Youbiquo Leonardo XR:イタリア発エンタープライズVRヘッドセット、旧世代チップで長時間稼働とGDPR準拠を実現

[更新]2025年12月14日

 - innovaTopia - (イノベトピア)

イタリアのYoubiquo社が、エンタープライズ向けVRヘッドセット「Leonardo XR」を開発した。南イタリアを拠点とする同社は、最高性能ではなく、手頃な価格と長時間トレーニングに最適化した製品を顧客ニーズに基づいて設計した。Quest 2と同じXR2 Gen 1チップセット、1600×1600ピクセルの解像度を採用し、Quest 3を上回る5500 mAhバッテリーを搭載する。

重量436gで、halo crown(ハロークラウン)による装着システムにより顔への重量負荷を軽減している。カラーパススルー、ハンドトラッキング、GDPR準拠のMDMソフトウェアを備える。価格は600ユーロで、Pico 4 Ultra Enterpriseより100ユーロ安い。将来的にはサーマルカメラの開発も進めており、EU圏内の防衛セクターでの採用が期待される。

From: 文献リンクYoubiquo: an enterprise VR headset made in Italy

【編集部解説】

Leonardo XRは、「VRトレーニングを”現場インフラ”にする」ための、かなり割り切ったプロダクトです。スペック表だけ眺めていると地味ですが、エンタープライズ利用を前提にすると、その設計思想はむしろラディカルです。

「壊れにくく、変わりにくい」ことの価値

エンタープライズの現場で一番嫌われるのは、「年度ごとに挙動やUIが変わるデバイス」です。Leonardo XRがXR2 Gen 1や1600×1600という解像度にあえてとどめているのは、最新鋭ではなく「数年単位で仕様が安定すること」を優先した結果と見なせます。トレーニングコンテンツ側も、ハイエンド向けのグラフィックスではなく、安定したフレームレートと長時間稼働を前提に設計できるため、「一度作ったら5年以上使い倒す」前提の業務シナリオと相性が良い構造です。

現場での”集団利用”を見据えた設計

ハロークラウン式の装着、マグネット式のフェイスマスク、長時間駆動のバッテリーといった仕様は、「1人のパワーユーザー」ではなく「1日のうちに何人もが次々に使う環境」を意識したデザインです。特にVRトレーニングでは、職場の安全教育や工場の技能継承など、大人数が短時間でローテーションする使い方が一般的になりつつあり、衛生面のクリーニングや装着調整コストの低さが運用コストに直結します。

「欧州製ヘッドセット」という政治性

Leonardo XRの本当の武器は、スペックより「イタリア発のEU企業製ヘッドセット」である点です。バーチャル空間上で動作ログや位置情報、生体に近い行動パターンまで収集しうるVRデバイスは、GDPRの文脈では”監視インフラ”に近い扱いを受けつつあります。防衛・重要インフラ・公共機関では、「どの国の法域に縛られた企業がハードウェアとクラウドを握っているか」が調達可否の条件になりつつあり、その意味でLeonardo XRは”技術製品”であると同時に”地政学的オプション”としての意味合いを持ちます。

サーマルカメラが開く”現場DX 2.0″

前面へのサーマルカメラ搭載構想は、VRトレーニングを「シミュレーション」から「リアルタイムな現場拡張」へ進化させる可能性があります。例えば、工場設備の温度異常検知や電気系統のホットスポット確認を、現場の作業者がMR空間上で可視化しながらトレーニング・実務を行うといったワークフローが現実味を帯びます。これにより、従来は「熟練者の勘」に依存していた判断を、デバイス+コンテンツ側に徐々にオフロードしていく道が見えてきます。

ポジティブなインパクトと見落としがちなリスク

ポジティブな点としては、中小企業や地方の製造業でも導入しやすい価格帯と仕様、トレーニング内容の標準化・可視化による安全性向上、EU法遵守を前提にしたデータ管理モデルの提示などが挙げられます。一方で、リスクや限界も見えてきます。XR2 Gen 1前提の設計は、数年後にAIアシスタントや高精細なリモートコラボレーションといった”次の波”を取り込む際の足かせになる可能性があります。また、トラッキング精度やパススルー品質がトップ層に届かない場合、「一度高度なデバイスを使ったユーザーが、あえてLeonardo XRを選び続ける理由」をどう作るかが課題になります。

「標準機」ポジションを取れるか

長期的には、Leonardo XRが「VRトレーニングの事実上の標準機」になれるかどうかがポイントです。Pico 3 Enterpriseのような前世代機が市場から徐々にフェードアウトする中で、「最新ではないが、調達し続けられる安定機種」という立ち位置を確保できれば、コンテンツベンダー側が”Leonardo前提のテンプレート”を作りやすくなります。そのポジションを取れたとき、Leonardo XRは単なる一機種ではなく、「欧州発の産業用XRスタック」のハブとして、ハード・MDM・トレーニングコンテンツ・規制対応を束ねる存在になり得ます。

【用語解説】

halo crown(ハロークラウン)

頭の周囲をぐるりと囲むリング状のヘッドバンド構造。重量を額や頭全体に分散しやすい一方、目とレンズの距離調整がシビアになりやすい装着方式です。PlayStation VRなどでも採用されており、長時間装着時の顔への圧迫感を軽減できる利点がありますが、ヘッドセット本体と目の距離が遠くなりがちで、FOVが狭く感じられる場合があります。

【参考リンク】

Leonardo XR – Youbiquo公式製品ページ(外部)
Leonardo XRの公式スペック、用途、対象市場、オプション機能(サーマルカメラ構想など)を確認できる製品紹介ページです。エンタープライズ向けの具体的な活用シーンや導入事例も紹介されています。

What Enterprise VR Headset Should I Buy? – ArborXR(外部)
エンタープライズ向けVRヘッドセットの選定ポイントや、主要機種の比較軸(価格、MDM対応、サポート体制など)を整理したガイド記事です。Leonardo XRの競合となるPico、Quest、HTC Viveシリーズとの比較検討に役立ちます。

Data protection and privacy in virtual worlds – European Commission(外部)
EUがバーチャルワールドやXRデバイスに対してどのようにデータ保護・プライバシー規制を適用しているかを解説した政策ドキュメントです。GDPR準拠がエンタープライズVR導入において重要になる背景が理解できます。

【編集部後記】

イタリア発のエンタープライズVRヘッドセット、Leonardo XR。最新スペックを追わず、あえて旧世代チップセットと控えめな解像度で「長時間稼働」「低価格」「GDPR準拠」を武器にする戦略は興味深いですね。大人数が交代で使う現場では、装着の快適性や衛生管理が運用コストに直結します。サーマルカメラ搭載構想も、工場の設備点検や電気系統の異常検知をMR空間で可視化できれば、トレーニングと実務の境界が曖昧になりそうです。防衛や重要インフラでは「どの国の企業が作ったか」が調達条件になる時代、EU製という地政学的な意味も見逃せません。職場へのVRトレーニング導入を検討する際、スペックと実用性のバランスをどう見極めるべきでしょうか?

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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