宇宙で初のLLM訓練に成功 – Starcloud、Nvidia H100搭載衛星で軌道上データセンター時代の幕開け

宇宙で初のAI訓練に成功──Starcloud、Nvidia H100搭載衛星で軌道上データセンター時代の幕開け - innovaTopia - (イノベトピア)

Nvidia支援のスタートアップStarcloudが、2025年11月2日にNvidia H100 GPUを搭載したStarcloud-1衛星をSpaceXロケットで打ち上げ、宇宙で初めてLLMの訓練に成功した。このGPUは、これまで宇宙で使われてきたGPUと比べて桁違いの計算能力を持つ(Starcloudは“およそ100倍クラス”と説明している)。

現在、衛星は軌道上でGoogleのオープン大規模言語モデルGemmaを実行しており、高性能GPU上でLLMが宇宙空間で動作するのは史上初となる。

Starcloud CEOのPhilip Johnstonは、軌道上データセンターのエネルギーコストは地上の10分の1になると述べた。同社は幅と高さ約4キロメートルの5ギガワット軌道上データセンター建設を計画しており、2026年後半には複数のH100チップとBlackwellプラットフォームを搭載した次回衛星を打ち上げる予定である。

From: 文献リンク‘Greetings, earthlings’: Nvidia-backed Starcloud trains first AI model in space as orbital data center race heats up

【編集部解説】

国際エネルギー機関のデータによれば、2024年時点で世界のデータセンターは約415テラワット時の電力を消費しており、これは世界全体の電力消費の約1.5%に相当します。生成AI の普及によってこの数字は急速に膨らんでおり、2030年には現在の2倍以上になると予測されています。加えて、大規模データセンターは冷却のために1日あたり500万ガロンもの水を消費するという深刻な環境負荷を抱えています。

軌道上データセンターが注目される理由は、宇宙空間特有の環境優位性にあります。太陽光は地球の昼夜サイクルや大気による減衰の影響を受けず、同じ面積のソーラーパネルで地上の5倍以上の発電効率が得られるとされています。また、宇宙の真空環境への放熱により、機械的な冷却システムが不要になり、地上データセンターで電力消費の30〜40%を占める冷却コストが劇的に削減されます。

一方で、技術的課題も山積しています。宇宙空間の強い放射線は通常のチップを劣化させるため、放射線硬化処理が必要です。また、軌道上には既に大量のスペースデブリが存在し、時速約28,000キロメートルで移動するため、小さな破片でさえ衛星に壊滅的なダメージを与える可能性があります。長期的なメンテナンスや、急速に進化するチップの更新をどう実現するかという運用面の課題も残されています。

さらに見逃せないのは、この技術が地政学的な意味合いも持つという点です。OpenAIのSam AltmanがSpaceXの競合企業との提携を模索していることからも分かるように、軌道上コンピューティングは単なる環境技術ではなく、次世代インフラの覇権を握るための戦略的資産になりつつあります。

【用語解説】

Nvidia H100
Nvidiaが開発した高性能GPU(グラフィックス処理ユニット)で、AI訓練や大規模言語モデルの推論に特化した設計となっている。従来の宇宙用GPUと比較して100倍の計算能力を持つ。

Gemma
GoogleがGemini AIモデルと同じ技術を用いて開発したオープンソースの大規模言語モデル(LLM)。軽量で柔軟性が高く、さまざまな環境での実行が可能となっている。

NanoGPT
OpenAI創設メンバーのAndrej Karpathyが開発した小型の言語モデル。教育目的で設計されており、GPTアーキテクチャの基本原理を学ぶために使用される。

Blackwellプラットフォーム
Nvidiaの次世代AIコンピューティングアーキテクチャ。H100の後継として開発され、より高い性能とエネルギー効率を実現する。

テラワット時(TWh)
電力量の単位で、1テラワット時は10億キロワット時に相当する。大規模なエネルギー消費を表現する際に用いられる。

スペースデブリ
宇宙空間に存在する人工的な破片や不要となった衛星の残骸。時速約28,000キロメートルで移動するため、稼働中の衛星や宇宙ステーションに衝突すると深刻な損傷を与える可能性がある。

【参考リンク】

Nvidia Inception(外部)
Nvidiaが提供するスタートアップ支援プログラム。AI・データサイエンス分野のスタートアップに技術サポートや市場開拓支援を提供する。

Y Combinator(外部)
シリコンバレーを拠点とする世界有数のスタートアップアクセラレーター。Airbnb、Dropbox、Stripeなど多数の有名企業を輩出している。

Capella Space(外部)
合成開口レーダー(SAR)を用いた衛星画像観測企業。天候や時間帯に関係なく地球表面の高解像度画像を提供する。

Crusoe Energy(外部)
エネルギー効率に特化したクラウドインフラストラクチャ企業。余剰エネルギーを活用したコンピューティングサービスを展開している。

Lonestar Data Holdings(外部)
月面データセンターの構築を目指す企業。月の安定した環境を利用したデータストレージとコンピューティングサービスを計画している。

【参考記事】

Future Data Centers Could Orbit Earth, Powered by the Sun and Cooled by the Vacuum of Space(外部)
2024年時点で世界のデータセンターは約415テラワット時の電力を消費しており、これは世界全体の電力消費の約1.5%に相当する。大規模データセンターは冷却のために1日あたり500万ガロンの水を消費する。

How Starcloud Is Bringing Data Centers to Outer Space – NVIDIA Blog(外部)
NvidiaによるStarcloudの公式紹介記事。軌道上データセンターの技術的詳細と、H100 GPUが宇宙環境でどのように動作するかについて解説している。

Space-Based Data Centers Are Shaping Digital Infrastructure(外部)
地上データセンターの電力消費の30〜40%が冷却に使用されていること、軌道上データセンターがこのコストを劇的に削減できる可能性について詳述している。

【編集部後記】 

データセンターのエネルギー消費が2030年には2倍以上になるという予測を知ったとき、皆さんはどう感じますか。私たちが日常的に使うChatGPTや画像生成AIが、実は膨大な電力と水を消費しているという事実に、少し複雑な気持ちになりました。

宇宙というフロンティアが、環境問題の解決策になるかもしれない——そんな可能性にワクワクする一方で、新たな宇宙デブリ問題やメンテナンスの課題も気になります。皆さんは、この軌道上データセンターという選択肢をどう思われますか。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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