香り選びに、AIという新しい「相棒」を迎えるとしたらどう感じるでしょうか。
Jo Malone LondonとEstée Lauderが始めたのは、言葉だけで「私の香り」に導く、会話型フレグランス体験です。
The Estée Lauder Companies Inc.とJo Malone Londonは2025年12月2日、AI搭載のJo Malone London Scent Advisorを発表した。
このツールは顧客が自分の言葉で希望する香りを説明すると、会話形式でフレグランスを提案するデジタル体験である。JoMalone.comで米国と英国向けに提供を開始した。
システムはGoogleのGeminiとGoogle CloudのVertex AIプラットフォームを活用し、自然言語を解釈してJo Malone Londonの嗅覚データ属性にマッピングすることで、パーソナライズされた香水の推奨を生成する。
The Estée Lauder CompaniesのAIおよびイノベーションチームが構築し、Google CloudのAI機能と組み合わせた。この発表は、同社が前月にパリでFragrance Atelierを開設した直後に行われた。
Jo Malone Londonは1994年設立で、1999年にThe Estée Lauder Companies Inc.が買収している。
From:
The Estée Lauder Companies and Jo Malone London Introduce AI-Powered Scent Advisor Experience
【編集部解説】
オンラインで香水を選ぶ難しさは、誰もが一度は感じたことがあるのではないでしょうか。店頭なら試香紙で確かめられますが、デジタル空間では嗅覚という最も重要な感覚が欠けています。Jo Malone LondonのAI Scent Advisorは、この根本的な課題に対する興味深いアプローチです。
技術的な核心は、GoogleのGeminiとVertex AIプラットフォームの組み合わせにあります。ユーザーが「爽やかで朝に似合う香り」「温かみのあるウッディ系」といった自然な言葉で希望を伝えると、システムがそれをJo Malone Londonの嗅覚データベースの属性にマッピングします。単なるキーワード検索ではなく、言葉のニュアンスから香りの特性を推論する点が革新的といえるでしょう。
この取り組みは、Estée Lauder Companiesにとって戦略的な意味を持ちます。同社はパリでFragrance Atelierを開設しており、フレグランス分野を成長ドライバーと位置づけています。AIによる個別化は、デジタルチャネルが重要性を増す高級美容市場において、ブランドの差別化要素となりつつあります。
ポジティブな側面として、初めて香水を購入する人や、ギフト選びに迷う人にとって心理的なハードルが下がります。会話形式のインターフェースは、店舗スタッフとの相談に似た安心感を提供するでしょう。同時に、企業側は顧客の嗜好データを詳細に収集でき、商品開発やマーケティングに活かせます。
一方で、AIが香りという極めて主観的で感情的な体験をどこまで代替できるのかは、長期的に検証が必要です。また、嗜好データの収集と活用については、プライバシー保護の観点から透明性のある運用が求められます。
このツールは米国と英国で先行展開されており、今後の市場反応が他地域への展開や、競合他社の類似サービス開発に影響を与える可能性があります。美容業界全体で、AIを活用した個別化体験が新たなスタンダードになりつつある流れを象徴する事例といえるでしょう。
【用語解説】
Vertex AI
Google Cloudが提供する機械学習プラットフォームである。企業が独自のAIモデルを構築、デプロイ、管理するための統合環境を提供し、データの前処理からモデルのトレーニング、本番環境への展開まで一貫して行える。
Gemini
Googleが開発した大規模言語モデル(LLM)である。テキスト、画像、音声など多様なデータを理解し、自然な対話や複雑なタスクの実行が可能。企業向けのVertex AIプラットフォームを通じて提供されている。
嗅覚データ属性(Olfactory Data Attributes)
香りの特性を数値化・カテゴリ化したデータである。フローラル、ウッディ、シトラスといった香調や、強度、持続性などの要素を体系的に整理し、AIが香りの推奨を行う際の基準として活用される。
自然言語処理(Natural Language Processing)
人間が日常的に使う言葉をコンピュータが理解し、処理する技術である。今回のScent Advisorでは、ユーザーが自由に入力した香りの好みの説明を解釈し、適切な製品を提案するために使用されている。
【参考リンク】
Jo Malone London AI Scent Advisor(外部)
Jo Malone LondonのAI搭載フレグランスアドバイザーの公式ページ。会話形式で希望する香りを伝えると、パーソナライズされた香水の推奨を受けられる。
Jo Malone London 公式サイト(外部)
1994年創業の英国の高級フレグランスブランド。1999年にEstée Lauder Companiesが買収。シンプルで洗練された香りとレイヤリング文化で知られる。
The Estée Lauder Companies(外部)
世界有数の化粧品メーカーで、Estée Lauder、Clinique、M·A·C、La Mer、TOM FORDなど約30のブランドを擁する。約150の国と地域で製品を販売。
Google Cloud(外部)
Googleが提供するクラウドコンピューティングサービス。AI/機械学習プラットフォームのVertex AIや、大規模言語モデルのGeminiなど、先進的な技術基盤を企業向けに提供。
【参考記事】
Jo Malone London unveils AI fragrance advisor to power personalization(外部)
Jo Malone LondonがAI搭載のフレグランスアドバイザーを発表したことを報じる記事。Google CloudのVertex AIとGeminiを活用した仕組みを解説。
Jo Malone London taps Google Cloud tech for AI powered Scent Advisor(外部)
小売技術の観点から、Jo Malone LondonのAI Scent Advisorの導入を分析。オンラインでの香水購入における感覚的障壁を技術でどう克服するかに焦点。
Estee Lauder Leverages AI Scent Advisor to Drive Digital Personalization(外部)
Estée Lauder CompaniesのAI戦略とフレグランス分野への注力を投資家視点で解説。パリのFragrance Atelier開設との関連性を分析。
Jo Malone London debuts AI-power scent advisor to foster personalized fragrance discovery(外部)
プレミアム美容業界専門メディアによる報道。AIアドバイザーがブランドの店舗体験をデジタル空間でどう再現するかに注目。
Inside Estée Lauder Companies’ AI-powered fragrance innovation hub(外部)
Estée Lauder Companiesがパリに開設したFragrance Atelierについて詳述。AI技術を活用した香水開発の最前線と戦略的成長分野としての位置づけを報じる。
【編集部後記】
香りは記憶や感情と深く結びついているからこそ、オンラインで「自分の香り」を見つけるのは難しいですよね。AIが会話を通じて嗜好を理解し、香りを提案する、このアプローチは、デジタルと感覚体験の新しい接点かもしれません。
みなさんは、AIに自分の好みを言葉で伝えることに抵抗はありますか?それとも、むしろ店頭で説明するよりも気軽に感じるでしょうか。テクノロジーが「五感」の領域にどこまで踏み込めるのか、ぜひ一緒に見守っていきましょう。






























