル時代に再解釈されています。

JA業界は、基幹的農業従事者の平均年齢が2024年に69.2歳に達するなど、深刻な高齢化と人手不足に直面しています。生成AIによる業務効率化は、限られた人的リソースをより付加価値の高い業務へ振り向ける手段として期待されています。一方で、個人情報や財務データを扱うJAにとって、セキュリティ確保は最優先課題です。報徳Hubが「各JAごとに分離されたセキュアな環境」を提供していることは、この懸念に応える設計といえます。

今後の課題は、生成AIが出力した情報の正確性を現場職員がどう検証するか、そしてAI活用によって余剰となった時間を組合員との対話や営農支援といった「人にしかできない業務」へどう再配分するかでしょう。技術導入だけで終わらず、組織文化そのものを変革できるかどうかが、このプラットフォームの成否を分けることになります。

【用語解説】

RAG(拡張検索生成)
Retrieval-Augmented Generationの略。生成AIが外部DBから情報を検索し、その内容を基に回答を生成する技術。組織固有の情報を正確に参照可能です。

報徳思想
二宮尊徳が提唱した思想。努力や貢献の成果を皆で分かち合う相互扶助の精神を説き、協同組合運動の思想的基盤の一つとされます。

Jパートナーズ
日本農業新聞が提供するJA役職員向け会員制支援サービス。「日農AI金次郎」や各種研修を通じ、JA職員のDX推進を支援します。

DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル技術を活用して業務や組織文化を変革し、競争優位性を確立する取り組み。JAでは人手不足対策として喫緊の課題です。

【参考リンク】

報徳Hub 公式サイト(外部)
JA向け生成AIプラットフォームの公式ページ。サービス概要や機能、参加JAの事例、コミュニティ活動内容を掲載。

イマジエイト株式会社(外部)
報徳Hubを開発・運営する企業。生成AIプラットフォーム開発やAI人材育成研修、業務改善コンサルティングを手がける。

日本農業新聞(外部)
1928年創業の農業専門紙。全国JAとのネットワークを活かし、JA向けDX支援サービス「Jパートナーズ」を展開する。

日本農業新聞 UIshare(Jパートナーズ)(外部)
JA役職員向けオンライン学習プラットフォーム。生成AI「日農AI金次郎」の利用や各種研修コンテンツへのアクセスが可能。

【参考記事】

担い手の育成・確保と多様な農業者による農業生産活動(外部)
農林水産省の最新白書。基幹的農業従事者の平均年齢が2024年に69.2歳となったことが記載されている。

JAグループ向け生成AIプラットフォーム「報徳Hub」リリース(外部)
報徳Hub初期リリース時の記事。JA横浜との開発経緯、報徳コミュニティの仕組み、思想的背景を詳述している。

日本農業のDXの現状と課題:生成AI活用と現場経験から見る(外部)
JA現場におけるDX推進の課題を分析。人手不足等の構造的問題と、生成AIによる解決の可能性を論じている。

RAG(検索拡張生成)とは?仕組みや活用例、メリットを解説(外部)
RAG技術の仕組みと企業での活用事例を解説。外部DB参照でAI回答精度が向上し誤情報リスクが低減する点を指摘。

日本農業新聞 JA役職員の支援サービス「Jパートナーズ」を稼働(外部)
Jパートナーズ開始時のプレスリリース。生成AI「日農AI金次郎」の提供と、JA職員向けオンライン研修について説明。

【編集部後記】

生成AIやDXという言葉だけが先行しがちな中で、報徳Hubのように「現場から一緒につくる」取り組みが広がり始めています。

もしあなたの身近な組織や仕事で同じことができるとしたら、どんな業務をどの順番で変えてみたいでしょうか。
「ここが不便なんだよな」と感じている小さなひっかかりを、いつか一緒にテクノロジーで解きほぐしていけたらうれしいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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