SwissBorgとMastercardが組む暗号資産デビットカード─BORGリワードとリアルタイム換算の仕組み

SwissBorgとMastercardが組む暗号資産デビットカード──BORGリワードとリアルタイム換算の仕組み - innovaTopia - (イノベトピア)

暗号資産は「増やす」だけの存在から、「使う」フェーズへと踏み出そうとしている。
SwissBorgとMastercardの提携は、その境界線を一気に押し広げる一手になるかもしれない。


2025年12月11日、SwissBorgはMastercardとの提携により、SwissBorg Crypto Cardを発表した。このカードはSwissBorgアプリと一体化した暗号資産デビットカードで、Mastercardが利用できる150 million以上の加盟店での支払いに対応する。

支払い時には、BORGやBTC、ETH、SOL、各種ステーブルコインなどの暗号資産が、SwissBorg Meta-Exchangeを通じてリアルタイムに法定通貨へ変換され、居住国に応じたCHF、GBP、EURで決済される。取引手数料の一部はBORGとして最大90%キャッシュバックされ、Loyalty Rankと紐づいたリワードや特典が用意されている。

バーチャルカードはQ1 2026にEEA、United Kingdom、Switzerlandを含む30カ国で展開予定で、Series A投資家が優先的に対象となる。

From: 文献リンクThe SwissBorg Crypto Card with Mastercard

【編集部解説】

SwissBorgとMastercardの提携は、「暗号資産をどこで使うのか」という問いの重心を、取引所や一部のオンライン決済から、日常の生活圏へとシフトさせる試みです。SwissBorg Crypto Cardは、アプリ内での投資・運用と、実店舗やオンラインでの支払いをシームレスにつなげる設計になっており、暗号資産の出口戦略そのものを包括的なユーザー体験として再定義しようとしています。

技術面の要となるMeta-Exchange(MEX)は、複数の中央集権型・分散型取引所や複数チェーンを横断し、決済の裏側で最適な交換ルートを探します。ユーザーは、BORGやBTCといった「どの資産から優先的に使うか」をアプリ側で設定でき、残高不足時にはバックアップ資産が自動的に使われるため、「どの資産を、どの順番で減らすか」というポートフォリオ設計も決済体験の一部として組み込まれているのが特徴です。

経済設計の観点では、「Paid to Trade」で導入されたBORGキャッシュバックモデルを、日常支出に拡張した「Paid to Spend」がポイントになります。暗号資産から法定通貨への変換時に生じる手数料の一部でBORGをオープンマーケットから買い戻し、それを最大90%のキャッシュバックとして配布することで、トークン需要とユーザーの利用インセンティブを同時に設計しています。これにLoyalty Rankが組み合わさることで、「どれだけ使うか」が、そのままエコシステム内でのポジション強化につながる構図が生まれています。

一方で、こうしたカードは利便性の裏側にいくつかのリスクも抱えています。暗号資産価格のボラティリティは依然として大きく、長期保有を前提とした資産を日々の支払いに回すことが、本来の投資戦略と矛盾するケースもありえます。また、多くの国では暗号資産の売却が課税イベントになりうるため、「カードで1杯のコーヒーを買うこと」がどのような税務上の扱いになるのか、居住国ごとに注意する必要があります。

規制やコンプライアンスの側面で重要なのは、SwissBorgが独自にカードを発行するのではなく、Mastercardのネットワークとルールセットに乗っている点です。これにより、KYC/AMLや不正検知、チャージバックなど、既存のカードエコシステムで磨かれてきた安全性の恩恵を受けつつ、暗号資産側のUXをどう最適化するかに集中できる構造になっています。逆に言えば、規制の変更やカードネットワーク側の方針転換が、そのままプロダクトの制約条件になる可能性も意識しておく必要があります。

このニュースは「どこの会社のカードが出たか」という話以上に、「トークンエコノミーの設計」と「決済インフラ」がどのように結びつき始めているかを考えるための素材になりそうです。もし同様のモデルが日本市場にも本格的に入ってきたとき、自分はどの資産を、どの範囲まで日常支出に開放するのか。テクノロジーが整いつつある今こそ、そうしたルールを自分なりに描き直しておくタイミングなのかもしれません。

【用語解説】

SwissBorg Crypto Card
SwissBorgが提供する暗号資産デビットカードで、Mastercardネットワーク上での支払いに対応するプロダクトである。

Crypto debit card
暗号資産を保有したまま、決済時に自動で法定通貨へ換金して支払う仕組みを備えたデビットカードの総称である。

Meta-Exchange(MEX)
SwissBorgが提供するルーティングエンジンで、複数の取引所やブロックチェーンを横断して最適なレートで暗号資産を売買する仕組みである。

