MITとスタンフォード大、つる植物型ロボットグリッパーを開発――介護現場の負担軽減へ

[更新]2025年12月12日

MITとスタンフォード大、つる植物型ロボットグリッパーを開発――介護現場の負担軽減へ - innovaTopia - (イノベトピア)

つる植物のように静かに伸び、ガラスの花瓶も人の身体もまとめてやさしく包み込むロボットが登場しました。
「つかむ」から「巻き付いて支える」へ――MITとスタンフォードが描く、ソフトロボティクス時代の介護と物流の未来を追います。


2025年12月10日付で、MITとStanford Universityの研究チームが、つる植物に着想を得たロボットグリッパーを開発したと発表した。開発者はMIT Department of Mechanical EngineeringのKentaro Barhydt、Stanford UniversityのO. Godson Osele、MITのHarry Asada、Stanford UniversityのAllison Okamuraらである。

このロボットは加圧されたボックスから伸びるチューブが成長し、対象物の周囲を巻き付いて持ち上げる構造である。Science Advancesに論文が掲載され、ガラスの花瓶やスイカ、人間の身体などの持ち上げに成功した事例が示された。研究チームは、エルダリーケア、農業、港湾や倉庫での荷役などへの応用可能性に言及している。研究資金はNational Science FoundationおよびFord Foundationが支援した。

From: 文献リンクVine-inspired robotic gripper gently lifts heavy and fragile objects | MIT News

 - innovaTopia - (イノベトピア)
MIT Newsより引用

【編集部解説】

この技術が画期的なのは、ロボットグリッパーの設計思想そのものを変えようとしている点です。従来のロボットハンドは「つかむ」動作に特化していますが、このつる植物型グリッパーは「巻き付いて包み込む」という生物の知恵を採用しています。

最大の特徴は「オープンループとクローズドループの切り替え」という概念にあります。まず加圧された空気で薄いチューブが内側から裏返るように伸び、対象物の周囲や下に潜り込みます。その後、チューブが元のボックスに戻って固定されることで閉じたループを形成し、ウインチで巻き上げる仕組みです。

介護現場での応用可能性は特に注目に値します。ベッドから車椅子への移乗は介護者にとって最も身体的負担の大きい作業のひとつとされており、現在は介護者が患者を横向きにしてハンモック状のシートを敷き、機械式リフトで吊り上げる方法が一般的です。この新技術では、ロボットのつるが患者の身体の下を這うように潜り込み、介護者が身体を動かさずともスリング状の支持構造を自動形成できます。

技術的な系譜としては、Stanford大学のOkamura教授らが先駆的に開発してきた「先端から成長する柔軟ロボット」の発展形です。これまでのつる型ロボットは捜索救助や狭所点検に用いられてきましたが、今回MITチームとの共同研究により、持ち上げ動作という新しい応用領域が切り開かれました。

この設計は、商用ロボットアームに取り付け可能な小型版も開発されており、農業収穫、港湾倉庫での荷役、重量物の自動クレーン操作など、エルダーケア以外への展開も視野に入っています。スイカ、ガラス花瓶、ケトルベル、金属棒の束、遊具用ボールなど、形状も重量も異なる物体を安全に持ち上げられることが実証されています。

柔軟素材を用いたソフトロボティクスは、ヒューマノイド型ロボットと比較して低コストで安全性が高く、特定の人間のニーズに最適化しやすいという利点があります。今回の研究はNational Science FoundationとFord Foundationの支援を受けており、学術的基盤も確立されています。

【用語解説】

ソフトロボティクス
柔軟な素材を用いたロボット工学の分野。従来の硬い金属やプラスチックではなく、シリコンやゴムなどの柔軟素材を使用することで、人間や繊細な物体との安全な接触を実現する。

オープンループ/クローズドループ
オープンループは一方向に伸びる開いた構造、クローズドループは始点と終点が接続された閉じた構造を指す。本ロボットはこの二つの形態を切り替えることで、対象物への接近と持ち上げを実現している。

移乗
介護や医療現場において、ベッドから車椅子、車椅子からトイレなど、患者を別の場所へ移動させる行為。介護者の腰痛原因の最大要因とされる。

【参考リンク】

Science Advances(外部)
米国科学振興協会が発行する査読付きオープンアクセス学術誌。科学技術分野の重要な研究成果を迅速に公開する。

Stanford University – Department of Mechanical Engineering(外部)
スタンフォード大学機械工学科の公式サイト。Okamura教授らのソフトロボティクス研究の拠点。

MIT Department of Mechanical Engineering(外部)
MIT機械工学科の公式サイト。Asada教授らが高齢者支援ロボットの研究を推進している。

National Science Foundation (NSF)(外部)
米国の独立政府機関で科学技術研究への資金提供を行う。本研究にも資金支援を提供している。

【参考記事】

Soft vine robot wraps fragile items, even lifting human bodies safely(外部)
つる型ロボットの技術的特徴と、人間の身体を安全に持ち上げられる能力について焦点を当てた記事。

This Vine-Like Grasper Gives Robots a Secure Yet Gentle Touch(外部)
空気圧駆動による成長メカニズムと、オープンループからクローズドループへの変換プロセスを技術的観点から分析。

Biomimetic Vine Gripper Demonstrates Versatile Lifting Capacity(外部)
バイオミメティクス(生物模倣)の観点から、つる植物型グリッパーの多様な持ち上げ能力を評価している。

【編集部後記】

介護の現場で働く方々の身体的負担を、テクノロジーはどこまで軽減できるのでしょうか。つる植物のように柔らかく巻き付くロボットは、これまでの「つかむ」発想とは異なる優しさを持っています。

みなさんの身近な環境で、この技術が活きる場面を想像してみませんか。重くて壊れやすいものを運ぶ作業、狭い場所での持ち上げ動作——ソフトロボティクスが切り開く未来の可能性について、ぜひご一緒に考えていければと思います。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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