韓国のKorea Institute of Science and Technology(KIST/韓国科学技術研究院)Functional Composite Materials Research Center(機能性複合材料研究センター)のDae-Yoon Kim博士らは、タコの擬態と運動から着想を得たソフトロボット「OCTOID」を開発した。
OCTOIDはフォトニッククリスタルポリマーを中核材料とし、電気刺激に応答して微細構造が伸縮することで青・緑・赤へと構造色が連続的に変化しながら、曲げ伸ばし動作と物体の把持を行うことができる。
分子のらせん配列(コレステリック構造)とポリマーネットワーク構造の制御により、柔軟な運動と色変化を単一システム内で統合した結果、迷彩・移動・把持の三機能を同時に実現した。
研究は韓国のMinistry of Science and ICT(科学技術情報通信部)による支援を受け、国際学術誌Advanced Functional Materialsに2025年10月15日に掲載された。
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Development of ‘OCTOID,’ a soft robot that changes color and moves like an octopus
【編集部解説】
タコは、捕食者から身を隠したり獲物を捕らえたりする際、皮膚の色や質感を瞬時に変化させることで知られています。 その能力は長く「自然がつくった究極の変形ロボット」としてロボティクスの世界で語られてきましたが、OCTOIDはまさにこの比喩を材料レベルから現実に近づけようとする試みだと言えます。
今回の研究で特徴的なのは、「よく曲がる材料」と「色が変わる材料」を別々に組み合わせるのではなく、フォトニッククリスタルポリマーという一つの素材が光学機能とアクチュエーションを同時に担っている点です。 電気刺激ひとつで微細構造が収縮・膨張し、青から緑、赤へと構造色が変化しながら、同じ材料が腕のように曲がり物体をつかみます。 ハードウェアの部品を寄せ集めるのではなく、「賢い素材」に機能を埋め込んでいく方向性は、ソフトロボティクスの設計パラダイムを大きく変える可能性があります。
応用のイメージとして研究チームが挙げているのは、深海探査ロボットや海洋生態モニタリング機器、リハビリや医療向けの触覚支援ロボット、防衛分野のカモフラージュシステムなどです。 色と動きが一体になっていることで、たとえば海底で環境に溶け込みながらデータを取得するロボットや、患者の皮膚状態を色の変化としてフィードバックするリハビリデバイスなど、人間と環境の両方に「優しく接続する」インターフェースとしての未来像が見えてきます。
一方で、環境に同化して視認しづらいロボットが一般化したとき、監視や軍事利用の文脈では強力なツールにもなり得ます。 どこまで透明性を確保するか、どの用途を社会的に許容し、どこから規制やガイドラインが必要なのかといった議論は、こうした「カモフラージュ×AI×ロボティクス」が実用段階に近づくほど重みを増していくはずです。
【用語解説】
フォトニッククリスタルポリマー
光の波長と同程度の周期構造を持ち、特定の波長の光を選択的に反射する高分子材料の総称である。構造色や光学フィルタ、センサーなどへの応用が進んでいる。
コレステリック液晶エラストマー(CLCEs)
らせん状の配列を持つ液晶とゴム状ポリマーが組み合わさった材料で、外部刺激によるらせんピッチの変化に応じて反射波長が変化する。可逆的な構造色と柔軟な変形を両立できる。
バイオミメティックソフトロボティクス
生物の構造や機能を模倣した柔軟ロボットを研究・設計する分野であり、タコやクラゲ、昆虫などが主なインスピレーション源となる。適応性や安全性の高いロボット実現を目指す。
Advanced Functional Materials
Wileyが刊行する材料科学分野の国際学術誌であり、機能性材料やデバイスに関する研究論文を扱う。OCTOIDの研究成果もここに掲載されている。
【参考リンク】
Korea Institute of Science and Technology(KIST)(外部)
韓国初の政府系研究機関で、材料、ロボティクス、AIなど多様な先端研究を行う総合研究所である。
Advanced Functional Materials(Wiley)(外部)
機能性材料とデバイスに関する査読論文を掲載する国際誌で、OCTOID論文もここに収録されている。
OCTOID研究論文ページ(外部)
OCTOIDの材料設計、構造色発現メカニズム、アクチュエーション特性など詳細な実験結果が公開されている。
【参考動画】
【参考記事】
‘OCTOID,’ a soft robot that changes color and moves like an octopus(外部)
KISTのOCTOIDが電気刺激で青・緑・赤に構造色を変えつつ、同じ材料で曲げ動作と把持を行う統合システムである点を詳述している。
The Octopus-Inspired OCTOID Is a Soft Robot That Can Move, Grab, and Even Change Color(外部)
フォトニッククリスタルポリマーのらせん構造制御や、カモフラージュ・移動・把持を単一プラットフォームで実現する設計思想、将来の応用可能性を解説している。
KIST team develops octopus‑inspired soft robot that changes color and moves like an octopus(外部)
OCTOIDの三機能と電気信号による表面の微視的収縮・膨張で色が変わるプロセスを整理し、深海ロボットや軍事カモフラージュなど応用シナリオを紹介している。
Shape-shifting octopus-inspired robot to camouflage, move and grasp objects(外部)
コレステリック液晶エラストマーを用いて色変化と形状変化を両立させる仕組みと、動的カモフラージュや自律マニピュレーションへの応用ポテンシャルを解説している。
New octopus-inspired robot can move, hide, and lift 30x its weight(外部)
OCTOIDのカモフラージュ能力と把持性能に加え、自重の約30倍の物体を持ち上げられるという性能指標に言及し、既存ソフトロボットとの差異を紹介している。
【編集部後記】
タコのように「色を変え、形を変え、そっと近づいて触れる」ロボットが身近になっていく世界を、みなさんはどう感じるでしょうか。もしOCTOIDのようなソフトロボットが自分の生活圏にやってくるとしたら、医療や介護、海や宇宙の探査、エンタメ、軍事など、どんな場面で必要となるのか、あるいはどこにいてほしくないか――いずれやってくるかもしれない未来の期待と不安について、ぜひSNSでみなさんの考えをお聞かせください。






