BORG
SwissBorgエコシステムのネイティブトークンで、キャッシュバックやロイヤリティランクの算定指標として利用される。

Loyalty Rank
SwissBorgアプリ内での保有資産や利用状況に応じて決まるランクで、キャッシュバック率や各種報酬に影響する仕組みである。

Paid to Trade / Paid to Spend
取引や決済時に発生する手数料の一部をBORGで還元するSwissBorg独自のインセンティブモデルを指す概念である。

3D Secure
オンラインカード決済時に追加認証を行い、不正利用を抑制する目的で導入されているセキュリティ技術である。

Virtual card
物理カードではなく、アプリ内でカード番号などを発行し、オンラインやモバイル決済に利用するカード形態を指す。

【参考リンク】

SwissBorg(外部)
暗号資産アプリや投資サービスを提供するフィンテック企業で、Meta-ExchangeとBORGトークンを中心にエコシステムを展開している。

SwissBorg Crypto Card(外部)
SwissBorgとMastercard提携による暗号資産デビットカードの概要や対応国、リワード設計などを紹介する公式プロダクトページである。

SwissBorg Meta-Exchange(外部)
複数の取引所とブロックチェーンを横断し、最適レートでトレードを実行するSwissBorgのルーティングエンジンの仕組みを解説している。

Paid to Trade & $BORG Buyback Model(外部)
取引手数料を原資としたBORGの買い戻しとキャッシュバックモデルについて、経済設計の観点から詳しく説明する公式ブログ記事である。

Loyalty Ranks – Paid to Trade(外部)
SwissBorgアプリにおけるロイヤリティランクの条件や特典、BORG報酬との関係性について解説しているヘルプセンターのドキュメントである。

Mastercard(外部)
グローバルにカード決済ネットワークを提供する企業であり、SwissBorg Crypto Cardの決済インフラとセキュリティ基盤を担うパートナーである。

【参考記事】

SwissBorg unveils Mastercard-powered crypto card(外部)
SwissBorgとMastercardの提携内容や、30カ国で利用可能な暗号資産デビットカードの概要、リアルタイム換算機能などを簡潔に整理したニュースアップデートである。

SwissBorg and Mastercard Team Up for Seamless Crypto-to-Fiat Payments(外部)
SwissBorg Crypto Cardの決済フロー、Meta-Exchangeによるレート最適化、加盟店側には法定通貨が届く仕組みなど、ユーザー体験の流れに焦点を当てて解説している。

SwissBorg Partners With Mastercard To Launch Crypto Debit Card(外部)
提携の背景やQ1 2026ローンチ、対象となる30カ国、暗号資産から法定通貨への変換プロセスなどを、数字とともに紹介する記事である。

Swissborg and Mastercard Launch Crypto Debit Card to Drive Global Spending Adoption(外部)
グローバルな支払い利用の拡大という観点から、SwissBorg Cardの採用メリットやキャッシュバック設計、Mastercardネットワークを活用したスケーラビリティを論じている。

SwissBorg Debit Card Mastercard Expands Crypto Payments(外部)
既存の暗号資産カードとの違いに着目し、Meta-Exchangeの役割やBORGトークン中心のエコシステムが決済にどう組み込まれているかを解説する記事である。

SwissBorg’s Paid to Trade & $BORG Buyback Model(外部)
SwissBorgのキャッシュバックモデルやBORG買い戻しの仕組みを紹介し、今回の「Paid to Spend」を理解するうえでの前提となるトークン経済の設計を説明している。

Paid to Trade: Introducing Loyalty Ranks & Cashback at SwissBorg(外部)Loyalty Rankとキャッシュバックの基本構造を紹介し、ユーザー行動とBORG報酬の結びつきを理解するための補助的な情報を提供している公式ブログ記事である。

【編集部後記】

暗号資産を「投資口座の中だけに置いておくか」「日常の支払いにまで広げるか」は、人によって答えが変わるテーマだと思います。SwissBorg Crypto Cardのような取り組みは、その境界線を少しずつ手前に引き寄せていく動きの一つに見えます。

もし似たようなカードが日本で本格的に使えるようになったとしたら、どの支出から試してみるでしょうか。あるいは、長期で持ちたい銘柄を決済に回すことに、どのくらい抵抗感があるか。一緒にイメージしてみることで、自分なりの「暗号資産との付き合い方」が少しクリアになるかもしれません。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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