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中国発DeepSeek、12カ国が使用制限――AIコスト革命の裏にある地政学リスク

中国発DeepSeek、12カ国が使用制限――AIコスト革命の裏にある地政学リスク - innovaTopia - (イノベトピア)

中国のAIスタートアップDeepSeekは2025年1月にChatGPTに匹敵するAIモデルを低コストで開発したと発表したが、その後セキュリティとプライバシー慣行について各国の監視下に置かれている。

同社は個人データを中国国内のコンピューターに保存しているとされ、2025年内に様々な国が措置を講じた。オーストラリアは2月初旬に政府デバイスでの使用を禁止し、チェコは7月に公的機関での使用を禁止した。フランスは2025年1月に調査を表明し、ドイツは6月にAppleとGoogleにストアからの削除を要請した。インドは2月初旬に財務省職員に使用回避を要請し、イタリアは2025年1月にアプリをブロックした後、調査を開始した。

オランダは1月末に調査を開始し、7月に公務員の使用を禁止した。韓国は2月中旬に新規ダウンロードを停止したが4月末に再開した。台湾は2月に政府機関での使用を禁止した。

米国では4月にトランプ政権が罰則を検討していると報じられ、12月に9人の議会議員が国防総省にDeepSeekを中国軍支援企業リストに追加するよう要請した。

また他にも英国当局は政府用スマートフォンでの同アプリの使用を禁止し、カナダでも「深刻なプライバシーの懸念」を理由に、政府の一部モバイルデバイスでの使用が禁止されており、他の省庁にも同様の措置を取るよう求めている。

(追記)その他にもデンマークベルギーなどでもdeepseekの利用に関しての措置を講じています。

From: 文献リンクGovernments, Regulators Increase Scrutiny of Chinese AI Startup DeepSeek

文献リンクUK Warns DeepSeek Users of Data Risks But Won’t Yet Ban It

文献リンクDeepSeek banned on some Canadian government devices over privacy fears

【編集部解説】

このニュースは、AIをめぐる地政学的な対立が新たな局面に入ったことを示しています。DeepSeekは2025年1月に突如として登場し、わずか29.4万ドル(約4300万円)という驚異的な低コストでChatGPTに匹敵するモデルを開発したと発表しました。これはOpenAIがGPT-4のトレーニングに費やした1億ドル以上と比較すると、実に300分の1以下のコストです。

技術的な革新性とコスト効率の高さは称賛に値しますが、同時に深刻なセキュリティ上の懸念も浮き彫りになりました。DeepSeekはオープンソースモデルとして公開されており、誰でもダウンロードして改変できる設計になっています。

しかし、この自由度の高さが裏目に出ています。セキュリティ研究によれば、DeepSeekは他の主要AIモデルと比較して11倍も悪意ある攻撃者に悪用されやすく、エージェントハイジャック(AIに悪意ある指示を従わせる攻撃)のリスクは12倍も高いことが判明しました。OpenAIやGoogleのような企業が厳格な安全対策やリアルタイム監視システムを実装しているのに対し、DeepSeekはコスト効率と迅速な展開を優先した結果、基本的なセーフガードが不足しているのです。

各国政府が最も警戒しているのは、データの保存場所です。DeepSeekのプライバシーポリシーによれば、ユーザーの個人データは中国国内のサーバーに保存されます。中国の個人情報保護法(PIPL)では、重要データの国外移転に厳しい制限が課されており、理論上は中国政府が法的手続きを通じてこれらのデータにアクセスできる可能性があります。

このような懸念から、世界各国は「データ主権」を守るための措置を講じています。データローカライゼーション法は近年世界的に増加しており、ロシアの連邦法242-FZ、インドのデジタル個人データ保護法など、各国が自国民のデータを自国内に留めようとする動きが加速しています。DeepSeekの登場は、この流れを一層強めるきっかけとなりました。

