IBMは2026年1月2日、初のQuantum NighthawkプロセッサであるIBM_Miamiを発表した。IBM_Pittsburgh QPUの後継機で、PremiumプランおよびFlexプランを通じて早期アクセスプレビューとして提供される。T1コヒーレンス時間の中央値は約350マイクロ秒で、IBM量子プロセッサ史上最高値を記録した。
2025年11月に初めて発表されたNighthawkは、120量子ビットを218個の次世代チューナブルカプラーで正方格子状に結合している。Quantum Heronチップより20パーセント多くのカプラーに接続され、30パーセント高い複雑性の回路を実行可能で、最大5,000個の2量子ビットゲートを必要とする問題に対応する。将来の反復版では2026年末までに7,500ゲート、2027年には10,000ゲートの実現が期待される。IBMは2026年末までに量子アドバンテージを達成し、2029年までにフォールトトレラント量子コンピュータを開発する目標を掲げている。
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IBM launches first Quantum Nighthawk processor
【編集部解説】
IBMが発表したNighthawkプロセッサの初号機IBM_Miamiは、量子コンピュータの実用化に向けた重要な一歩となります。特に注目すべきは、T1コヒーレンス時間が約350マイクロ秒という記録的な数値を達成した点です。
コヒーレンス時間とは、量子ビットが量子状態を維持できる時間のこと。この時間が長ければ長いほど、より複雑な計算を実行する余地が生まれます。350マイクロ秒という数字は一見短く感じられるかもしれませんが、量子コンピュータの世界では大きな進歩といえるでしょう。
Nighthawkが前世代のHeronと比べて20%多いカプラーを搭載している点も重要です。カプラーは量子ビット同士を接続する役割を担い、その数が多いほど複雑な量子回路を構築できます。これにより30%高い複雑性の計算が可能になったことで、創薬や材料科学、金融モデリングといった分野での応用範囲が広がることが期待されます。
IBMが掲げる「量子アドバンテージ」とは、量子コンピュータが古典コンピュータを上回る性能を示す転換点を指します。2026年末という具体的な目標時期を設定したことは、同社の技術的自信の表れといえます。ただし、この主張を検証するため、IBMは「量子アドバンテージトラッカー」という公開システムを立ち上げ、第三者による検証を受け入れる姿勢を示しています。
現時点では「探索的な早期アクセス」という位置づけであり、実用的なアプリケーションの開発はこれからです。量子エラー訂正の課題も残されており、2029年に目指すフォールトトレラント(耐故障性)量子コンピュータの実現が、真の実用化への鍵となるでしょう。
IBMはNighthawkの製造を300mmウエハー製造施設に移行することで、研究開発のスピードを倍増させています。この製造プロセスの進化により、2026年末には7,500ゲート、2027年には10,000ゲートという段階的な性能向上が計画されており、量子コンピュータの産業化に向けた着実な歩みが進んでいます。
【用語解説】
量子ビット(キュービット)
量子コンピュータにおける情報の最小単位。古典コンピュータのビットが0か1のどちらかの状態を取るのに対し、量子ビットは0と1の状態を同時に取ることができる(重ね合わせ)。この性質により、複数の計算を並列に実行することが可能になる。
T1コヒーレンス時間
量子ビットが量子状態を維持できる時間を示す指標の一つ。T1は特にエネルギー緩和時間を指し、量子ビットが励起状態から基底状態へ遷移するまでの時間を表す。この時間が長いほど、より複雑な量子計算を実行する余裕が生まれる。
チューナブルカプラー
量子ビット同士を接続し、相互作用の強さを調整可能にする素子。次世代型では接続の精度と制御性が向上しており、より複雑な量子回路の構築を可能にする。
2量子ビットゲート
2つの量子ビット間で量子もつれ(エンタングルメント)を生成する基本的な量子演算。量子計算の複雑さは、実行可能な2量子ビットゲートの数で評価されることが多い。
量子アドバンテージ
量子コンピュータが、特定の問題において古典コンピュータのあらゆる手法を上回る性能を示す転換点。単に速度が速いだけでなく、古典コンピュータでは実質的に解けない問題を解決できることを意味する。
フォールトトレラント量子コンピュータ
量子エラー訂正機能を備え、計算中に発生するエラーを自動的に検出・修正できる量子コンピュータ。量子ビットは外部環境の影響を受けやすく誤りが生じやすいため、実用的な量子コンピュータには耐故障性が不可欠とされる。
量子回路
量子ビットに対する一連の量子ゲート操作を組み合わせたもの。古典コンピュータの論理回路に相当する。回路の複雑性は、含まれる量子ゲートの数や深さで表される。
【参考リンク】
IBM Quantum(外部)
IBMの量子コンピューティング事業公式サイト。量子プロセッサへのクラウドアクセスや開発ツールQiskitの情報を提供。
IBM Research(外部)
IBM Research全体の研究活動を紹介。量子コンピューティング、AI、半導体技術など先端研究プロジェクトを発信。
Qiskit(外部)
IBMが開発するオープンソース量子コンピューティングSDK。量子回路の設計、シミュレーション、実機実行が可能。
【参考記事】
IBM Delivers New Quantum Processors, Software, and Algorithm Breakthroughs on Path to Advantage and Fault Tolerance(外部)
IBMの公式プレスリリース。Nighthawkの技術仕様と2028年までのロードマップを詳述。
IBM pushes toward quantum advantage by 2026 with new Nighthawk processor(外部)
Heronとの性能比較と量子アドバンテージトラッカーの役割を解説した技術記事。
IBM unveils new ‘Quantum Nighthawk’ 120-qubit processor and software stack(外部)
Heronの99.9%以上のゲート忠実度と実験的プロセッサLoonについて報告。
IBM Advances Quantum Roadmap with Nighthawk Processor and 300mm Wafer Fabrication Shift(外部)
300mmウエハー製造への移行によるR&D加速とqLDPC復号化の高速化を解説。
【編集部後記】
量子コンピュータが「いつか来る未来」から「もうすぐ触れられる現実」へと変わりつつあります。IBMが2026年末に量子アドバンテージを達成すると宣言したことは、この分野の転換点になるかもしれません。
みなさんの業界や関心分野で、量子コンピュータが解決できそうな課題はあるでしょうか。創薬、材料開発、金融モデリング、暗号技術など、影響を受ける領域は多岐にわたります。みなさんはどの応用分野に最も関心をお持ちですか。
































