宇宙への旅は、ロケットだけの物語ではなくなりつつあります。
ispaceとJALグループが組むことで、「月への定期便」という未来が、いよいよ現実的な選択肢として立ち上がろうとしています。
株式会社ispace、日本航空株式会社、株式会社JALエンジニアリング、株式会社JALUXの4社は、2025年11月28日に月面輸送・運航分野での協業に向けた基本合意書を締結した。
今回新たにJALグループの商社であるJALUXが加わり、4社体制で地球と月を結ぶ新たな経済圏「シスルナ経済圏」の構築に向け検討を加速させる。ispaceのランダーやその関連設備に対し、JALとJALECが航空分野で培った整備技術や航空管制、運航管理などの知見を活用し、将来の月面生活圏および輸送機の高頻度な離着陸を支えるシステム・基盤構築の共創を進める。
JALUXの加入を機に、JALグループの一般顧客向け宇宙関連サービスに関する協業も検討するほか、ispaceの月面輸送サービスにおいてペイロード搭載枠の販売連携を検討する。
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ispaceとJALグループ、地球と月を結ぶ新たな経済圏の構築を見据え、 月面輸送・運航分野での協業検討に関する基本合意書を締結

【編集部解説】
この協業が持つ意味を理解するには、「シスルナ経済圏」という概念を知る必要があります。これは地球から月の軌道までの約40万キロメートルの領域を指し、将来的に宇宙資源採掘、製造拠点、居住施設などが展開される新たな経済圏として注目されています。
今回の提携で特に注目すべきは、JALグループが単なる輸送パートナーではなく、月面における「運航管理」システムの構築に踏み込んだ点です。航空業界では当たり前の整備スケジュール管理、運航管制、安全基準といった概念を、月面輸送にも適用しようとしています。これは月への往来が「特別なイベント」から「定期運航」へと移行する兆しを示しています。
ispaceは2025年1月15日にミッション2の打ち上げを完了しており、2027年にはミッション3、2028年にはミッション4を予定しています。この打ち上げ頻度の増加こそが、JALの運航管理ノウハウを必要とする理由です。高頻度な月面輸送が実現すれば、研究機関だけでなく民間企業や一般顧客も月面へのアクセスが可能になります。
商社のJALUXが加わったことで、ペイロード(荷物)搭載枠の販売という新たなビジネスモデルが動き出します。これは月面輸送が投資対象や事業機会として認識され始めたことを意味し、宇宙ビジネスの民主化が一歩前進したといえるでしょう。
ただし、月面での高頻度運航にはリスクも伴います。地球の航空管制とは異なり、通信遅延や放射線環境、極端な温度変化といった課題があり、これらに対応した新たな安全基準の確立が求められます。
【用語解説】
シスルナ経済圏
地球から月の軌道までの約40万キロメートルの領域を指す概念である。この空間において、資源採掘、製造、居住、輸送などの経済活動が展開されることを想定した新たな経済圏を指す。
ランダー
月着陸船のことを指す。ispaceが開発する小型の月面着陸機で、地球から月面へペイロード(荷物)を輸送する役割を担う。
ペイロード
宇宙輸送における「荷物」を意味する用語である。科学機器、探査ローバー、実験装置など、月面に運ぶ様々な物資を指す。
HAKUTO-R
ispaceが展開する日本初の民間月面探査プログラムの名称である。複数のミッションを通じて、月面輸送技術の検証と事業モデルの確立を目指している。
【参考リンク】
株式会社ispace 公式サイト(外部)
月面資源開発に取り組む日本の宇宙スタートアップ企業。約300名が活動し、民間月面輸送サービスの実現を目指す。
日本航空株式会社(JAL)公式サイト(外部)
1951年設立の日本を代表する航空会社。70年の航空輸送経験を宇宙輸送に展開する。
株式会社JALエンジニアリング 公式サイト(外部)
2009年設立のJALグループの整備会社。約200機の航空機整備を担当し、HAKUTO-Rの技術支援を実施。
株式会社JALUX 公式サイト(外部)
JALグループの総合商社。航空・空港事業を中心に、今回の協業でペイロード搭載枠の販路拡大を担う。
【参考記事】
What is Cislunar Space and its Implications for the Space Economy?(外部)
シスルナ空間の定義と宇宙経済における重要性を解説。地球から月までの領域が経済活動の舞台になる可能性を論じる。
JAL and ispace team up on future lunar transport systems(外部)
JALとispaceの協業について英語メディアが報道。4社体制での月面輸送・運航システム構築について詳述。
ispace and JAL Group Sign Collaboration Agreement for Lunar Transportation(外部)
JALの公式英語プレスリリース。基本合意書の締結内容、協業の範囲、ペイロード搭載枠の販売連携を公表。
ispace、ミッション2に関するご報告(外部)
ispaceのミッション2に関する公式発表。2025年1月15日の打ち上げ完了と月周回軌道における技術検証を報告。
【編集部後記】
月への輸送が「定期便」になる時代が、思ったより早く訪れるかもしれません。JALの運航管理ノウハウが月面に適用されるということは、私たちが飛行機のチケットを予約するように、月面輸送枠を予約する日が来るということです。
もし皆さんが月に何かを送れるとしたら、何を選びますか? それとも、月面からのデータやサービスで、どんな新しい体験が生まれると思いますか? シスルナ経済圏という言葉に、ぜひ注目してみてください。






