興味深いのは、各国の対応が必ずしも統一されていない点です。ロシアはDeepSeekとの協力を指示し、韓国は一度禁止した後に再開するなど、地政学的な立場によって判断が分かれています。また、米国では民間企業の利用は禁止されていませんが、政府機関や軍関係では制限されており、規制の粒度も国によって異なります。

長期的に見ると、このケースはAI産業における「信頼」の価値を浮き彫りにしています。技術的な性能やコスト効率だけでなく、データガバナンス、透明性、セキュリティ対策の質が、グローバル市場での成否を左右する時代に突入したと言えるでしょう。DeepSeekの事例は、今後登場する他の低コストAIモデルに対しても、各国政府がどのような基準で評価・規制するかの先例となる可能性があります。

【用語解説】

データローカライゼーション
データを特定の地理的領域内に保存し、国境を越えた移転を制限する法的要件や政策のこと。各国が自国民のデータ主権を守るために導入している。

データ主権
国家が自国の領土内で生成・保管されるデータに対して持つ管轄権や統制権のこと。デジタル時代における国家主権の重要な側面とされる。

オープンソースモデル
ソースコードや学習済みモデルが一般に公開され、誰でも自由に使用・改変・配布できるAIモデルのこと。透明性が高い反面、悪用のリスクも伴う。

エージェントハイジャック
AIシステムに対して悪意ある指示を注入し、本来の動作を乗っ取る攻撃手法。AIエージェントが意図しない行動を取らされる危険性がある。

PIPL(中国個人情報保護法)
2021年11月に施行された中国の個人情報保護に関する法律。Personal Information Protection Lawの略称で、データの国外移転に厳格な制限を設けている。

セーフガード
AIシステムが有害な出力を生成したり、悪用されたりすることを防ぐための技術的・運用的な安全対策のこと。フィルタリング、監視、制限機能などを含む。

【参考リンク】

DeepSeek公式サイト(外部)
中国・杭州を拠点とするAI企業DeepSeekの公式サイト。ChatGPT対抗の大規模言語モデルを低コストで開発し、チャットボットサービスやAPIを提供。

OpenAI / ChatGPT(外部)
ChatGPTを開発したOpenAIの公式チャットサービス。GPT-4などの最先端AIモデルを提供する対話型AIプラットフォーム。

【参考記事】

China’s DeepSeek shook the tech world. Its developer just revealed the cost of training the AI model(外部)
DeepSeekのトレーニングコストは29.4万ドルで、OpenAIのGPT-4と比較して300分の1以下という驚異的な低コストを実現。

DeepSeek vs OpenAI (2025): Who’s Winning the AI War?(外部)
DeepSeekとOpenAIの技術的・コスト的比較を詳細に分析。数百分の1のコストでGPT-4レベルの性能を実現した点に焦点。

DeepSeek Highlights Cybersecurity Risks in Open-Source AI Models(外部)
DeepSeekが他の主要AIモデルと比較して11倍悪用されやすく、エージェントハイジャックのリスクは12倍高いと報告。

Delving into the Dangers of DeepSeek(外部)
CSISによるDeepSeekのセキュリティリスク分析。OpenAIやGoogleの厳格な安全対策と比較して基本的なセーフガードが欠如。

The Global Impact of Data Localization Laws(外部)
データローカライゼーション法が世界的に増加している現状を分析。各国の具体的な取り組みを紹介している。

Governments, regulators increase scrutiny of DeepSeek(外部)
ロイターによる各国政府・規制当局のDeepSeek対応をまとめた包括的な記事。地政学的な立場による判断の相違を詳述。

【編集部後記】

AIの性能とコストだけを追求すれば良い時代は終わりつつあるのかもしれません。DeepSeekの事例は、私たちが日常的に使うAIサービスを選ぶ際に、データがどこに保存され、誰がアクセスできるのかを意識する必要性を投げかけています。

2026年に入り、様々な国からまた新たにAIモデルが発表されていくと思われますが、便利さと引き換えに何を手放しているのか、皆さんはどう考えますか?技術の進化と信頼のバランスについて、一緒に考えていければと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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