Meta、VR戦略を大転換──超軽量ヘッドセット「Quest Air」延期と「Quest 4」でユニットエコノミクス改善目指す

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Metaは超軽量VRヘッドセットの発売を2027年上半期まで延期し、ゲーム特化型Quest 4の開発を開始した。流出した社内メモによると、テザード式コンピュートパックを備えた超軽量ヘッドセットは仮想スクリーンなど着座利用を想定しており、「Quest Air」という名称が検討されている。

一方、Quest 4はQuest 3から大幅にアップグレードされ、没入型ゲームに焦点を当てる。注目すべきは、unit economics(ユニットエコノミクス)を大幅改善する方針で、これまでの低価格デバイスへの補助金戦略を終わらせることを示唆している。MetaはReality Labsを利益部門へ転換させる計画であり、Quest 4はその重要な一環となる。超軽量ヘッドセットは2027年上半期、Quest 4はおそらく2028年頃の発売が見込まれる。

From: 文献リンクMeta Delays Ultralight Headset & Starts Work On Gaming-Focused Quest 4

【編集部解説】

今回の戦略転換は、Metaのハードウェア事業における大きな方針変更を示しています。特に注目すべきは、これまで低価格戦略で市場シェアを獲得してきたQuestシリーズが、補助金なしの価格設定へと移行する点です。Reality Labsは累計で730億ドル以上の損失を計上しており、CEOのMark Zuckerbergは同部門の支出を最大30%削減するよう指示を出しています。

テザード式コンピュートパックという設計は、ヘッドセット本体を軽量化しつつ高性能を維持する技術的アプローチです。処理能力の高いコンピューターをケーブルで接続することで、バッテリーやプロセッサーの重量から解放され、長時間の装着が可能になります。これはApple Vision Proが採用した外付けバッテリー方式とは異なるアプローチであり、仮想デスクトップや生産性向上用途に最適化されています。

Quest 4の開発着手は、2026年向けに計画されていたQuest 4とQuest 4Sがキャンセルされてから約6か月後の決定です。新しいQuest 4は「大幅なアップグレード」を掲げており、より高性能なプロセッサーとAI機能の搭載が予想されています。ただし、補助金なしの価格設定となるため、従来モデルよりも高価格帯になる可能性が高く、市場の受容性が課題となるでしょう。

この延期により、VR市場における競合他社が地位を固める時間的余裕が生まれる一方、Metaにとっては製品の完成度を高める機会にもなります。Reality Labsの2025年第3四半期のVR収益は前年比74%増の4.7億ドルに達しており、ハードウェア需要自体は堅調です。しかし、長期的な収益性確保のためには、ハイエンド市場へのシフトが不可欠と判断されたと考えられます。

【用語解説】

Meta Reality Labs
Metaが運営するVR・AR技術の研究開発部門。旧Oculus VRを中核とし、Questシリーズの開発やメタバース技術の研究を担当している。累計730億ドル以上の損失を計上しているが、次世代コンピューティングプラットフォーム構築を目指している。

Horizon OS
Meta Questシリーズに搭載されるAndroidベースの拡張現実OS。2024年4月にMeta Horizon OSとして正式にブランド化され、サードパーティー製ヘッドセットメーカーにも開放された。3Dユーザーインターフェースやハンドトラッキング機能を備える。

テザード式コンピュートパック
ケーブルで接続する外付けコンピューターユニット。高性能プロセッサーやバッテリーを本体から分離することで、ヘッドセットの軽量化と長時間使用を両立させる設計手法である。

unit economics(ユニットエコノミクス)
製品1台あたりの採算性を示す指標。Metaはこれまで低価格戦略で市場シェアを獲得してきたが、Quest 4では補助金なしの価格設定により、1台あたりの利益率を大幅に改善する方針に転換した。

Puffin/Phoenix/Loma
超軽量ヘッドセットの開発コードネーム。複数の候補プロジェクトが並行して進められており、最終的にどのコードネームの製品が製品化されるかは流動的な状況にある。

【参考リンク】

Meta Reality Labs公式サイト(外部)
MetaのVR・AR研究開発部門の公式サイト。最新の研究成果、技術開発の取り組み、ディスプレイ技術の進化などについて詳しく紹介されている。

Meta Quest公式サイト(外部)
Meta Questシリーズの製品情報、アプリ・ゲームストア、アクセサリー販売などを提供する公式サイト。Quest 3SやQuest 3の最新情報が掲載されている。

【参考記事】

Meta Delays Ultralight Headset, Starts Work On Gaming-Focused Quest 4 – UploadVR(外部)
流出した社内メモにより、Metaが超軽量ヘッドセットを2027年上半期まで延期し、ゲーム特化型Quest 4の開発を開始したことが判明。Reality Labs VP Maher Sabaらの内部文書が明らかになった。

Meta reportedly delays mixed reality glasses until 2027 – TechCrunch(外部)
Business Insiderが最初に報じたMetaの超軽量ヘッドセット延期について、TechCrunchが追加取材。製品の完成度向上とコアUXの大幅変更が延期の理由と報じている。

Meta delays ‘Phoenix’ mixed reality glasses release – Mashable(外部)
コードネームPhoenixと呼ばれる超軽量ヘッドセットの延期について、Mashableが解説。2026年に予定されていた限定版ウェアラブルデバイスMalibu 2についても言及している。

Meta Platforms Has Lost $73 Billion on Reality labs – Yahoo Finance(外部)
Reality Labsの累計損失が730億ドルを超えたこと、Mark ZuckerbergがVR部門の支出を最大30%削減するよう指示したことを報道。収益性重視への戦略転換の背景を解説している。

Meta Quest 4 Delayed to 2027 as Company Pivots to Ultra – BigGo(外部)
2026年向けに計画されていたQuest 4とQuest 4Sがキャンセルされた経緯と、新たなQuest 4開発開始までの6か月間の戦略変更について詳細に報じている。

【編集部後記】

Metaがハードウェア戦略を大きく転換する決断を下した背景には、730億ドルという巨額の累積損失があります。補助金による低価格戦略から収益性重視へのシフトは、VR市場の成熟を示すサインなのでしょうか。それとも、まだ普及期にある現在のタイミングでの価格引き上げは、せっかく築いた市場シェアを競合に奪われるリスクを伴うのではないでしょうか。テザード式の超軽量ヘッドセットが仮想デスクワークという新市場を開拓できるのか、Quest 4がゲーマー層に高価格でも受け入れられるのか、2027年以降のVR業界の動向から目が離せません。

投稿者アバター
乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。 デジタルエンターテインメントの未来形がいかに人間の認知と感情に働きかけるかを分析し、テクノロジーが創造する新しい未来の可能性を追求しています。

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